イタリアのバイクメーカーアプリリアより発売されているスポーツバイクRS660から、2021年度アメリカ国内選手権Moto Americaでチャンピオンを獲得し、記念モデルとして発売されたリミテッドエディションに試乗したのでレポートさせていただく。

バイク未来総研とは

バイク業界のよりよい未来を考え、新しい価値を調査し、分析した内容を広く社会に発信することを目的に発足。国内外のレースで輝かしい成績を挙げ、現在も多方面で活躍する宮城光氏を所長に向かえ、バイクライフの楽しさやバイク王が持つバイクに関する独自データ分析などの情報発信に加え、ライダーやバイク業界がこれから描く「未来」に切り込んだコンテンツを順次発信します。

RS660 スペック

全長 1995mm
全幅 745mm
ホイールベース 1370mm
シート高 820mm
排気量 659cc
燃料タンク容量 15L
エンジン 4スト 水冷並列2気筒 DOHC 4バルブ
最大出力 100PS / 10,500 rpm
最大トルク 6.83kgf・m  / 8,500rpm
装備重量 183kg
パワーウエイトレシオ 1.7kg / PS

RS660 リミテッドエディションの特徴

RS660リミテッドエディションはMotoAmericaのTwinsCupという中間排気量の2気筒エンジンで争われるレースにおいて、2021年にデビューイヤーにしてチャンピオンに輝くという歴史的な勝利を記念して発売されたモデルで、スター&ストライプをモチーフにしたグラフィックが非常に印象的だ。

この他にも着脱可能なシングルシートフェアリングカバーや、フューエルタンクに刻印されたシリアルナンバー等がライダーの所有欲を満たしてくれる。

RS660の特徴

ミドルクラスにおいてこの100馬力という数字は、実にとてもちょうどいい数字だと筆者は感じている。
一般人が「良く走る」と感じるのは140馬力程度までであり、160馬力、170馬力となってくると相当速く感じ、200馬力まで行くとレーサーでもストリートでは必要と感じることの無いレベルだ。

これから20年、30年経つと変わるかもしれないが、昭和のバイクを知っている世代からすると当時のナナハンに近いイメージで、現行ミドルクラスの100馬力は「良いところに落ち着いた」というイメージを受ける。

装備重量も183kgと軽量で、サイドスタンドを払って車体を起こした瞬間にその軽さを実感する。
国内で発売されているミドルクラスのフルカウルバイクと比較してもその差は歴然だ。

現行国産2気筒ミドルクラス フルカウルバイク スペック比較

メーカー 車種 装備重量 最大出力 最大トルク シート高
aprilia RS660 183kg 100PS / 10,500 rpm 6.83kgf・m  / 8,500rpm 820mm
YAMAHA YZF-R7 188kg 73PS / 8,750rpm 6.8kgf・m  / 6,500rpm 835mm
Kawasaki Ninja650 194kg 68PS / 8,000rpm 6.4kgf・m  / 6,700rpm 790mm

RS660 試乗インプレッション

実際に乗ってみると、軽量な車重の恩恵も相まって、出だしがとてもスムーズでエンジンがストレスなく回ってくれることを体感できる。
コンパクトな車体に扱いやすいエンジンを搭載しているので感情豊かに扱いやすく、ハンドリングやコーナリングがしやすい。ブレーキングからのコーナリングがとても楽しく、ブレーキをかけることがまったく嫌にならない。

走行モードもコミュート、ダイナミック、インディビジュアルの3種類から選ぶことができ、サーキットでも街乗りでも楽しく走ることができる。

アプリリアというメーカーについて

日本ではまだ馴染みが薄い印象があるが、世界規模で見ると性能面やデザインなどとてもバランスが良いため人気も高い。販売台数は、ヨーロッパ最大規模のメーカーで販売台数はDUCATIの10倍ほどだ。
ピアジオグループの傘下に入っており、アプリリア・ピアジオ・ベスパ・モトグッツィの4メーカーの共同体となっている。

ヨーロッパでは製品の信頼度が高く評価されており、日本でも「ピアジオグループジャパン」ができてから国内販売が安定しだしているため、外車を購入検討する上でネックになる部品供給の面でも安心感がある。

筆者もアプリリアRSV4を所有しており、サーキット走行のみで47,000km程走行したが、これだけ走ってACジェネレーターに不具合が起きて交換した程度だ。

販売価格を抑えるためのコストダウン

アプリリアはアルミを曲げる・切る・溶接するなどの工数を削減しようとしており、一見何気ない事に思えるが作りこみのアイデアが満載だ。

フレームに関してはアルミの鋳造フレームを左右対称に作り、ボルト止めをして固定をしている。
溶接のリタッチやヒューマンエラーはコストと時間がかかるため、鋳造を活用して生産コストを減らそうとしているのだ。

不必要なものを減らすことでコストダウンに成功し、車輛の質は落とさず販売価格の抑制につなげているのも特筆すべき点であろう。

RS660はコストパフォーマンスに優れたミドルクラススーパースポーツ

RS660はリッターSSに乗って「バイクは馬力ではない」ということに気づいた人にとっては、とてもコストパフォーマンスに優れた素晴らしいバイクであり、「SSの真の醍醐味」が分かる人が乗る、いわば玄人向けバイクであるとも言える。

実際、「リッタークラスのスペックを使いこなせない」という人は少なくないため、バイクの持っているポテンシャルを引き出して体感したい人におすすめだ。

サーキット走行や街乗り等シーンを選ばず楽しく走ることができ、車重も軽くてポジションも良い。
グラフィックも良くエンジンの制御系も良く、オールラウンダーと言える。

100馬力の十分なパワーに加え、シャーシも250cc~400㏄クラスということから今乗っているバイクからもう少し軽いバイクに乗り換えたいと検討しているライダーにもおすすめだが、
是非、若い人にもRS660にも乗って良い経験をしてほしい

リッターSSを扱いきれずおっかなびっくり乗ってスキルが何も向上しないまま、というのであれば、

RS660に乗ってブレーキングから寝かしこむタイミングであったり、コーナリングのフィーリングを体感してスキルを上げる方が今後のバイクライフがより良くなると感じる。

アプリリアRSV4であれば最高速度は327km/hととても速いが、フルスペックなため約300万円の価格帯となり、また、そのパワーを持て余してしまう人も少なくないだろう。
スポーツバイクは高級仕様になると300万円を超えてしまうことも多い。

かたやRS660であるが、ここまでのスペックや扱いやすさを兼ね備えたバイクをイタリアから輸入して150万円は決して高くないと言える。

購入や乗り換えの際に国産メーカーのみで検討するライダーも多いが、アプリリアRS660も選択肢に含めるとバイクライフの幅も広がるだろう。

筆者プロフィール

宮城光

1962年生まれ。2輪・4輪において輝かしい実績を持つレーサーとして名を馳せ、現在ではモータージャーナリストとしてMotoGPの解説など多方面で活躍中。2022年、バイク未来総研所長就任。