バイクの未来に切り込んでいくコンテンツを発信する『バイク未来総研』。
今回は、今はバイク乗りには欠かせないインカムツール、『B+COM』の設計・製造・販売を手掛ける株式会社サイン・ハウスの新井 敬史社長にB+COM誕生から今後の展望まで、宮城 光所長より話を伺いました。

左:宮城 光所長 右:新井 敬史社長

バイク未来総研とは

バイク業界のよりよい未来を考え、新しい価値を調査し、分析した内容を広く社会に発信することを目的に発足。
国内外のレースで輝かしい成績を挙げ、現在も多方面で活躍する宮城光氏を所長に迎え、バイクライフの楽しさやバイク王が持つバイクに関する独自データ分析などの情報発信に加え、ライダーやバイク業界がこれから描く「未来」に切り込んだコンテンツを順次発信します。

B+COM(ビーコム)誕生秘話

宮城所長(以下、宮城):バイクのインカムという事でB+COM(ビーコム)販売を開始し、当初はどちらかというとハイエンドモデルの商品だったように思います。
そこから買いやすくシンプルで扱いやすいバリエーションが増えていっていると思いますが、どのような経緯で商品を展開していったのか教えていただければと思います。

新井社長(以下、新井):最初は未開拓のマーケットで商品を出していくには、やはり最高のものを出していくという事が何より重要でしたので、1機種で勝負したという事です。
宮城:なるほど。発売開始が確か15年位前ですね。
新井:そうです。当時はエンジンの音を聞いてオイルの焼ける匂いを嗅いで風を感じて、というのがバイクの醍醐味だった訳ですが、その時代にバイクに乗りながら仲間同士喋ると楽しい、音楽を聴くのが楽しいという新しい価値をライダーに提案した訳です。

宮城:そうですよね。全く新しい感覚でした。私も当時バイクに乗りながら話すツールが要るのかなと正直思っていました。
新井:これが実際に試していくと「これがあると便利だ。いや、何よりも楽しいよね」と私自身感じたのです。何をしているのかというと会話をしているだけです。「何食べる?」「これからどうする?」という他愛もない会話をしているだけなのですが、その会話があるかないかだけでツーリングの楽しさが全然違った訳です。

宮城:B+COM(ビーコム)が登場する以前はそうしたツールは全くなかったのですか。
新井:過去にはアマチュア無線やトランシーバーなど通信できる機器自体はありました。ですが、高額というのもありますし、バイクに乗りながら話すという事をするのが面倒でした。
ヘルメットには有線でつながっているという時代です。

宮城:ああ、そうでしたね。太めの有線でした(笑)
新井:有線だと乗り降りする時に取れてしまったり、断線や付け忘れという事も出てきました。

宮城:無線だとアマチュア無線免許も必要ですよね。
新井:そうしたハードルの高さもあったのですが、それらの通信機器は何より会話の質が良くないと思った訳です。風切り音などの騒音をアナログで消していく事が難しかったという事もあります。
あとは電話では誰が話しているかわかりますが、無線やトランシーバーの類だとバイクに乗りながらだと誰が話しているか認識するのも難しい位の品質でした。

宮城:話している内容が重要であって、音質というのがそこまで追求されていなかったのでしょうね。
新井:そうですね。やりとりが最終的に成立すればよいので、基本的に誰か話している時は聞いているだけ、という一方通行な状態でした。
そんな中ワイワイガヤガヤとツーリング中も会話したいと昔から先代の白松が言っておりましたので、それがB+COM(ビーコム)誕生のきっかけです。

宮城:なるほど。ツーリング中にできることのひとつの目標として会話をするという事があったのですね。
新井:そうです。しかしどういった方法でそれを実現するかという時にピンとくる技術がずっとなかった状態です。そんな中、当時Bluetoothが出始めて、そこからビビッ!と来たイメージです。

宮城:近い距離であれば簡単にデジタルで繋がるシステムが出てきたのは大きいですね。
新井:大きいです。会話をする上で大敵なのが騒音だった訳ですが、そこを解決していくのに最適だったのがBluetoothという技術で、Bluetoothを使用して開発していきましたが、当時はマーケットを作っていく上で多くのラインナップを作ってしまうとブレてしまうので、ひとつの商品のみで勝負しました。

B+COM PLAY(ビーコム プレイ)の登場

宮城:発売したその第一弾が市民権を得た訳ですね。
新井:そうです。ある程度浸透した後になると「もう少し手軽な価格帯で買える物がほしい」という声がユーザーから上がってきましたし、似たような海外製品も出てきました。そうした背景で2015年位から様々なニーズに応えられるようにラインナップを充実させていきました。

取材時のB+COM(ビーコム)のラインナップ

例えば、車だと交通情報を聞いたり音楽を聴いたり、電話がかかってきたらハンズフリーで話したり、ナビを見て聞いたり等できる訳ですが、それを通勤・通学などのシーンでバイクでもやりたい場合にはB+COM PLAY(ビーコム プレイ)ですね。このPLAYの機能はすべての商品に搭載しています。

宮城:電話の機能は便利ですよね。大事な用件の電話がかかってきても、バイクを停めてヘルメットを脱いで、電話に出る頃には留守電になっていて、折り返し電話をかけても出ない。
また、走り始めると電話がかかってきて、という事を何度も経験していましたが、その煩わしさから解放されましたよね。
新井:ライディングに集中してほしいという想いがありましたので、お役に立てて良かったです。その良さをユーザーがほかのライダーに伝えてくれることで瞬く間に広がっていきました。

宮城:私も愛用させていただいています。
新井:ありがとうございます。会話ができることについては、安全面にも寄与していると思っています。たとえば、後ろを走っている人が「危ない!」と前を走る人に声かけるだけでも前方を注意するようになりますし、「ウィンカー出したままだよ」など簡単に注意もできます。

宮城:今バイクを45年近くバイクに乗っていて、10年ほどB+COM(ビーコム)を使っていますけど、バイク観が180度変わりましたね。私の感覚だと携帯電話を持っている割合くらい、ライダーにとっての必需品にまでなっていると感じていますよ。
新井:ありがとうございます。「なぜこれを今まで買わなかったのか後悔している」というお声をいただくのが嬉しいですね。

10人で話せるB+COM(ビーコム)は登場する?

宮城:商品ラインナップも充実してほとんどのことはできるようになっていると思います。これから目指すところはどういう所になってくるのでしょうか。
新井:今はユーザー様にアンケートを取ってどういう機能がほしいかと聞いても「特にない」という回答が返ってきます。通話できる人数を増やしてほしいというのが少数ありますが、
これはバスの中、大人数で話す事に似ていると思っています。

宮城:それはそうですね!声を覚えられるのはせいぜい5,6人です。10人になると顔を見ないと誰の発言だかわからなくなりますよ。
新井:あとは話題が別れますよね。そうなるとそれぞれのグループ同士の会話が邪魔になってしまう、という事が起こります。
宮城:そうですね。ツーリングだと縦長になりますから、先頭と後方の会話することも変わってきますよね。
新井:バランス的には今の最大接続人数6人というのが適正ではないかと思いますね。

宮城:そうなると、将来的な展望としては向かうべきところというのはどのあたりになってきますか。
新井:私は「携帯電話」がB+COM(ビーコム)にとって良き先生だと思っています。話をできるだけのものが、今やスマートフォンになりパソコン以上のことができたりと、進化しています。
B+COM(ビーコム)もすぐにという事は難しいとは思いますが、データ通信の枠が広がっているので、例えばアプリ通話を取り入れる可能性はあります。
ただ、現状ではアプリの通話品質は良くなかったり遅れがあったりしますし、ツーリングだと電波が届かない場所もたくさんありますので、そういった場所ではBluetoothの方が適していたりします。
将来的にはBluetooth通話が及ばない範囲ではアプリ通話で補ったりと、シームレスに通話できるようになるとよいかもしれませんね。

「音楽の聴きやすさ」と「人の声の聞きやすさ」の違い

宮城:今や、ないと困るほどに感じるB+COM(ビーコム)ですが、音質は際限なくどんどん良くなっていけばなあと一人のユーザーとしては思う所です。
新井:音楽を聴く音質と会話の音質というのは全く異なる領域になってくるんです。
宮城:そうなんですね。
新井:私どもとしてはそこを両立させたいという想いがあります。『EXP01』というバイク用ヘルメットスピーカーの増設キットがあるのですが、こちらがさらに音質を追求したスピーカーとなります。純正のスピーカーでも十分音質は良いのですが、もっと良い音質を求めるユーザー様の声にお応えした商品です。

B+COM カスタムサウンドシリーズ ヘルメットスピーカー EXP01
https://sygnhouse.jp/products/bcom/helmet-speaker-exp01/

宮城:なるほど。そこで重要視しているのは、高音と重低音どちらなのですか。
新井:私どもの中で重要視しているのが低音です。これには理由があるのですが、騒音の内容を解析すると重低音が多いんです。ロードレースなんかでわかるのですが、自分が運転してタイヤが転がっていくときのゴーという低音ですね。
音には、その音と180度異なる波の音を出すと打ち消される現象が起こるのですが、
バイク用ではないスピーカーで聞いてしまうと音楽の低音を、自分が運転しているバイクの音で打ち消してしまって、音楽が軽く聞こえてしまうんですね。そこを補完していかないといけない訳です。

宮城:なるほど、バイクに乗っているという特殊な環境ならではの騒音への対処ですね。
新井:声についても、バイクに乗っている時は低音の男性の声がかき消されてしまい、女性の中でも高い声は逆に聞き取りづらくなってしまうところがあります。そこをすべての高さの声がナチュラルに心地よく聞こえるようにする工夫が必要になります。

宮城:「音楽と人の声、聞きやすくするには領域が違う」という意味がわかってきました。
新井:創業の白松がよく『耳元で囁いているように会話をしたい』と言っていました。
人間が心地よく会話をできるようにという意味だと思っていますが、私の代でできる限りその心地よく会話をできるように、近づけていく事が大切だと思っています。

宮城:バイクに乗っている環境というのは風もあるし騒音もあるし、最も厳しい環境ですものね。
新井:そうですね。あとは音の問題はヘルメットの影響もあります。宮城さんは詳しいと思うのですが、ヘルメットで構成されているパーツというのは発泡スチロールとスポンジです。

宮城:はい。ウレタンと生地で音を吸収しますよね。
新井:おっしゃる通りで音は吸収されてしまいます。会話の場合は密閉されたヘルメット内で話すとエコーが出て聞き取りづらくなってしまうんです。
そこをエコーキャンセルで消していくなどの処理をしたりしています。音楽は低音の広がりが大事でスピーカー、アンプが大事になってくるのですが、
それをバイクに乗っているという騒音だらけの制約がある中で行うという事が難しく感じていますね。

宮城:人によって求める物も違いますし、永遠の課題ですね。
新井:まだまだ研究・開発の余地があるのですが、『EXP01』という商品はノーマルスピーカーと比較してかなり体感できるほどの違いが出てきていますので商品化しました。
迫力ある低音とクリアで鮮明な高音が調和された音響を体験できる、現段階で最上級なものになったと思っております。

宮城:『EXP01』は会話も音楽もクリアなものなのですか。
新井:今回は会話の音質、音楽の音響もどちらも平均して音質が上がったものです。
『01』というネーミングは、今後会話に特化して音質が良くなる商品や、音楽に特化した商品などラインナップなど02、03・・と充実させていきたい想いからです。

宮城:今後のラインナップにも期待しています。

B+COM(ビーコム)が支持を集める理由とは?

宮城:似たような商品が海外のものでもあると思うのですが、B+COM(ビーコム)が選ばれる理由というのは何でしょうか。
新井:お声で多いのは「サポートがある点」です。設計・製造・販売まですべて当社で行っていますので、サポートや修理まで行う事ができます。

宮城:すべて自社で行っている訳ですからわからないことはない訳ですよね。
新井:おっしゃる通りです。あとはスマホなどと同様に消耗品となるリチウムイオン電池を使うのですが、電池交換できるインカムメーカーは当社以外にはありません。

宮城:電池が消耗してきたら使い捨てになってしまうのですか。気に入ったものは長く使いたいですよ。
新井:僕らはバイク乗りじゃないですか。自分が好きなバイクは修理して愛着を持って維持していく精神がある訳ですが、B+COM(ビーコム)についても電池交換やケースが破損したら修理ができるのが強みだと思っています。

宮城:買ったはいいけど最初はどう扱っていいかもわからなくて不安だったりしますよね。
新井:そこまでのサポートがあるのはB+COM(ビーコム)だけです。
電話やメールなどでお問い合わせいただければ、お困りごとをすぐにサポートして解決できますのでぜひ安心してお使いいただければと思っております。

宮城:日本メーカーで日本語対応ももちろんしているとなれば、問い合わせ前に困ることもないですね。安心して買えそうです。

B+COM(ビーコム)は意外なシーンで使われている!

宮城:バイク用のインカムとして慣れ親しまれているB+COM(ビーコム)ですが、バイク以外に使われることはあるのでしょうか。
新井:長年バイク業界で、バイク用品としてB+COM(ビーコム)を普及させてきてはおりましたが、このインカムが異なる業界でも使われています。

宮城:そうなのですか。それは興味深いです。
新井:例えば今ご利用いただいているのは、NEXCO東日本・中日本・西日本様です。高速道路でパトロールをする隊員の方がご利用になられています。

宮城:どのような使われ方をするのでしょう。
新井:隊員の方はヘルメットをかぶっているのですが、耳が出ているタイプでそこにB+COM(ビーコム)を付けていただいてスピーカーは片耳タイプの物を付けます。
隊員の方は二人一組でパトロールをして、事故が起きた時に一人は現場のドライバー対応、もう一人は100メートル位後ろで後方警戒をします。
以前までは車を降りてドライバー対応をする隊員の方が事故に遭われてしまったりしていました。
100メートル後ろの隊員が危険を察知して前の隊員に警戒を促しても声が届かない訳です。
そこでB+COM(ビーコム)があれば「危ない!」という声が届き、事故を回避することに繋がっていく、そのような使われ方で採用されています。

宮城:バイクを乗っている時同様に、危険回避の声掛けに使われているのですね。
新井:それ以外にも教育のために使用できるとのことで聞いています。三人一組で現場まで行き、ベテラン隊員の方とドライバーとの会話や、後方確認の隊員さんとの会話内容を新人の隊員さんにリアルタイムで聞かせるという使い方をしているようです。

宮城:どういう状況の時にどのような対応をしているか、インカムの内容を聞けば確かにすごい勉強になりますね。
新井:あとは和歌山県・三重県・奈良県の林業プロジェクトでコミュニケーションツールが欲しいという事でお声がけいただいたこともあります。

宮城:どういう使われ方をするか想像できないのですが、林業ですか?
新井:そうです。木を切り落とす伐採作業をする人員から半径100メートルは倒木の危険があるため誰も立ち入ることができないんです。
チェーンソーを使って木を伐採している訳ですから作業音は相当なものです。そうなると、作業員に何か不測の事態が起こった場合に周囲の人が気づくのが遅くなってしまう訳です。
そこで、100メートル離れていてもコミュニケーションをとれるB+COM(ビーコム)に白羽の矢が立った訳です。

宮城:両手が自由になってある程度の距離があっても話せるインカムを作っているメーカーはなかなかないですからね。
新井:はい。ぜひお役立ていただきたいという事で、昨年納品させていただきました。

宮城:B+COM(ビーコム)の形状はバイクの時とは変えているのでしょうか。
新井:通常の工事現場などで使用するヘルメットですが、三角に紐がついていますのでそこにスピーカーを付けられるようにしました。それがこちらです。

宮城:シンプルでいいですね。使いやすそうです。
新井:一般販売はしておらず業務用の仕様ですね。周りがうるさい環境の中でコミュニケーションをとる必要がある環境に求められるのかと思っています。

宮城:他にどのような職業がありますか。

新井:たとえば、大工さんですね。住宅街で作業をしている中、作業員同士でコミュニケーションとる時に声を出す訳ですが、それが騒々しいとクレームが起こるケースもあります。
屋根の下から屋根の上に物を上げる時など、小声でも「よし、投げて」と内容を伝えることができます。

宮城:そうですね。大声で人を呼びに行く事もしなくてよくなりますね。なるほど。
新井:意外なところですと、大きな物音がする工場見学の時にも使われていたりします。

宮城:へええ!工場見学ですか。
新井:見学する人の安全もヘルメットで確保できますし、案内の方の声が工場の作業音によって聞こえなくなる事もなくなりますよね。

B+COM(ビーコム)の今後の展望は?

宮城:最後となりますが、今後の展望をお願いいたします。

新井:今までは二輪業界でライダーの安全性の向上、快適性や利便性の向上というところで頑張ってきました。今後も国内だけでなく、海外のライダーの皆さまにもB+COM(ビーコム)のすばらしさ、バイクの楽しさをもっともっと伝えていきたいと思っています。
また、どこの業界でも人と人のコミュニケーションは必須だと思っています。二輪業界の枠にとらわれずに、円滑なコミュニケーションが可能なB+COM(ビーコム)を通じて人や社会のお役に立てるよう貢献していければと考えています。

宮城:事業を通じて人や社会の役に立つ。素敵な事ですよね。本日はありがとうございました。
新井:こちらこそありがとうございました。

筆者プロフィール

Bike Life Lab supported by バイク王

~バイクがあれば もっと楽しい~
すべてのライダーに贈るバイクコンテンツサイト「Bike Life Lab」では、お役立ちコラムからおすすめバイクロード、Bike Life Lab研究員によるお楽しみコンテンツまで幅広く掲載中。