私たちの生活に欠かせない食品や衣料品、生活物資から工業製品に至るまで、身の回りにあるありとあらゆるモノは、海外市場と密接に関わり合っています。
そして日本と海外との間でモノのやり取りを行う際に重要な要素となるのが、日本の円と海外の通貨の交換比率でとなる為替レートです。

ここ数年、かつてない勢いで進行している円安傾向は、中古バイクの相場にも大きな影響を与えています。
ここではバイク王が独自に収集した、国内で開催されているバイクの業者オークションの取引データと、オークション現場の声を元に、中古バイクの現状について考察します。

品質の高さが大きな魅力。海外で人気の日本製中古バイク

一般財団法人自動車検査登録情報協会(略称 自検協)の自動車保有台数データによると、令和6年(2024年)3月末現在、8250万台超の自動車が保有されています。
その内訳は乗用車、貨物車、乗合車、特種(殊)用途車、二輪車に分類され、排気量が250ccを超える小型二輪車と125cc~250cc以下の軽二輪車を合計した二輪車は407万台あまりが保有されています。

日本国内で保有されている400万台を超える台数のバイクは新車、中古車として市場に流通していますが、中古車のうち一定の割合は国内のバイクショップのほか、海外のブローカーも参加する業者間オークション等を経て海外へと輸出されています。
高性能で優れた品質の日本メーカーのバイクは、新車時はもちろん、中古車となっても人気が高く多くの需要があるからです。

日本メーカーの海外現地法人は、アジア諸国を中心として日本でいうところの軽二輪車カテゴリーが製造販売の中心であり、中型車や大型車に関しては今も日本国内の工場で製造されてる機種が多いのが現状です。
そのため、大型の中古バイクのニーズが高いのです。

海外諸国で日本製バイクや自動車の人気なのは、今に始まったことではありません。
最大の理由は、日本で使用された中古車の程度が良いことです。

1960年以降、日本製を示すMADE IN JAPANは高性能、高品質の証とされてきました。
バイクや自動車に関しては、日本のユーザーにとっては性能もさることながら所有すること自体へのステータスや、日本の特徴的な車検制度もあり、大切に使われることが多いことから、USED IN JAPAN=「日本で使用されたもの」に対して特別な付加価値が認められています。

海外市場での中古バイク人気は、客観的なデータからも裏付けられています。

バイク王が独自に調査したオークション実績(2020年前半から2024年前半)によると、2020年前半に38.9%だった輸出率(※海外バイヤーの落札率)は2024年前半に45.4%まで上昇しています。

コロナ禍でさまざまな行動制限が掛かった2021年後半こそ29.7%に低下したことはありましたが、一貫して増加しているのです。その理由を複数の視点から読み解いてみましょう。

【グラフ1】海外バイヤーの落札率
【グラフ2】円相場平均

※グラフ 1.2 はバイク王独自収集データにより作成

コロナ禍においてやや低下したものの、2022年前半から順調な右肩上がりであることが分かる。外国為替市場の相場変動と合わせてみると、2022年に入ってから顕著になった円安傾向と符合する。
ドルの価値が高まることで、円建てで売買される日本のオークションでの優位性が上昇し、値頃感が増したことで輸出率が向上し続けていると考えられる。

円安による割安感アップが輸出伸張に拍車を掛けている

外国為替市場における円安・ドル高傾向は、昨今のニュースや報道で盛んに取り上げられている通りです。
日本と海外との間で原材料や最終製品などのやり取りを行う際に重要なのが、日本の円と海外の通貨の交換比率となる為替レートです。

WHOからコロナウイルスに関する緊急事態が宣言された2020年前半に1ドル108円程度だった相場は、2022年に入ってから1990年以来32年ぶりの円安水準となる122円台となりました。
そして2024年前半には152円程度まで円安傾向が進行し、6月には遂に160円台まで下落しました。

材料から製品まで、海外からの輸入に依存する比率が高い日本は、円の価値が下がる円安はネガティブなインパクトとなります。
先の数字を引用すれば、2020年には108円で購入できた1ドルの商品が、4年ほどで160円に値上がりしたことになります。
値上がり率は約48%で、同じ商品やが1.5倍にアップしたことになります。
このように円の価値が低下すると、必然的に輸入品の価格は上昇するため、輸入業者にとっては大きな打撃となります。
為替変動による上昇分を転嫁できればまだしも、消費者からの反発が大きいため簡単ではありません。

しかしこの円安傾向は、日本で円建てで販売されているモノやコトを購入する、海外の個人や業者にとっては大きな追い風となります。
コロナ禍で水を差されたものの、1ドルの価値が108円から160円になることで、海外からの観光客がどっと増えてインバウンド需要を作り出したことを見ても明らかです。

中古バイクの輸出率が増加している理由も、為替相場と大きな関わりがあります。
円安ドル高傾向になることで、海外の業者が日本のオークションで落札するバイクの割安感が大きくアップするからです。
1000ドルの価値が10万8000円から16万円になれば、以前は応札をためらった車両にも手を出せるようになります。
その上でUSED IN JAPANの価値が付くのですから、海外への輸出率が高くなるのは無理もありません。

越境ECの興隆に見られる海外市場の近さも追い風に

ここ数年の円安ドル高基調による中古バイクの輸出率の上昇は先に説明した通りですが、USED IN JAPANを付加価値としたバイクや自動車の海外での人気は今に始まった事ではありません。
一方で、バイクや自動車以外のジャンルでも、USED IN JAPANの魅力を世界に知らしめる原動力となっている事象があります。それが越境ECです。

インターネットを使った通信販売は国境を易々と越えて、世界のマーケットに直結しています。
初期のインターネットの発展は先進国が牽引したものの、通信環境とスマートフォンの普及によって今では全世界的に規模が拡大しています。

そうした中で、ファッションやカルチャーなど多くの分野でUSED IN JAPANがもてはやされ、海外のバイヤーやエンドユーザーに注目されています。

円の強さを背景に個人輸入がブームとなった1990年代と違って、今では日本市場と海外ユーザーの売買を仲介する越境ECサイトがいくつも存在します。
そこでは気に入った商品を買い物カゴに入れるだけで、決済から発送まですべてをサイト運営企業が代行し、売り手側は言語の壁や煩雑な貿易手続きに忙殺されることはありません。

時代をさかのぼれば、自分が使用した中古品が海外で使われるなどということは想像すらできませんでした。
しかし越境ECの普及によって、価値ある物は国境すら超えて流通する時代となっています。
段ボールに入れて航空便で運べるアニメグッズと、貿易船で輸送される中古バイクでは規模感が異なりますが、円安ドル高の現在、海外からすれば日本全体がリーズナブルに見えているはずです。

中古バイクオークションに比べればはるかに歴史の浅い越境ECですが、USED IN JAPANの人気を改めて気づかせてくれる象徴的な存在と言って良いでしょう。

業者オークションの現場で感じる海外バイヤーの動き、人気機種の傾向とは

中古バイクの輸出率の高さは、かねてからの日本車人気に加えて、円安ドル高やロシア問題といった背景がある中で展開されていると思われます。
ここでは、毎週横浜と神戸の会場でオークションを開催している、株式会社ジャパンバイクオークション 営業部部長 和田剛氏に、最近の傾向についてお伺いしました。

-海外のバイヤーは、日本の中古バイクはどのように捉えらているのでしょうか-
「日本のユーザーが使用したUSED IN JAPANの中古バイクは、世界各国の中古車より走行距離が少なく、程度が良い物が多いと認識されています。
また、日本の車検制度やディーラー網がしっかりしており、整備やメンテナンスが行き届いている車両が多い点も、輸出向けの落札が増加している要因だと思います」(和田氏 以下同)

-輸出向けに落札される車種の傾向や特徴はあるのでしょうか-
「以前は車両のコンディションにかかわらず小型、中型バイクへの応札(オークションの入札に参加すること)が活発でした。
たとえばコロナ禍前までは、ある国においてはホンダフォルツァ(MF08)の需要が高いという実績がありました。
そして最近では、小型や中型モデルに加えて、状態の良い大型の高額車両にも幅広い応札が目立っています」

-特に需要の多いと感じる国や、ニーズが高い車種を教えてください-
「カンボジア、ドミニカ共和国、スリランカ、ドバイなどの中東地域などは最近活発な印象を受けています。
人気車種の傾向は国によって特徴があります。原付1種や2種のスクーター系はドミニカ共和国、カンボジアや一部の中東地域などが中心です。
ホンダアフリカツインやヤマハテネレなどの大型アドベンチャーモデルは、ヨーロッパなどに人気が高い印象です。
また、カワサキZ1000、Ninja1000SX、ヤマハMT-09、MT-07、トレーサー、スズキGSX-S750、GSX-R1000、Vストローム650、Vストローム1000、Hayabusa、GSX-R1000はドバイなどの中東向けが多い印象です」

車種イメージ画像(メーカーオリジナルの状態と異なる場合があります。)

  • ホンダ・フォルツァZ(MF08型)

  • ホンダ・CRF1100L アフリカツイン
    (画像は2022年モデル)

  • ヤマハ・テネレ700

  • カワサキ・Z1000

  • カワサキ・Ninja1000SX

  • ヤマハ・MT-09

  • ヤマハ・MT-07

  • ヤマハ・トレーサー9GT

  • スズキ・GSX-S750

  • スズキ・GSX-S1000

  • スズキ・Vストローム650XT

  • スズキ・Vストローム1000
    (画像は2014年モデル)

  • スズキ・Hayabusa

  • スズキ・GSX-R1000

-円安ドル高の為替相場によって海外のバイヤーの動きが活発になることで、オークション相場全般に与える影響はあるでしょうか-
「ドル円相場は120円~130円台がベースの水準にあって、それ以上にドルが高くなることで割安感が大きくなり、応札がさらに積極的になっているように感じます。
特にここ10年ほどは、在庫を大量に保有してまとめて販売する方法から、現地バイヤーの仕入れ価格をダイレクトに反映した落札傾向が目立つようになったことから、強いドルが日本国内のバイヤーを巻き込み、オークション相場にとって上昇圧力になることも考えられます。
ただし、中古バイクの輸出は仕向け地の政府の方針変更(関税やレギュレーション変更)によって、相場が突然上下することもあるため注意が必要です」

今後の輸出動向に注目。相場への影響をどう読み取るか

日本で生活する私たちは、ガソリンから食品まで円安ドル高の為替相場によって、日々輸入品の価格高騰を実感する昨今です。
古い話になりますが、2011年10月に1ドル75円32銭の戦後最高値を記録してから13年で、ドルに対する円の価値は半分になってしまいました。

もちろん、2011年と現在では為替以外のさまざまな条件が異なり、多くの企業や市場が適正と定めている相場の水準が75円時代とは大きく異なります。
それでも、直近の4年でも1ドル50円近く下落しているのは事実です。直近ではやや円高に振れる材料もあるものの、4年前のような円相場の水準まで急速に戻る可能性は限定的だとも考えられます。

そうした中で、海外バイヤーに注目されているのが日本の中古バイクなのです。
購入から売却まで愛情を持って接し、必要な整備やメンテナンスを欠かさず行い、過剰に走行しない日本のユーザーに使用されたUSED IN JAPANには特別な価値があり、それを理解する海外バイヤーから高く評価されています。

オークションにおける落札率の上昇や、オークション主催者による人気車種や輸出国の解説を参考にすれば、これからも高年式で程度の良い中古車ほど価格が高い水準で維持されやすい環境とみることもできます。

気に入った愛車に長く乗り続けるのは素晴らしいことです。
その一方で、いつかやってくるバイクを手放すタイミングを考えた時、車種やコンディションというバイク個別の条件に加えて、国内の中古バイク市場だけでなく海外まで視野に入ってくるということを意識しておくのは良いかもしれません。

海外のバイヤーが注目する人気車種であれば、当然国内のバイヤーも見逃さず応札するはずです。
すると、国内の中古バイクの相場も上昇する展開となり、愛車を手放すユーザーの視点で見れば、結果的に手にする金額も多くなる可能性があると考えられます。

「風が吹けば桶屋が儲かる」のことわざにあるとおり、関係ないと思われる物事や社会の動向も、思わぬところで影響を及ぼすことがあるものです。
日常生活のあらゆる場面で輸入品と接する私たちにとって、円安ドル高の為替相場は痛みや不都合しかないように思えます。
しかし愛車が「中古バイクの輸出」という舞台に上った途端、逆風が追い風に転じるチャンスとなります。
バイクオークションのデータを読み解くことで、思いがけない真実に出会えることもあるのです。

バイク未来総研所長 宮城光のココがポイント

現在、国内の中古車業界を取り巻く状況は、結果として悪い状況ではないことが上記の報告からも理解していただけると思います。
USED IN JAPANのバイクが海外から注目される理由が幾つか紹介されていますが、日本の中古車販売業に携わる我々がその価値をよく理解し、ニーズにマッチした商品を継続的に提供することで、品質への信頼に加え、流通への信頼も獲得でき、更なる日本中古車産業発展に繋がるチャンスとも言えます。
今後についても、ニーズに応えられる質、量ともに兼ね備えた中古車両をタイムリーに仕入れることが出来るかということが重要な鍵になることでしょう。

筆者プロフィール

宮城光

1962年生まれ。2輪・4輪において輝かしい実績を持つレーサーとして名を馳せ、現在ではモータージャーナリストとしてMotoGPの解説など多方面で活躍中。2022年、バイク未来総研所長就任。