バイクの未来に切り込んでいくコンテンツを発信する『バイク未来総研』。
今回は、モーターサイクル、自転車、スキー、スノーボード、乗馬向けのプロテクターやライディングウェアを手がけるメーカーであるダイネーゼジャパンを運営する株式会社ユーロギアの勝川久也社長にダイネーゼ台場にて話を伺いました。
バイク用プロテクターの中でも「着るエアバッグ」と呼ばれるスマートジャケットの事、販売する人気アパレルの事等々、宮城 光所長が聞いてきました!

左:ダイネーゼジャパン代表 勝川 久也社長 右:宮城 光所長

バイク未来総研とは

バイク業界のよりよい未来を考え、新しい価値を調査し、分析した内容を広く社会に発信することを目的に発足。
国内外のレースで輝かしい成績を挙げ、現在も多方面で活躍する宮城光氏を所長に迎え、バイクライフの楽しさやバイク王が持つバイクに関する独自データ分析などの情報発信に加え、ライダーやバイク業界がこれから描く「未来」に切り込んだコンテンツを順次発信します。

ダイネーゼの原点はモトクロスから始まった

宮城所長(以下、宮城):ダイネーゼというブランドは、世界中のライダーに愛用されているスポーツウェアのブランドですが、この会社の歴史はどんなところから始まっていったのでしょうか。

勝川社長(以下、勝川):1972年にイタリアのモルベラという場所で創業した会社で、創設者はリノ・ダイネーゼという方です。当時はモトクロスが流行っていて、周りで怪我をする方を多く目にしました。そこで、モトクロス用に快適に安全に乗れるようなパンツを作っていったのが始まりです。

宮城:確かに70年代前半ってモトクロスブームですよね。
今ではダイネーゼはロードレースの方の印象が強いですから、モトクロスがスタートというと意外です。

勝川:そうかもしれませんね。そこからニースライダーからプロテクター、チェストガード、肩のスライダー等、その当時の先進技術でいち早く作ってきました。

宮城:ダイネーゼのブランドは、私の世代だとケニー・ロバーツやフレディ・スペンサー等がつけていた脊髄プロテクターで知りまして、やはり安全プロテクターの先進技術を追求している印象がダイネーゼにはありました。どのような経緯で日本で展開することになったのでしょうか。

勝川:ダイネーゼジャパンという現地法人が2004年に設立されまして、私どもはその当時小売を日本で行っていた会社でした。日本でのダイネーゼ商品の販売店の売上が大変良く、2007年本国から日本でのマネジメントを含めすべて任せたいというお話をいただき、正式に私どもがダイネーゼジャパンとしてスタートさせました。

宮城:実力で勝ち取った訳ですね。なぜ売上が良かったのでしょうか。

勝川:個人的な話になってしまうのですが、もともと私はセールスをやっていたのですが、以前から信条としてお客様への接客を丁寧に行うというものがありました。そこをブレずに「勝川イズム」を貫いたのが良かったのでしょうね。

宮城:見たこともない海外の製品を日本で販売するというのは大変だったと思うのですが、具体的にどうやったのですか。

勝川:瞬発力かなと思っています。たとえばバイクや車などは何度も見に来たり試乗したり、時間も長くてチャンスも多いと思いますが、アパレルの場合は見る時間も短いですし、買わないという選択肢も十分あります。そうするといかに短時間に凝縮させて「これを買うとこういう世界が待っている」というストーリーをわかりやすく伝えるかという事が大事になってきます。

宮城:時間をかけて選びたい人もいるし、時間をかけたくない人もいるし、動機が高い人、低い人、いろんな人がいますよね。

勝川:そのニーズを察知してそのお客様にとってベストな提案をするという事ですよね。

ダイネーゼの強みは「レガシー」

宮城:ダイネーゼの商品の強みというのはどういったところなのでしょうか。

勝川:時代の最先端を行くような性能を追求しているクオリティ面はもちろんあるのですが、歴代のチャンピオンが世代を超えてずっとダイネーゼ商品を使い続けている、このレガシーこそが強みだと思っています。その期待を裏切らず人の身体をしっかりと守るというミッションのもと、しっかりとクオリティの高い商品を作り続けているのがダイネーゼです。

宮城:世界チャンピオンが使用するブランドというと限られてきますよね。日本ではイタリア製品ならではの日本での難しさみたいなものはないのでしょうか。

勝川:どうしてもヨーロッパのメーカーになりますので、袖が長い、丈が長いという問題があります。アジアからこうしたリクエストをしていたのですが、今年からアジア限定のコレクションを出す予定もあります。

宮城:カラーなどの好みは国によってあるのでしょうか。例えば日本とかはどのような好みなのでしょう。

勝川:やはりカラーは黒、グレーでロゴもさほど目立たず、といったところを日本の方は好むと思うのですが、中国などではロゴも大きめでカラーも派手なものが受けたり等、国によってまちまちです。そのあたりは本国イタリアが調整していかなければいけない課題でしょうね。

宮城:面白いですねえ。

勝川:例えば、日本で緑が良いとリクエストしても、別の国では縁起が悪い色だとされるなど、文化の違いも出てきますね。ただ、ありがたいことですが日本では販売してきた歴史があるので意見を聞いてもらえることが多いですね。

宮城:最近ではレザーパンツをリリースしていますが、あちらは日本のリクエストなのですか。

勝川:これは元々日本向けではなく世界で展開していたものでした。不思議とヨーロッパやアメリカではあまり反応がないカテゴリーでしたが、日本ではある程度売れるカテゴリーという事でずっとリクエストしてきて、今回日本向けにフィットするよう改良して日本限定販売という事で発売に漕ぎつけられたことは大変嬉しく思っています。

宮城:日本国内での反響はいかがですか。

勝川:思った以上に反響はあります。日本でレザーパンツは変わらず受け入れられるものなので。

宮城:一本あれば間違いないものですよね。

勝川:流行り廃れも少ないものです。

宮城:ダイネーゼといえばジャケットなどカラフルで格好いいものがたくさんあるので、それにあわせてパンツも欲しくなる人も多いでしょうね。

勝川:ありがとうございます。期待にお応えできるような商品を販売していければと思っています。

白バイ隊員にも採用されている「スマートジャケット」の強みとは?

宮城:ダイネーゼジャパンとして、現在反響が大きい商品は何になるのでしょうか。

勝川:エアバッグを搭載したスマートジャケットというベストですね。

宮城:ベストの方が反響はありますか。それは持っている上着の中や外に使えて汎用性が高いという所でしょうか

勝川:そうですね。

宮城:僕らレースをやっていた当時からすれば夢の商品ですよね。こういうのがあったらいいのにと思っていた物が、ついに出たという感じです。ただ、一般のライダーが公道で使えるかたちとなるまでは相当時間がかかったのではないですか。

勝川:そうですね。元々は2000年にプロトタイプがイタリアで発表された時は一般公道用ではなく、レーシングスーツの中に着るというものでした。
そこから公道用の商品が出てきたのが2019年です。今のスマートジャケットのかたちになったのが2021年ですので、プロトタイプから20年近くかかりました。

宮城:自動車のハンドルにエアバッグがついているのを知っている人は多いですが、バイクで使えて、しかも線がどこにも繋がっていないというエアバッグは驚きです。スマートジャケットの強みはどのあたりなのでしょうか。

勝川:はい。一言で申し上げると、D-Airっていうプラットフォームの安全認証が取れているという一点になります。

宮城:いわゆるグローバルな安全規格ですよね。

勝川:そうです。ダイネーゼのエアバッグシステムはすべてのシリーズで背中と胸、両方の安全認証を取得しています。

宮城:製品化するにあたって安全認証取れていなくても販売できるものなのですか。

勝川:はい。エアバッグプロテクターの認証が取得できていなくても、エアバッグプロテクターという名称で販売はされています。
ですが、実際には通常のプロテクターをつけているのと変わりない状況ですので安全性能には差が出てきます。

宮城:エアバッグの強みというのは、硬いパッドで動きに制限ができたりという事がなく、オートバイに乗る上での動きを妨げないということですよね。

勝川:車の世界ではアクティブセーフティとパッシブセーフティという用語がよく使われるのですが、パッシブセーフティというのはバイクで言えば硬くしっかりとしたプロテクターで、アクティブセーフティというのは必要な時にしか作動しない安全機能でこれがバイクにも出てきたという事になる訳ですね。

宮城:そのスマートジャケットですが、警視庁の白バイ隊員にも採用されたという事ですがどう受け止めていらっしゃいますか。

勝川:そうですね。非常に光栄な事と思っています。

宮城:なぜダイネーゼのスマートジャケットが選ばれたのだと思いますか。

勝川:やはり安全認証を取得しているという点が決定的だったと思っています。

宮城:無線で車体との繋がりがなく事故を検知できるという点、素晴らしいと思います。事故データも取得できると伺いましたが。

勝川:はい。D-Airは3つの加速度計と3つのジャイロスコープ、そしてGPSと
7つのセンサーで1秒間に1000回体の動きを解析してエアバッグを開くかどうかを判断しています。万一事故が起こった時にはスマートジャケットの各データを解析することで、いつどこで時速何キロで走り、どういう角度でどの程度の衝撃が加わったのか、ということがわかります。

宮城:レース用のマシンのデータ蓄積と全く同じですね。実際にその蓄積されたデータが活用されることはあったのですか。

勝川:はい。事故のケースは様々ですが、イタリアの本社の方で解析をしてデータを弁護士さんにお渡しするケース等はあります。

宮城:今はドライブレコーダーがありますが、バイクはまだまだ車と比べるとつけていない事が多い中、そうしたデータ蓄積ができる機能というのは重要ですよね。

「スマートジャケット」は意外な場所でも使われている?

宮城:マテリアルについてうかがいます。レーシングスーツやジャケットパンツは、長きにわたって牛革かと思いますが、新しいマテリアルが登場する可能性はあるのでしょうか。

勝川:ダイネーゼはNASA、マサチューセッツ工科大学と宇宙服を作っているようなメーカーになりますので、新素材の研究というのはもちろん行ってはいるのですが、現時点ではやっぱり本当の牛革以上の着心地、耐摩耗性というものはなかなかないですね。しばらくは牛革レザーなのかと思っています。

宮城:なるほど。機能の話になりますが、ストリートでのライディングジャケットとかは非常に通気性が良いですよね。

勝川:そうですね。実際に風を通して流れを追う風洞実験というものを行っていますので、ベンチレーション(通気口)は年々良くなっていると思います。

宮城:プロテクター技術ではスキー、スノーボード、自転車などバイク以外に対しての展開はいかがですか。

勝川:はい。ダイネーゼを創業したリノ・ダイネーゼがオートバイ用ではなく、生活環境および労働環境にこのD-Airというエアバッグシステムを展開したものを販売し始めています。
ワークエアというものなのですが、これは高所作業用のエアバッグシステムになっていまして、80㎝以上の落下を認識するとエアバッグが展開するというものです。

宮城:それはすごいですね。どのような現場で使われているのでしょうか。

勝川:例えば最近のケースですと岩国海上自衛隊で正式採用していただいています。
航空機のメンテナンスをする方たちが使用していますね。

宮城:なるほど。飛行機は意外と高さがありますよね。

勝川:あとは運送会社さんや工事現場などですね。

宮城:ユーザーになる方はどうやってこの商品にたどり着くのでしょうか。

勝川:インターネットでの検索が多いと思います。落下事故がある現場の場合、従業員を守るために常に探しているのだと思いますね。
助かるか助からないかっていうことでなくて、いざという時のために最大限体を守るものを身につけておくべきというのは、バイクでも工事でもロードでも一緒かなと思います。

バイクの事故について

宮城:今後このダイネーゼという会社をどのようにしていきたいと勝川社長はお考えでいらっしゃいますか。

勝川:僕らは日本だけではなくてグローバルに展開している企業になるのですが、いわゆる“ベストインクラス”を目指しています。高級路線の商品、ミドルクラスの商品、エントリーモデル、若いライダーの方向け等、多くのカテゴリーを展開する中で、そのクラスの中でベストなものを作るという考え方です。この“ベストインクラス”を目指しているところです。
日本における店舗展開や、適切な商品が適切な時期に、適切なマーケットに存在させることが大切だと考えていまして、例えば先程申し上げたような、アジア向けでも日本人の趣味・趣向に合ったものを販売する等、一つ一つ前進していると思いますので、より今後注力していきたいと思っています。

宮城:私も愛用していますが、ダイネーゼの良さがもっともっと広く受け入れられとよいですね。最後にプロテクターの重要性についてお言葉をお願いします。

勝川:例えば、このエアバッグシステムは10年前はなかったんですね。事故から身を守りたいと思っている人でも、いくらお金を出しても買えなかった訳です。
胸部の強打による死亡事故というのは本当に多いのが現状です。
世界最高の安全を買えるようになった訳ですから、替えのきかないご自身のためにぜひプロテクターをつける、エアバッグシステムをつけることを、車でシートベルトをするように、マストとしていただければと思います。

宮城:私も愛用していますが、なしで走るとノーヘルメットでバイクに乗っているような恐怖心が今はあります。今なければ仕方ないですが、あるのに使っていないというのは、事故が起きたら後悔しかないと思って使っていますし、これからも使っていきたいと思っています。勝川社長、本日はありがとうございました。

勝川:ありがとうございました。

取材協力店舗

ダイネーゼ台場店
https://blog.dainesejapan.com/daiba

筆者プロフィール

宮城光

1962年生まれ。2輪・4輪において輝かしい実績を持つレーサーとして名を馳せ、現在ではモータージャーナリストとしてMotoGPの解説など多方面で活躍中。2022年、バイク未来総研所長就任。