万が一の転倒や事故から大切な頭を守るためのヘルメット。いろいろな形やデザイン、価格帯のものがありますが、高機能ヘルメットが数万円もするのには訳があります。それでは、その秘密を見てみましょう。

安全性能の目安となるヘルメットの規格を覚えよう

  

ヘルメットは頭部全体を守る最も重要な安全装備品です。転倒や事故の際、その強烈な衝撃から脳を守ることが役割なので、グローブやライディングジャケット以上に重要なアイテムと言えます。

一般的には、高価格帯になるほど高機能化し、その安全性能を高めることができると考えられていますが、その基準となっているのが“規格”です。日本の製品はJIS(ジス)、アメリカ製品はDOT(ドット)、イギリス製品はBSIなど、製造国によってそれぞれ規格が定められています。そして、さらに国際的にも認められている独自の規格としてSNELL(スネル)があります。

高い安全性能を示す代名詞ともなっているSNELL規格は、1956年にレース事故の際、ヘルメットの帽体が大きく割れて亡くなったアマチュアレーサー“スネル”氏の名前に由来しています。氏の友人らが翌年設立したSNELL記念財団が厳しい検査基準を設けて今日に至り、その検査をパスしたヘルメットにのみSNELLの標記が許されます。

傷害保険の内容以上に重要とも言えるヘルメットの安全規格

このSNELL規格は5年ごとに検査基準を更新し都度厳しくなっていることから、世界で最も安全性能の高い規格として知られています。検査をクリアするためにはヘルメットメーカーにも相当の開発体制・費用が求められるので、各社ラインナップの中でも高機能・高価格帯のヘルメットでなければ検査を通っていないのが実情です。
逆に言えば、SNELLが標記されたヘルメットは先進的な検査基準でその高性能が認められたわけですから、大事な脳を直接守るという役割を考えれば、数万円の出費と言えど傷害保険の内容以上に重要なものかもしれません。

なお、日本のJIS(日本工業規格)規格とSNELL規格には、衝撃吸収性能試験(写真)、耐貫通性試験、あご紐試験、ロールオフ試験(ヘルメットが簡単に脱げないか)など共通の試験内容も多いのですが、頭頂部を中心とした試験範囲や各社に委ねられる保護範囲(耳の周りなど)といったものが異なるほか、SNELL規格には、あごガードのある製品にはチンバー試験が、シールドのある製品にはシールド耐貫通性試験が課せられています。

それでは、次項では代表的な高機能ヘルメットを見てみましょう。

高機能ヘルメットに備えられる高い安全性能と快適性能

ここで取り上げるのはアライヘルメットのフルフェイスモデル「RAPIDE-IR(ラパイド-アイアール)」です。あごまでしっかり覆われた安全性の高いフルフェイス形状で、安全性と機能性を追求したモデルとなっています。

  

●安全性能
価格は税別42,000円と高額ですが、「PB-cLc帽体(写真)」という頑丈な積層構造のシェルで構造強度を高め、裾部分には「ハイパーリブ(写真)」という段差(でっぱり)を設けることでクルマのバンパーのような緩衝機能を持たせています。さらにシェルが包みこむ緩衝ライナー部にはアライ独自の「多段階発泡ライナー」を採用し、大きさや重さを抑えつつもSNELL2010規格を余裕でクリアする安全性能を誇ります。

●快適性能

高機能ヘルメットの特徴として、安全性能と共に高い快適性能が挙げられます。スポイラーなどで走行時の不快な風圧や風切り音を整流し静粛性や安定性を向上したり、エアインテークから取り込んだ走行風を熱気と共に排出し頭部のムレを抑えるといった、いわゆるベンチレーション機能が代表的です。

「RAPIDE-IR」の場合は、あご部の「IRマウスシャッター(写真)」などから取り込んだ走行風がヘルメット内側の各部に流入し、後頭部の「ACRダクト4(写真)」や後端下部の「NEノズル2(写真)」などから強力に排出され頭部の快適性を向上しています。

また、あご部下端の「エアロフラップ5(写真)」などで整流効果を高め、ヘルメットのぐらつきを抑えるなどしライダーの疲労も軽減してくれます。シールドの曇りを抑える機能「IPディフレクター2」も寒い日や雨天などでクリアな視界を確保してくれ、安全運転に貢献してくれます。

さらに、直接肌が触れ、フィッティングに大きな影響を与える内装パーツにも、装着位置が調整できフィット感を高められる「アジャスタブル・システム内装(写真)」を採用。密着性を高めることで万が一の転倒や事故の際、衝撃をしっかり吸収あるいはかわすための配慮が行き届いているのです。

アライヘルメットが提唱する安全思想「R75」とは?

アライヘルメットでは、転倒時などにおける“衝撃をかわす”性能に着目し、頭部の保護範囲を曲率半径75mm以上の連続した凸曲面としています。“丸く滑らかな”75R以上の球面が連続したフォルムとすることで帽体の表面を滑らせて衝撃エネルギーをかわし、強固なシェルで衝撃エネルギーを吸収するという二段構えの設計コンセプトとなっています。

このように高機能ヘルメットには、SNELLといった世界基準の規格取得はもちろん、その安全思想や設計コンセプトからして高い安全性と快適性を目指して開発された志の高いヘルメットなのです。ゆえに高機能=高価格となるのもうなずけます。

自らの頭部、脳を守る装備品ですからお金を惜しむべきアイテムではありませんし、つい手軽な半キャップをかぶったり、面倒くさいからと言ってあご紐をしめなかったりするのは万が一の転倒や事故を考えれば危険な行為と言わざるを得ません。ぜひ、高機能ヘルメットの安全性と快適性で不安のないライディングを楽しんでください。

■DATA:

品名:

Arai(アライ)「RAPIDE-IR(ラパイド-アイアール)」

価格:

ソリッドカラー/42,000円(税別)
グラフィックスモデル/50,000円~(税別)

カラー:

ソリッドカラー/グラスホワイト、メタルシルバー、グラスブラック、フラットブラック(つや消し)、バイオレットブラック(今回掲載モデル)

サイズ:

(54)(55-56)(57-58)(59-60)(61-62)mm

問合せ先:

株式会社アライヘルメット

電話:

048-645-3661

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筆者プロフィール

田中淳磨

二輪専門誌編集長、二輪大手販売店、官公庁系コンサルティング事務所等に勤務ののち二輪業界で活動するコンサルタント。二輪車の利用環境改善や市場創造、若年層向け施策が専門で寄稿誌も多数。