周囲の運転状況を記録し、万一の事故には重要な証拠となるドライブレコーダー(以下、「ドラレコ」)。
クルマでは一般化してきましたが、バイクへの普及は今一つと言われています。そこで、バイクの未来に切り込んでいくコンテンツを発信する「バイク未来総研」が独自にアンケート調査を実施したところ、ドラレコを装着して運転しているライダーは約4割。
若者ほど装着率が高く、バイク人口が多い40代以上ほど装着率が低くなるなどの興味深い結果が得られました。また、保険会社、およびバイク用ドラレコのメーカーにインタビューを実施。
様々な側面からバイク用ドラレコの使用実態や有用性について検証していきます。

バイク未来総研とは

バイク業界のよりよい未来を考え、新しい価値を調査し、分析した内容を広く社会に発信することを目的に発足。国内外のレースで輝かしい成績を挙げ、現在も多方面で活躍する宮城光氏を所長に迎え、バイクライフの楽しさやバイク王が持つバイクに関する独自データ分析などの情報発信に加え、ライダーやバイク業界がこれから描く「未来」に切り込んだコンテンツを順次発信します。

ドラレコを装着しているライダーは約4割

あおり運転などをきっかけに大いに注目を浴びることになったドライブレコーダー。
カメラで周囲の映像を記録するため、不意の事故やトラブルが起きても有力な証拠となります。

事故が起きた際、双方の言い分が食い違うことはよくありますが、ドラレコの映像があれば客観的な事実がわかります。
特に自動車との交通事故においては、交通弱者であるバイクが被害者になった場合、証言できない可能性があるため、ドラレコはバイクにこそ重要なアイテムと言えるのです。

とはいえ、バイクへの搭載はあまり進んでいないとされています。
四輪では急速に普及が進み、2024年に搭載率が50%を突破したと報道されましたが、バイクの場合はこうした調査データもほぼありません。

そこで、バイク業界のよりよい未来を考えるバイク未来総研では独自にアンケート調査を行い、実態を調査しました。

調査は、インターネットで16~69歳のバイク所有者949名を対象に実施。
「あなたは、バイクを運転する際にドライブレコーダー(車体に設置するタイプ)を使用していますか」との質問に対しては「使用している」が約4割、「使用していない」が約6割という結果になりました。

一般的なドラレコに加え、GoProなどの車載アクションカメラも“ドラレコ”に含まれていると思われますが、クルマが50%と考えると、かなり高い数字ではないでしょうか。

なお、二輪用品店の㈱ナップスが2019年12月にバイク用ドラレコの所有率を調査したところ、30.2%という結果でした。約5年が経過し、所有率が10%程増加したとも考えられます。

事故件数が多い50代以上のライダーはドラレコ装着率が低い

とはいえ、年齢によって装着率に顕著な傾向があります。

20歳~29歳は非常に装着率が高いのに対し、年齢が上がるにつれて減少。
40歳~49歳では4割弱、50歳以上では約2割程度にまで落ち込んでいます。

これは交通事故発生件数を考えると、非常に対照的な結果です。

警察庁「令和5年中の交通事故の発生状況」を基に筆者が制作。
自動二輪車=排気量51cc以上。

グラフのとおり死傷者数は「若者」とライダー人口が多い「40代、50代」が目立ちます。
20~29歳の5,141人が最多ですが、これに並んで多いのが50~59歳の4,949人。さらに40代の4,767人が続きます。

事故が多い若者のドラレコ装着率が高いのに対し、同様に事故が多発している中年世代のドラレコ装着率は低いことが浮き彫りになりました。

装着しない理由は「価格」がダントツ、「手間」や「スペース」もネック

続いて、ドラレコを装着しない理由について質問してみました。
最も多かった回答は「価格が高いから」(58.5%)。次点の「装着に手間がかかるから」は29.3%なので、「価格」がネックになっている人が突出して多いことがわかります。

バイク未来総研調べ

三番目に多いのが「バイクに取り付けられるスペースが無いから」の21.9%。クルマに比べ、搭載スペースが圧倒的に少ないバイクには悩みの種です。
車種による違いはありますが、ETC車載器でも同様の問題がありました。中にはドラレコを装着したくてもスペースの関係で断念した人がいるかもしれません。

価格の上限は「1万円未満」が最多 しかし9割超が使用すべきと考えている

さらに「バイク用のドライブレコーダーを使用してもよいと思う価格の上限」を訊いたところ「1万円未満」(28.1%)が最多でした。

バイク未来総研調べ

バイク用ドラレコの本体価格は様々ですが、性能と信頼性を満たした大手メーカーの製品となると3万円前後~が相場。
取り付け工賃は車種によって異なりますが2万円程度が相場で、カウル付きはさらに高くなります。

また、クルマ用ドラレコは1万円前後の製品も多く流通しています。
こうした情報を知っている人にとってバイク用ドラレコは割高に感じる一因なのかもしれません。

その一方で「バイクを運転する際にドラレコを使用した方がよいと思いますか」との質問では「強く思う」「やや思う」と答えた人を合わせると92.4%を占める結果に。

バイク未来総研調べ

潜在的にドラレコを使いたいと考えている人が大多数ながら、価格や装着の手間、搭載スペースなどの問題で購入には至っていないと考えられます。

[デイトナ インタビュー] バイク用に必要な信頼性や性能を考慮すると2万円以下は難しい

数多くのバイク用品の開発&販売を行う大手メーカー ㈱デイトナは、二輪用ドラレコを販売中。
2020年から台湾のMiTACデジタルテクノロジー社と手を組み、Mioシリーズを国内でラインナップしています。
2024年には最新作の「MiVue M802WD」をリリースしたばかりです。

デイトナ ツーリンググループMio担当の寺沢長紘氏にお話を伺いました。


デイトナ ツーリンググループMio担当の寺沢長紘氏

 

まずバイク用ドラレコが高額な理由を訊ねてみると「理由は二つあります」とのこと。

「まず一つは、様々な性能が求められるためです。クルマと違い、バイク用ドラレコのシステムは外部にさらされるため、高い耐候性や防水性、耐震性が必要。また搭載スペースが限られるため、本体ユニットのコンパクトさも求められます。これらを複合的にクリアしていくと値段が上がってしまいます」(寺沢氏)

デイトナ 「MiVue M802WD」

防水性や耐震性が求められるバイク用ドラレコ。写真はデイトナの「MiVue M802WD」(40,700円)で本体ユニットがいかにコンパクトかわかります。

そして、二つ目の理由として「一定水準以下の商品は販売したくないため」と話します。

「これは弊社としての考え方になるのですが、ドラレコは万が一のための商品です。その“万が一”の時に映像が撮れてないということがあってはなりません」(寺沢氏)

例えば、突発的に車体から電源が断たれて肝心の事故場面が録画されていなかったり、振動を感知して録画する機能を謳いながら作動しなかったり……というケースが想定されます。
そこで、デイトナは台湾のカーエレクトロニクスのリーディングカンパニーであり、本国ではドライブレコーダーのトップシェアを誇るMITACデジタルテクノロジー社をパートナーに迎えることで信頼性の高い商品をお届けしています。
通常の商品保証期間は一年ですが、M820WDとM802WDには3年保証を付けているのも、その信頼性の表れです。

現在デイトナのドラレコは4万円台がメインで、上記の理由から「2万円を切るのは難しい」とのこと。
今回の調査で明らかになった、ユーザーの求める「1万円未満」といいう金額はかなり難易度が高い水準と言えるでしょう。

ユーザーの要望と、バイク用ドラレコに求められる性能との差は大きなジレンマで、デイトナとしてもドラレコを普及させるために「価格に関して社内でシビアに議論を重ねている」と言います。
様々な点を考慮すると現状の価格も仕方ないのでは、と考えてしまいますが、今後に期待したい所です。

「フレームレート」「夜間」「小型さ」がドラレコ選びのキーワード

ドラレコを選ぶ際の基準もデイトナの寺沢氏に訊いてみました。

まとめると「フレームレート27.5fps以上」「夜間の鮮明度」「取り付けのしやすさ」がポイントです。

「フレームレート」は1秒間に撮影する静止画の枚数の意。動画は静止画の集合体で、フレームレートが高いほど滑らかな映像になります。「最低でも27.5fps以上、欲を言えば60fps程度までのフレームレートが欲しい」と寺沢氏。

ただし日本の信号機に対応したフレームレートでないと信号が撮影できないので「信号機対応」製品を選ぶのが重要と言います。

フレームレートの比較。58fpsでは残像が少なく、コマ送りしてもはっきり映像が確認できます。
画像はデイトナHPより。

暗い状態でもしっかり映像を記録できる「夜間の鮮明性」も重要。
デイトナが一部モデルで採用する「STARVISTM」のような高性能センサーを使っているドラレコを選ぶのも一つの手です。

加えて、WDR(ワイドダイナミックレンジ)、HDR(ハイダイナミックレンジ)と呼ばれる画質補正機能が大事。
明暗差が大きい環境では映像が真っ白になったり、真っ黒になったりする現象が起きますが、WDRやHDRがあれば、夜間でも明暗差を補正してクリアな映像を記録できます。

そして「取り付けのしやすさ」もポイント。
製品によっては配線の本数が多くて接続の手間や収納がしにくかったり、本体ユニットが大きい場合もあります。
特にバイクはシート下スペースが車両によって全く異なるため、「本体のユニットが大きいと搭載できない場合も。小さい方が取り付けやすいです」(寺沢氏)とのことです。

デイトナ MiVue M820WD

デイトナのMiVue M820WDは、バイク用では珍しい駐車監視機能を搭載。
走行後すぐルートを確認できるタイムラプス機能のほか、専用アプリで録画映像などをチェックできる機能など、旅の記録も楽しめるのが特徴です。
https://www.daytona.co.jp/special/driverecorder_mio/

[三井住友海上 インタビュー] ドラレコで事故解決まで平均17日も短縮!

ドラレコは事故の際、どのように役立つのか。保険会社の三井住友海上火災保険㈱に話を伺ってみました。

同社では、四輪向けに専用ドラレコをセットにした任意保険を扱っており、ドラレコの有用性に注目しています。

三井住友海上HP
https://www.ms-ins.com/

2022年1月から自動車法人営業部内に二輪向けの部署を立ち上げ、「脱炭素、死亡者ゼロ、保険の普及」目指すなどバイクにも力を入れている保険会社です。


三井住友海上 自動車法人営業部二輪室の加納丈太郎氏

 

自身もライダーという三井住友海上 自動車法人営業部二輪室の加納丈太郎氏によると「ドラレコがあることで、事故解決までの期間が平均17日短縮されています。また、事故頻度が22.3%改善されるというデータがあります」とのこと。

「事故解決が難航するケースは、双方の主張が真っ向から反対の場合です。その真偽を確かめるのに時間を要することになっております。そこにドラレコがあることで客観的な証拠が得られますので、真偽の検証がスムーズになります。その結果、事故解決期間の短縮につながります」(加納氏)

早く解決できれば、その分ユーザーのストレスが減り、保険金が早く降りることもなります。それにしてもドラレコがあることで事故頻度が改善されるのは驚きです。その理由も訊ねてみました。

「当社ではサポート機能付きのドラレコをセットにした四輪向けの自動車保険を提供しています。事故多発区間の近くを走行している際や、前車との車間距離が接近した場合にアラートを出すなど、安全運転の支援機能があります。これによって運転者の安全運転に対する意識がスポット的に高まり、事故頻度が下がっていると弊社では考えています」(加納氏)

現在、筆者の知る限り、二輪向けで運転支援機能付きのドラレコは未発売。また、加納氏によると、メーカーを問わずドラレコを装着していることで割引が適用される任意保険は二輪四輪を含めて「まだない」とのことです。

とはいえ、筆者としてはドラレコで「記録されている」という心理状態によって、自然と安全運転を心掛けるため、事故の抑制効果があるのでは、と想像します。さらに今後、高機能ドラレコが一般化したり、ドラレコを装着していることによる任意保険の割引が適用されるようになれば、より事故が減り、普及率も一層高まるかもしれません。

なお同社では、今後レンタルバイクに装着した二輪用ドラレコのデータを収集し、事故多発地点や路面状況などがわかるロードマップを作製する予定。自治体などに提供することで社会貢献活動ができないか検討中とのこと。事故抑止に向けた新しい動きに期待したいです。

バイク未来総研所長 宮城光のココがポイント

現代の様々な事故や事件は、多くの定点カメラや市民の動画などで解決に至る事が多いですね。

さらには、交通関係ではドライブレコーダー(以下ドラレコ)の出現により決定的な瞬間を捉える事で、事故処理もスムーズになったと聞きます。
ドラレコ本体の品質もカメラ技術の向上とともに画素数が増え、広角レンズの採用に加えて、前後カメラの設置で広範囲に渡った動画撮影が可能になりました。

ただし、それらは搭載スペースに余裕が有り、室内に取り付けられるクルマでの使用に限定された進化だった訳です。
屋外での使用が前提となるバイク場合は、更に厳しい対光性、耐震性、耐熱性、防水性、耐高温、耐低温など・・・多くの要因を乗り越える必要がありました。これらの要件がより厳しい条件になって行く事は容易に想像が付きます。

また、ETC等でも同様の問題とされるのが、クルマに比べても絶対数の少なさでもあり、
更にはそこから製品販売価格への影響も考えられます。しかし、生産国を海外に拠点を置くなどの涙ぐましい企業努力によって、販売価格は適正に抑えられ、性能に関してもクルマ専用ドラレコと変わらない高性能品が国内でもリリースされる様にになったことは、本当に嬉しい事です。

なぜならば、バイクの事故ほど悲惨な事故は無いからです。
バイクで事故を起こして実況見分に立ち会える場合は幸運です。
なぜならば、バイクでの事故に怪我はつきもの。殆どの場合は救急車で緊急搬送されてしまうからです。
そうなれば、当事者証言は立ち会える人だけのコメントが調書に記録され、緊急搬送されたライダーへの調書は後日病院で話をする事になるからです。

現場に立ち会えず、病院のベッドで思い出しながらの位置関係や、距離感、タイミングなど、ひょっとすると精度が落ちるかもしれないのです。
ましてや、最悪の事態に陥ったらどうでしょう。「死人に口無し」・・・事故当事者だけが知っている事実関係が永久に隠されてしまうのです。
だからこそ、ドラレコ装着で、万が一の時にも事実関係を明白にすることが必要なのです。

万一の保険になるドラレコの装着率増加を望みます

バイク用ドラレコは4割程度の普及率ながら、ライダーの実に9割が「使用した方がよい」と考えています。
ドラレコがあることで、万一の事故の際も解決までの日数が17日も短縮するのは大きなメリットです。

特に40代、50代のライダーは事故件数が多いにも関わらず、装着率が極端に低い実態が判明しました。
ミドルエイジには、経験豊富なベテランや、久々に乗り始めたリターンライダーが同居しています。
いずれにせよ加齢による体力や反応速度の衰えが始まる年代でもあり、“転ばぬ先の杖”としてドラレコの装着をぜひお勧めしたいです。

バイク王でもこの調査結果を受け、お得にデイトナ製ドラレコが装着できるキャンペーンを実施しています。

キャンペーンページURL
https://www.8190.jp/wish/ds/campaign/dorareko_cp.html

安心なバイクライフの一助となるドラレコ。バイク未来総研としてもバイクのドラレコ搭載率がアップすることを望みます。

筆者プロフィール

宮城光

1962年生まれ。2輪・4輪において輝かしい実績を持つレーサーとして名を馳せ、現在ではモータージャーナリストとしてMotoGPの解説など多方面で活躍中。2022年、バイク未来総研所長就任。