夏はロングツーリングの季節ですが、距離を走れば走るほど愛車の点検や修理、パーツの交換が必要となります。そこで今回は、バイクに適した工具の選び方や使い方、バイクに最適化された工具セットなどをご紹介します。

1.工具の基本は車載工具。ただしトラブル時の緊急用と考えたい

上の工具セットは、ホンダVTR250(1998年式)に搭載されている車載工具です。工具というものに触れたことがないという方は、まずは愛車の車載工具を使ってみましょう。車載工具はシート下のスペースやその周辺に格納されています。車載工具の内容はバイクによって様々ですが、スパナや差替えドライバー、六角棒レンチといった、基本的な工具はセットされていることが多く、工具の扱いを練習するには十分です。

ただし、「車載工具に追加、交換しておきたい工具とは?」でも説明しましたが、車載工具の工作精度はそれほど高いものではなく、ボルトやネジをなめやすいことも事実です。右の写真は、手前のスパナが車載工具、奥のスパナが市販品となり、精度の違いが一目瞭然です。車載工具は、ツーリング中のトラブルに対処するための緊急用と考え、自宅でのメンテナンスや修理、パーツ交換の際には、より精度の高い市販工具を使いましょう。

2.まずは工具セットがオススメ。バイク用のセットもある!

工具というものは本来決して安いものではないのですが、近年は100円ショップでも当たり前に並べられるようになっています。しかし、安かろう悪かろうの工具を使うことはオススメできません。ボルトやネジを1本ダメにしただけでも、バイクの機能や安全性に大きな影響を与える恐れがあるからです。

また、工作精度の高い工具は、正しく使えば、本当に長いあいだ使い続けることができます。工具というものは基本的には”一生モノ”と考えてよいのです。ですから、極端に安いものや途上国で製作されたようなものは、できれば避けましょう。工具の工作精度は、その国の技術力の高さを示すものでもあるのです。

そこでオススメしたいのが、使用頻度の高い工具が揃えられたブランド品のセットです。写真は、「KTC」ブランドで知られる京都機械工具株式会社から発売されている「モトクラブシリーズ ライダーズメンテナンスツールセット」です。その名の通り、ツーリング等への持ち運びも考慮したバイク用のツールセットです。

コンビネーションレンチやソケットも、ハンドル回りでよく使われる8mmサイズからエンジンマウントにも使われる14mm、17mmといったサイズまで揃えられています。また、レバーが折れた際、工具を固定することで操作を可能にするロッキングプライヤー、様々なサイズのボルトに対応するモンキーレンチ(右写真)、クロス(プラス)・マイナス・六角・トルクスに対応し早回しが可能なラチェットドライバーなど、ツーリング中のトラブルも想定した構成になっています。

まずは、このようなセットを購入し、必要に応じて、新たな工具を追加していくのが良いでしょう。

■DATA:
品 名:モトクラブシリーズ ライダーズメンテナンスツールセット
価 格(小売参考価格)/28,300円
サイズ:W260×H70×D125mm ※ケースのサイズ
内 容:9.5sq.セミディープソケット(六角)、9.5sq.スライドヘッドハンドル、9.5sq.エクステンションバー、コンビネーションレンチ(8・10・12・14・17mm)、ラチェットドライバ(クロス/No.1・2・3、マイナス/5.5・6・8、六角/2.5・3・4・5、トルクス/T15・T20・T25・T30)、ロッキングプライヤ、モンキレンチ

問合せ先:京都機械工具株式会社
電話: 0774-46-4159(お客様窓口)
URL: http://ktc.jp/

3.メンテナンスの効率化! あると便利な工具とは?

自分でメンテナンスをし出すと、”速さと正確さ”を求めるようになるものです。また、エンジン回りや足回りをある程度整備するようになると、特定の工具が無ければ作業できないというケースも出てきます。そこで、さらなる工具の購入となるわけですが、なるべく早めに揃えておきたい便利な工具としていくつかピックアップしました(上写真)。

ネジやボルトなど細かな金属製パーツの紛失を防いでくれるマグネット付パーツトレイ、強い力をかけられるロングサイズの六角棒レンチセット、ゆるめる・しめるが素早く行えるラチェットハンドルとラチェットに取り付けて使うエクステンションバー、そして各種ソケット類です。特にソケット類の中でも全長の長いディープソケットは、六角穴の深さによって、使える、使えないということになるので、購入時には穴の深さも確認しましょう。

4.様々な工具に共通した最も重要な使い方とは?

さて、最後に、様々な工具に共通した、使い方のポイントをご紹介します。工具を使う際に最も注意すべきことは、締め付けトルクを解除する方法です。上の写真のように、ボルトに工具をしっかりとかませ(正しい角度で密着させ押し込む)、工具の反対側を手の平で「パンッ」と一気にたたきます。こうして一瞬でトルクを解除するのです。

締め付けトルクの解除をじわじわとやってしまうと、ボルトの頭をなめてしまう恐れがあります。そうなると、もう工具がからまわりしてしまい、ボルトを外すことが困難となります。ですから、コンビネーションレンチの場合は、トルクの解除はメガネレンチ側(右写真)で行い、トルクを解除した後は、スパナ側で早回しを行うと、正確で速い作業ができます。

なお、小さなネジのトルクをドライバーで解除する際には細心の注意が必要です。ドライバーの柄(後端)をしっかりと押し込みながら、もう一方の手でぐっと瞬間的に力を込めて回します。そうするとパキッという音と共にトルクが解除されます。回す力より押し込む力を強くするのです。クロス(プラス)ネジは特になめやすいので真っ直ぐに差し込み、押し込む力に集中しましょう。

いかがでしたか? 自分がどのようなメンテナンスをするかによって、必要な工具、理想的な工具は異なります。まずは、愛車のサービスマニュアルやパーツリストを手に入れて各部の造りを理解し、車載工具に触れてみることから始めましょう!

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筆者プロフィール

田中淳磨

二輪専門誌編集長、二輪大手販売店、官公庁系コンサルティング事務所等に勤務ののち二輪業界で活動するコンサルタント。二輪車の利用環境改善や市場創造、若年層向け施策が専門で寄稿誌も多数。