Z1-R 諸元
発売年 | 1978年 | 生産 | 国内 | 全長 | 2235mm |
全幅 | 800mm | 全高 | 1295mm | 重量 | 246kg |
最高出力 | 90PS / 8,000rpm |
最大 トルク |
8.7kg·m / 7,000 rpm |
エンジン | 空冷4ストローク DOHC2バルブ 並列4気筒 |
排気量 | 1015cc | 諸元表は1984年当時のものとなります。 |
80年代初頭まで、カウリングを装備して国内販売されるバイクは存在しなかった。そんな時代に、ビキニカウルを纏ったZ1-Rの端正で高級感あふれる作りを目の当たりにした私は、ただただ感嘆した。
900Super4から始まったZの軌跡
――世界一のバイクを目指して開発され、1972年に発売した900Super4[Z1]は、82馬力の最高出力が生み出す200km/hオーバー、0-400m加速12.0秒の絶対的な性能と、流麗でスピード感溢れるスタイルによって世界中で大ヒットした。当然ながらライバル社もZ1の快進撃を傍観するわけはなく、国内では76年にスズキのGS750やヤマハのGX750が発売され、さらに大排気量の海外用モデルが登場する予兆もあった。
カワサキも1976年にZ1をリファインしたZ900をリリースし、翌77年にはボアを4mm広げて排気量を1015ccに拡大したZ1000を発売する。Z1開発時に将来を見据え、排気量アップが容易なようにボア×ストローク66×66mmのスクエアを選択したのが見事に功を奏し、Z900やZ1000の販売は順調に伸びた。
とはいえライバルの猛追に対抗するには、より強力なモデルが必要とカワサキは考え、用意したのが1978年のZ1-Rである。一見してわかる通り、大人気を博したZ1のティアドロップ型燃料タンクを軸としたスタイルとは正反対の、徹底してスクエアなデザイン。これは当時のヨーロッパやアメリカで流行し始めた、メーカーメードのカフェレーサースタイルを意識したものだった。
異色を放ったデザイン
Z1-Rは国産バイクで初のビキニカウルを装着し、低いコンチタイプのハンドルは既存のZシリーズより10cm以上も幅が狭い。燃料タンクはスタイルを優先し、大排気量車ではかなり容量の少ない13L。三角形のサイドカバーの上、フラットで薄くしつらえたシートの下縁にもシートレールを覆うボディ同色のカバーを配置し、ステー付きのフロントフェンダーも小振り。車両のベースとなるZ1000とはまったく異なるシャープなスタイルに仕上げている。
メーターはビキニカウル内に備えたパネルに埋め込まれ、スピードメーターとタコメーターの他に燃料計と電流計も装備。ハンドル周りをスッキリと見せるために、フロントブレーキのマスターシリンダーはリモート式で、ブレーキレバーから伸びたワイヤーが、ヘッドライト下に設けたマスターシリンダーを動かす凝った構造となる。またZシリーズで初のオートキャンセル式ウインカーを装備し、ハンドル左スイッチボックスにM:手動/A:自動の切り替えスイッチが備わる。単純にビキニカウルを装着しただけでなく、豪華装備で高級化を狙った部分も大きい。
エンジン本体はZ1000を踏襲するが、新規に開発したキャブレターや専用品の4-1集合マフラーなど吸排気系の変更によって、最高出力はZ1000の83馬力から90馬力へと大幅にアップしている。エンジンの始動も既存モデル同様にセル/キック併用だが、キックアームは脱着式で通常は外してシートの裏面に収納する。スタイルを重視したためと思われるが、非常に珍しい仕様である。
ブレーキはカワサキ初の多孔式ディスクローターとなり、キャストホイールも初のカワサキ製(カワサキ初のキャストホイール装備車は76年のZ900LTDだが、モーリス社のホイールだった)。そして前輪にZシリーズ初の18インチタイヤを履き、フロント周りのディメンションは26度のキャスター角はそのままにトレール量を90mmから85mmに変更した。
フロントの小径化とトレール短縮は、カフェレーサーのスタイル構築と、既存のビッグバイクとは一線を画したスポーティで軽快なハンドリングを狙ったもの思われる。しかしこの部分は裏目に出て、とくに当時の西ドイツの速度無制限のアウトバーンなどの超高速走行時に、安定感が不足したりウォブルが発生したといわれる(ウォブルはタイヤの交換で解決している)。
またカフェレーサースタイルの要でもある低く薄い形状の燃料タンクも、さすがに容量13Lでは航続距離の面で現実的でなかったため、ネガティブな評価となることもあった。しかしハンドリングの問題と合わせても、Z1-Rの独自性に惹かれたライダーは多く、その人気は時代を追うごとに高くなっている。
MK.Ⅱへとさらなる進化
Z1-Rは1978年のみの生産だが、2代目となるZ1R-Ⅱが79年~80年に販売されている(型式ではZ1-Rが[D1]で、Z1R-Ⅱの79年モデルが[D2]、80年モデルが[D3]となる。D2とD3の違いはカラーのみ)。ZI-RのベースがZ1000なのに対し、Z1R-Ⅱは「角Z」でお馴染みのZ1000Mk.Ⅱと同時に開発している。Z1Rとの外観的な大きな変化は20Lに容量を増した燃料タンクと、左右2本出しになったマフラーくらいだが、じつに多岐にわたってリファインされた。
エンジンはシリンダーヘッドのカムカバーを角型にデザイン変更し、点火系等の進化によって94馬力にパワーアップ(Z1000Mk.Ⅱは93馬力)。前輪は19インチに戻し、フロントフォークのオフセットを変更してトレール量を101mmまで増加することで操縦安定性を向上させた。ブレーキの多孔式ディスクローターは、雨天に強くブレーキの鳴きも防止するカワサキ独自の不等ピッチ孔に変更している。またフレームのダウンチューブが高強度で高剛性な2重管となり、増加したパワーや高速化に対応。これらは基本的にZ1000Mk.Ⅱと共通の、Z1000やZ1-Rからの変更点である。
2代目のZ1R-Ⅱは、Z1-Rの問題点を改善した秀逸なモデルだが、販売台数としては3500台以下という非常に希少な存在となる。これはZ1000Mk.Ⅱとの並売や、同時期にZ1000Mk.Ⅱから派生したシャフトドライブでツアラー志向のZ1000STや、電子式燃料噴射装置を装備したZ1000Hなど、空冷Zのラインナップが拡大したのも影響しているだろう。
憧れのカフェレーサースタイル
当時は自主規制によって国内では750ccを超えるバイクは販売できなかったため、900Super4[Z1]~Z1000[A2]に対して国内では750RS[Z2]~Z750[D1]を販売。そしてZ1000Mk.Ⅱ[A3、A4]に対しても、Z750FX[D2、D3]を国内で販売した。しかしZ1-RやZ1R-Ⅱでは、排気量を750ccにダウンして国内で販売したモデルは存在しない。これは当時、国内でカウリングの認可が下りなかったのが理由だが、それだけにビキニカウルを纏ったカフェレーサースタイルに憧れたライダーも多かった。
レースを始めたばかりの1982年頃、私はバイクショップで働いていたが、お客様でZ1-Rに乗っている方がいた。カウル付きのバイク自体が無いなかで、Z1-Rのビキニカウルは非常に新鮮で、かつ高級感があった。
ほどなく国内でもカウリングが認可されたが、当時は“取って付けた感”が否めないクォリティの車両も残念ながらあった。しかしZ1-Rはしっかりとメーターパネルが設けられ、そこに整然とメーターやインジケーターランプが並び、まさにコクピットと呼べる作りだった。
まだ逆輸入車が珍しい時代、他にないカフェレーサースタイルで高級な作りのZ1-Rを整備するのが、若い自分には楽しくて仕方なかった思い出がある。
Z1-RやZ1R-Ⅱは販売期間や生産台数は少ないが、カワサキの名を世界に知らしめたZ1に“R”を加えたネーミングからも、カワサキの想いの強さや力の入れようが想像できる。