バイクの未来に切り込んでいくコンテンツを発信する『バイク未来総研』
今回は、オートバイ誌編集長対談シリーズ第五弾、モトチャンプ成島編集長にお話を伺いました。
宮城 光所長より2025年11月以降に生産終了すると言われている原付一種の事や編集長になるまでの経歴など、気になることをインタビューしましたのでそちらの様子をどうぞ!


左:成島編集長 右:宮城 光所長

バイク未来総研とは

バイク業界のよりよい未来を考え、新しい価値を調査し、分析した内容を広く社会に発信することを目的に発足。国内外のレースで輝かしい成績を挙げ、現在も多方面で活躍する宮城光氏を所長に迎え、バイクライフの楽しさやバイク王が持つバイクに関する独自データ分析などの情報発信に加え、ライダーやバイク業界がこれから描く「未来」に切り込んだコンテンツを順次発信します。

成島編集長の意外すぎる入社のきっかけとは

宮城所長(以下宮城):本日は宜しくお願い致します。

成島編集長(以下成島):こちらこそよろしくお願いします。まさかこうして宮城さんと直接お話しできる機会が来るなんて思ってもいなかったです。

宮城:いやいや、こちらこそ! それにしても意外な経歴をお持ちと伺ったのですが、まずは成島編集長がモトチャンプに入社したきっかけからお伺いしてもよろしいですか?

成島:はい。実は元々すごいバイクが好きでモトチャンプの編集部に入ったわけではなかったんですよ。

宮城:それは面白いですね。どういう経緯でバイク雑誌社に就職する事になったのでしょうか。

成島:高校を卒業してすぐ職業訓練校に通っていたのですが、タイミングよく姉の紹介でモトチャンプでアルバイトをしないかと声をかけられたのがきっかけでした。

宮城:アルバイトですか! お姉さんのツテという事ですがモトチャンプとどういう関係があったのですか。

成島:当時姉が編集プロダクションに勤めていて、その編集プロの社長の方が当時のモトチャンプの編集長と仲がよくて。当時の編集長が「若い人で誰かアルバイトに来てくれる人はいないか」と姉の勤める編集プロの社長の方が頼まれて、その流れで姉にも声がかかったんです。姉は弟である、僕の存在がパッと思い浮かんだらしく、姉から僕に声がかかった、という訳です。で、二つ返事でOKしました(笑)。

宮城:なるほど!そういう経緯があったのですね。

成島:タイミングよく話が来てやってみるかな、そんな感じのスタートでした。

20数年前は突撃取材が当たり前 !

成島:2000年頃、編集部に入った後くらいからは、当時の僕はいわゆる゛原付小僧“で、友達とチャンバーや駆動系をいじくりまわしていました。
宮城:20数年前だとライブディオとかがまだ全盛期の頃ですね。

成島:そうですね。ライブディオZXとかジョグZRとかが流行っていた時代ですね。

宮城:ああ~、懐かしいです。丁度2000年代くらいですよね。原付というかバイク全体が大きく変わっていく時代ですね。徐々にエンジンが4stに代わっていっている時期ですね。

成島:そうですね。トラッカー系とかがまた人気になり始めた時期ですね。その流れでストリート系が流行ってきて、ズーマーとかエイプみたいなのが出てきて、それをカスタムして乗るみたいなスタイルが流行り始めた頃です。

宮城:モトチャンプの雑誌でもその頃出てきたバイクのカスタム車が多く載っていましたよね。僕もよく見させてもらっていましたよ!

成島:ありがとうございます。それが丁度18~19歳の頃でしたね。

宮城:当時の成島編集長の年齢って、ちょうどバイクに乗り始めて楽しみたいという読者の年齢と同じくらいな訳ですよね。そこがフィットして読者にとって面白い記事になったのではないですか。

成島:そうなってくれていたらうれしいですね。当時の取材の仕方も面白くて、ライダーとの出会いも楽しんでいました。当時は、「ストリートハンティング」といって、街中を走っているライダーをつかまえて突撃取材をしたりしていました。原宿とか渋谷とか一日中張り付いていると、同世代の人とかたくさんいるので話を聞きに行きます。同世代だからということもあって話しやすくて取材もしやすかったですね。

宮城:なるほど。でも街中で話を聞くといってもどうやるのですか。 ライダーだから当然走ってるわけですよね?

成島:それはもうバイクで走って追いかけて、止まったタイミングで話しかけて聞いて(笑)
当時から多くのバイク雑誌さんがありましたが、他社さんも同じようにやっていましたね。

宮城:言われてみれば確かにそういう(突撃取材の)光景を見た事ある気がします。あの時代でいろんなスタイルが生まれましたよね。既存の走りとか速さにとらわれない、ファッションとしてのバイクというか。

成島:仰る通りですね。いろんな流れが生まれていました。

宮城:モトチャンプは現場での取材記事が多くて大変じゃないですか? だからこそ当時の編集長は若くて元気がある人材を探していたんだと思うんですが。

成島:そうですね。モトチャンプはユーザー取材がすごく多くて、中にはめちゃくちゃなカスタムとかされている方の取材もあって。カスタムの仕方もそういう取材を通して勉強しました。
個人のガレージとかで麦茶片手にいろいろお話を聞きながら、バイクのメカニズムとかいろいろ教わりました。「そんな事して大丈夫なの?」と思うようなカスタムをされる方もいました。そういうのを見て、それをどう面白く読者に伝えられるかっていうのを考えて、どうしたら喜んでもらえるかなとか写真を撮ったり記事を考えたりするのが楽しいところです。それが難しいほどやりがいというか、燃えてくるんですよね。

ミニバイクとモトチャンプについて

宮城:話は変わりますが、モトチャンプといえば昔から原付の総合誌のイメージが強いじゃないですか。でも、スクーターとかカスタムだけじゃなくて、レースの事もしっかり載っていてすごい総合性がある雑誌だと僕は思っていました。

成島:そうですね、今も続いていますがミニバイクレースは力を入れてやっていましたね。

宮城:モトチャンプ杯もありますしね。まぁ、いろんな方がいましたよね(笑)

成島:モトチャンプ杯もお祭りみたいな所があるのに、やっぱり走り出すとだんだん熱が入ってきて、終わるまで一言も話さない、みたいな本気になる方もいました。
一番思い出深いのが現在はMotoGPで活躍している、中上貴晶君ですね。小学生時代からめちゃくちゃ速かったんですが、話しを聞くとMotoGPを見に行ったことがないって言うので、日本GP(もてぎ)まで取材を兼ねて一緒に行ったりもしてました。

宮城:そんな事もあったのですね。やっぱりモトチャンプといえば「小さいバイクの事なら任せろ!」 みたいな自負もあると思うのですが、子供からしたらミニバイクの記事は貴重な情報源だし、大人も興味ある事が多く乗っているので読みますよね。

成島:そう思っていただけているなら嬉しいですね。

宮城:そうだ、思い出しました。実は僕、事故を起こして両足骨折してバイクに乗れなくなっていた時期があったんですよ。大型も乗れないし、当然レースも全部クビになっていて、その時はもう本当にバイク降りようか本気で悩んでいたんですが、それで前から欲しかったモンキーを買って、そのモンキーでリハビリしたんですよ。

成島:そんな時期があったんですね。

宮城:友達がモンキーの専門店をやっていたから、そこから一台買ってきて、それがきっかけでカスタムもするようになったんですよね。原付だからパーツ安いじゃないですか。 ちょこちょこ変えていたらいつの間にか200万円くらい使っていましたね(笑)

成島:それはすごい(笑)

宮城:当時はインターネットなんてないし、モトチャンプを読んで勉強してカスタムしたものです。それがあったからバイクを嫌いにならないでいられたって思っています。

成島:うれしい限りです。そのお話、社員全員に聞かせたいです。(笑)

ミニバイクレースを続けていくことは文化を守る役割もある

宮城:モンキーとかダックスとかの小さめのバイクですが、僕のように使う人もいれば、大きいバイクがもうきつくなってきたけどバイクライフは続けたいという人もいる。そういう人が小さめのバイクに乗り換え事って多いと思いますよ。

成島:大きいバイクで持て余すより、小さいバイクを使い倒して楽しむ方は多いですね。やっぱり年をとればどうしてもだんだん目が追い付いてこなくなる事や体力が落ちていくという事もあります。また、コンパクトに置ける大きさのバイクがほしいとか生活環境の変化もあって、125ccとか150ccクラスのバイクが人気なんだと思います。それに先ほど宮城さんが仰っていたように原付はカスタムするにしてもパーツ代も安いですし、車体も軽くてカスタムもやりやすいし、自分でできることが多いのも魅力だと思います。

宮城:やっぱりZとかは理想だけど、700万とか1000万するようなバイクは普通に買えるような物じゃないですからね。バイクを乗り始めて何十年も経っている人でそれぞれの理由で大きいバイクを諦めた人でも小さいバイクなら大丈夫だし、モンキーなどの昔からあるバイクは当時を思い出せていいのかもしれないですね。

成島:そうですね。昔の面白い原付とか集めたイベントを開催すると、面白がって見に来てくれたりしますからね。

宮城:いいですね。僕なんかは失敗(事故)して、いろんな人に助けられたから、今までバイクを乗り続けられたっていうのがあって、そのような集まりがあると、昔から僕を見てくれていた方とか、助けてくれた方とかに会えて懐かしくなりますよ。

成島:バイクの歴史を共に歩んできた者同士の連帯感みたいなものがありますよね。先ほど話に出た、ミニバイクのレースも、同じようにミニバイクの歴史・文化みたいなものがあります。正直、レースを主催してもお金にはならないですけど、主催している僕たち自身もミニバイクのレースで勉強させてもらって、ここまで雑誌を大きくさせてもらったというのもあって、モトチャンプが原付を中心に連載を続けるのはそういう「文化・歴史を守る」みたいな意味合いもあるのかなって思っています。都合が悪くなったからやめた、っていうのはできないし、やれる限りはやっていきたいなって思います。

宮城:ミニバイクレースを取材して取り上げる事で、世間にミニバイクが浸透して原付も改めて人気になったわけだから、モトチャンプのやってきたことは大きいと思いますよ。

成島:そう言っていただけると嬉しいですね。

原付一種の生産終了について

宮城:モトチャンプという雑誌は、やはりミニバイクが特徴的ですよね。

成島:そうですね。元々125cc以下って人気はあったんですけど、雑誌としてはどこも大きく取り上げてこなかったと思います。

宮城:ニッチな感じではありましたよね。

成島:そうですね。例えばPCXとか初期の頃からウチは取り上げていましたが、ある時、爆発的にPCXが人気になった時がありました。人気になったら他社さんも取り上げるようになって、盛り上がったのは業界全体としては良い事なのですが一方で複雑な心境ではありましたね(笑)

宮城:まあ、そうですよね。

成島:でもそのおかげもあって、125ccクラスは今盛り上がっていますし。スーパーカブが総生産1億台達成っていうニュースも話題になったり125ccに注目が集まっています。
パワーを持て余すとかそういう所が無くて、125ccってすごい等身大で日本に合った乗り物だと思いますね。

宮城:一方で、2025年から原付一種の生産が終了するというニュースもあります。モトチャンプとしてはそれをどのように受け止めていますか。

成島:生産終了はもちろん寂しい気持ちがあります。ただ、バイクがこの世からなくなるという事もなくて、時代とともに電動バイクに移り変わっていく等、変化していくことを受け止めて、頭を柔らかくして面白い雑誌を作ることが出来ればと思っています。

宮城:そうですね。バイクがなくなる訳ではないですしね。僕も柔軟に対応していきますよ!

原付二種で人気の車種はスーパーカブ!その理由は?

宮城:最近のバイク事情について伺います。125ccに乗る人で最近若い人が増えたとか、特に女性ライダーが増えたとかってわかりますか?

成島:うーん。どうでしょう。125ccに若い人が増えたっていう感覚はあまりないですね。
むしろ若い人は250ccに集まっている印象がありますね。やっぱり免許を取ったら乗れる上限の車両が欲しくなるというか、大きくてカッコいい車両に乗りたくなるんですよね。でもしばらく経って色々なライフスタイルの変化に伴って通勤とか通学、日常使いに便利な125ccに変わっていく事が多いように思います。

宮城:それもそうですよね。大型免許を取ったら1000ccに乗りたくなりますよね。ちなみに一番人気の原付二種の車両はどういったバイクですか?

成島:それはもう圧倒的にスーパーカブですね。

宮城:カブですか。 デザインが良いとか人気になる要因があると思うのですが。

成島:スーパーカブは昔からあるバイクなので、まずネームバリューがあります。あとは汎用性が高い点ですよね。社外品も豊富ですからカスタムもできます。キャリアも大きいですし、燃費もいいので仕事でも使えるし、最近ではキャンプで使う人もいます。とにかくめちゃくちゃ汎用性が高いので、スーパーカブは常に人気が高いバイクですね。

成島編集長の”いい雑誌”の作り方

宮城:今編集部は何人体制でどのように雑誌を作っているのでしょうか。

成島:4人体制ですね。

宮城:4人ですか。その人数で一冊の雑誌が作れてしまうものなんですね。次号は何か会議をして内容を決めたりとか?

成島:そうですね。編集会議というのを行います。編集会議の時はワクワクしていますので、全員でどんどん取材予定を詰め込むんですが、いざ行ってみるとどうしてこんなに詰め込んじゃったんだろう……って後悔することもありますね(笑)

宮城:だって、モトチャンプは取材行きすぎですから!(笑)

成島:取材はいろんなお話聞けたりして結局は楽しいんですけどね。昔は何百件もバイク屋さんとかに電話をかけて、こういう人いないかとか、こういうバイクはないかってしらみつぶしに電話して情報を集めていましたね。

宮城:昔ながらのやり方は、手間がかかりますけど、人から人に教えてもらって情報とともに人のつながりもできますよね。

成島:そうですね。人から人へ紹介してもらって、人脈が広がっていくんですよね。
そして、たくさんバイクの話を聞いてそれを楽しく伝えるのが編集の醍醐味だと思っています。やっぱり楽しく記事を作りたいっていうのがあって、大変ですけど楽しくやっていれば楽しい記事になりますし、取材される方も楽しそうに仕事してるなって感じてもらえればやっぱり悪い気分にはならないので、話しやすくなっていろいろ教えてくれるようになりますし、いい循環になりますよね。
編集会議でもスタッフには取材に行きたい所とか、会いたい人とかどんどん言ってもらっています。そして、雑誌の取材ってかこつけて楽しみに行く、と(笑)それで、いいネタを見つけていい記事ができればいいと思っています。

宮城:なるほど。それがモトチャンプの記事が面白い、”いい雑誌”になる秘訣なんですね。
ちなみに今までの取材で、一番思い出に残っている事は何かありますか?

成島:そうですね……。面白いと思うのは海外に取材に行く時ですね。現地の価値観があってそれによって多種多様なバイクのカスタムとか趣味・趣向が日本と違うので、そういうのを見聞きすると新鮮で面白いなって思いますね。

電動モビリティ肯定派?否定派?

宮城:先程も少し話が出ました、電動モビリティについてお伺いしたいと思います。率直にどのように思っていますか。

成島:僕としてははじめてガソリン車の50ccを手に入れた時に感じた「どこまでもいける」っていう感動を、現代の若い子たちにも体感してもらいたいっていうのがあったので、50ccがなくなるのは正直さみしい思いはあります。
電動モビリティが流行っていくには充電施設などのインフラをしっかり整えることが大事かと……。そうしない限りやっぱり買いづらいので、そういう環境はどんどん増えていってほしいですね。電動モビリティも面白い点はたくさんありますし、新しいバイク文化のひとつになっていくとは思います。昔一回電動バイクが流行った時は、インフラも販売店も設備が整っておらず、買ったことで残念な思いをしたユーザーがすごく多かったのを覚えています。今度はインフラとかメンテナンスの面で環境が整って行けばいいですよね。

宮城:電動モビリティに肯定的なのですね。

成島:時代の流れで変化していくというのは、バイクに限らず必ず起こることですよね。電動バイクもバイクという大きな枠組みには変りないですし、カスタムしたら楽しいのは間違いないと思いますから。

宮城:確かにそうですね。今後の電動モビリティの展開に期待しましょう!

宮城:最後になるのですがモトチャンプの今後の展望をお聞かせください。

成島:基本的には変わらないですよね。「面白い物を作っていく」という根幹は変わらず続けていきます。取材もどんどん楽しみながらやっていけば面白い物は今後も出続けると思いますので、引き続きライダーに面白いと思ってもらえて、さらにライダーのバイクライフを豊かにする、その一助となれば嬉しいです。

宮城:本日はありがとうございました。

成島:楽しくお話できてよかったです。ありがとうございました。

筆者プロフィール

宮城光

1962年生まれ。2輪・4輪において輝かしい実績を持つレーサーとして名を馳せ、現在ではモータージャーナリストとしてMotoGPの解説など多方面で活躍中。2022年、バイク未来総研所長就任。