バイクの未来に切り込んでいくコンテンツを発信する『バイク未来総研』。
今回は東京都豊島区南大塚に本社を置き全国28か所に自動車教習所を展開する、株式会社勝英自動車学校の吉村崇専務取締役に現状と未来について、所長の宮城光さんよりインタビューしましたのでそちらの様子をどうぞ!


左:バイク未来総研所長 宮城 光さん 右:株式会社勝英自動車学校 専務取締役 吉村 崇さん

バイク未来総研とは

バイク業界のよりよい未来を考え、新しい価値を調査し、分析した内容を広く社会に発信することを目的に発足。国内外のレースで輝かしい成績を挙げ、現在も多方面で活躍する宮城光氏を所長に向かえ、バイクライフの楽しさやバイク王が持つバイクに関する独自データ分析などの情報発信に加え、ライダーやバイク業界がこれから描く「未来」に切り込んだコンテンツを順次発信します。

できることは何でもやりました

宮城さん:勝英自動車学校(Shoei Driving School)、はSDSグループとして全国28カ所に拠点を置いています。学校はどのような経緯でスタートしていったのか、教えていただけますか。

吉村さん:はい。地元岡山で祖父が教習所を創業して今年で60周年になります。私どもの会社は主たる本業が教習所、この教習所業一本で今日まできました。
まさに地域密着で現在通って頂いているお客様の御両親、御祖父母までが弊社の卒業生という事も珍しくありません。
時代の動きがある中で固定概念や既成概念にとらわれる事なく、お客様ファーストで運営をやってこられたことは今日、この教習所数に至った要因と思います。
地元の方向けの通学コースだけでなく他県からの合宿コース、取得免許は普通車だけでなく、あらゆる運転免許が取れる総合教習所として、今ではフォークリフト等の作業用免許やドローンの飛行許可に必要な技能認証も行なっています。
また、教習生も日本人の方以外にも外国人の方にも優しい教習所作りを目指すなど、様々なニーズに応えられるという強みを活かして徐々に拡大してきました。

宮城さん:そうでしたか。少子化の中、教習ビジネスをここまでよく拡大したと思います。

吉村さん:そうですね、普通車だけの専用校だと競争が厳しく、普通二種、大型二種などのタクシー、バス、大型一種、大型特殊、けん引免許等々プロドライバー向け免許などを総合的に取り扱い、やれることを増やしていく努力をしました。
長年の交通教育のノウハウを活かし、陸の安全のみならず空の安全にも貢献するためにドローンスクールを19校開校しております。

「コロナ初期」では入校待ち。「Withコロナ」で教習所に変化が!?

宮城さん:2輪についてうかがっていきたいのですが、このコロナ禍、2輪は教習所が半年待ちだという声も私の耳にも入ってきています。御社ではどうでしょうか?

吉村さん:これは私どもに限らず、教習業界全体が前年プラスになっていると思います。私どもで言えば、コロナ前と比べて10~15%程度の伸張をしました。
コロナ前と比べ2021年は特需だったという見方もでき、ただ、Withコロナで落ち着いてきている状況(6月下旬時点)である今、5月くらいから変わっていっているとも感じています。

宮城さん:これはなぜ変わっていったのでしょうか。

吉村さん:学生さんや社会人の方は、コロナから2年以上経過する中で、生活スタイルや働き方が確立されていったことが大きいのではないかと思っています。

宮城さん:なるほど、働き方もテレワークが定着していったり、落ち着いたから出社になったり、社会が動き出していますよね。

吉村さん:そうですね。コロナ初期のように、勉強や仕事がまともにできないという状況だから何かを勉強したり、という時期ではなくなってきたのではないかと思います。

正直、2020年・2021年はコロナ前にあった閑散期というのがなく1年通してずっと繁忙期の状態でした。ようやく最近落ち着きを取りもどしつつあるように感じております。

宮城さん:閑散期というのは教習所だと何月なのでしょうか。

吉村さん:4~6月、10~12月あたりです。

宮城さん:それがこの2年はほとんどなかった、と。

吉村さん:そうですね、お客様が多い状態が続きましたので、予約が取りづらい状況が続きました。コロナ禍で先が読めないという中で教習業界はおかげさまでどうにか踏ん張ってこられました。

教習車の不足で危機的な状況が・・・

宮城さん:かつてないほど入校者が増えている状況で設備投資というのは増やしたりはしたのですか。

吉村さん:コロナ禍で2輪の需要が増えたという状況もあり、教習車を増やそうと思っても増やせないという状況で、それが課題と考えています。
教習車を単純に増やせれば、教習できる枠が増えますので、より業績は伸びていったと思っています。そういう面では機会損失がありました。

宮城さん:なるほど。

吉村さん:4輪についても全く同じで足りない状況です。4輪については納車日が先すぎて現状手に入っていない状況です。
自動車学校の設備投資というのはコース、建物、車体しかないのですが、車が手に入らなければ入校生も増やせないという所です。

宮城さん:業績を上げていくための設備投資は慎重にならざるを得ないですね。

吉村さん:2輪というのは4輪以上に故障が起きやすいという中で、新しいバイクが発売されない(増えない)というのは未来のライダーを作れないという事になり、バイク業界の発展に待ったがかかっていると危惧するところです。

宮城さん:需要と供給のバランスの話で言えば、免許のニーズが増えたらそれに答えられるように、免許を取れる場所や時間が足りていて、バイクに乗りたい人が増えたらバイクもそれに伴って増えるのが理想ですが、それが崩れているということですね。

吉村さん:そうです。なんとかこの状況を脱せれば、と思っています。

コロナ前とWithコロナで入校者の層に変化は!?

宮城さん:入校される方の年齢や性別などはコロナ前とコロナ後で比率などに変化は見られたのでしょうか。

吉村さん:そうですね、まず合宿コースと通学コースでの入所者の特徴の話になるのですが、この2つは全く異なります。合宿コースは学生の方が多く、通学コースは社会人の方がそもそも多いという特徴があります。
合宿コースは学生の方ですから何も免許を持っていない状態の方がほとんどです。一方で通学コースの場合は85%程度が中高年の方で、その他の何かしらの免許をすでに所有されている方が多くなっています。
この通学で免許を取得するコースの方がコロナ禍に入り、20歳、21歳などの若い方が増えたという印象が強いですね。

宮城さん:なるほど。それは大学や専門学校などに通うためにバイクを使っているということですか。

吉村さん:そうですね。時間がある程度ある中で公共交通機関を利用しない移動手段を考えた時に、車はなかなか高額ですから手を出しづらいところがあります。そうなると2輪の需要が喚起されたのではないかと思います。

1都1府11県のグループ教習所で転校プランもあり

宮城さん:合宿コースと通学コースは全く層が異なるという事はわかりました。
そうなると、合宿コースと通学コースは、商品で言うとまるで別物ですね。例えば合宿コースから途中で通学コース変更とかは可能なのですか。

吉村さん:はい、たとえば3月末までに合宿コースで免許を取りたかったが取れなかった、もう地元から上京しなければいけないという場合は、1都1府11県のグループ教習所が28校ありますので、上京・引っ越し先のグループ校へ転校という事が可能です。

宮城さん:それは良いですね!事情がある人はすごく助かりますね。

吉村さん:はい、お客様の都合でどうしても通えないという場合、新たに移動先で違う教習所に入学し直すという事がありませんので、ライフイベントがありお客様の状況が変わった時でも、経済的な負担が増すということはありません。

宮城さん:それは全国28校あるSDSグループの強みですね。

吉村さん:おっしゃる通りですね。他には例えば都市部の学校は通学コースで、地方の学校は合宿コース、というイメージはないですか?

宮城さん:あります、あります。

吉村さん:当グループの場合、どこの学校も通学コース・合宿コースどちらもありますので、例えば都市部に住みながら早く免許を取りたいし家にもすぐ帰りたい、という方は合宿コースをといった選択もできるのが強みだと思っています。

教習車では昭和期の小型二輪も使用。
2輪業界の未来 あるべき姿とは!?

宮城さん:中型・大型免許をとる人の特徴というのはあるのでしょうか。例えば10代の方はまず小型をとっていくのか、いきなり大型からなのか、といったところは。

吉村さん:まず小型についてですが、年齢というより地域性なのかと思います。当グループで申し上げますと、横浜・神戸・所沢などのような、都市部の学校が小型二輪のニーズが多いですね。

宮城さん:それは車体が大きいと都市部では小回りが利かないというところなのですか?

吉村さん:どちらかというと学生の方が通学にバイクを使いたいというケースが多いのではないでしょうか。

宮城さん:なるほど。小型のニーズはあるのですね。

吉村さん:ところが小型のバイクが作られなくなってくると、教習所での教習車の数もどんどん減ってきてしまう、そして教習所で教えられる場所が減り、ゆくゆくは免許を取ることを諦める人が多くなる、バイクに乗る人口が減れば業界全体の発展にブレーキがかかるということになり、危機感を大いに抱いております。

宮城さん:(免許を取りたいという)需要があるのにバイクがない、と?

吉村さん:そうですね。小型に関しては、今でも昭和のバイクを教習車として使わざるを得ない状況です。

宮城さん:そんな古いバイクを!?

吉村さん:例えば、750ccで言えば教習所全体で600台教習車がほしいという状況で、300台しか新車が作られていないような状況です。

宮城さん:深刻な問題ですね。

吉村さん:(入校生を)受けたくても受けられない状況、それがすぐ目の前まで迫って来ています。

宮城さん:どの産業も使う人がいなくなれば衰退していく訳ですが、バイク業界で言えば乗りたいという人がいるのに、バイクがないために乗る人が減るというこじれた図式になっていると感じますね。教習所がそのような状況であるとは知りませんでした。

コロナ禍による半導体不足など外的要因での供給不足などはあるとは思いますが、バイクと車は交通インフラを支える重要な基幹産業であることは間違いありません。

メーカー、中古車販売店、教習所など、車・バイクに関わる産業同士で情報共有することや、手を取り合っていくことこそが、今必要なのではないかと思います。
私も長く2輪・4輪の業界に身を置いている身として、少しでもこうした2輪業界の生の声をおうかがいできて良かったと思っています。本日は貴重なお話をありがとうございました。

吉村さん:こちらこそありがとうございました。

筆者プロフィール

宮城光

1962年生まれ。2輪・4輪において輝かしい実績を持つレーサーとして名を馳せ、現在ではモータージャーナリストとしてMotoGPの解説など多方面で活躍中。2022年、バイク未来総研所長就任。