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バイクのエンジン始動時にいつも考えてしまうのが、暖機運転の必要性です。
結局のところ、必要なのか? 必要ないのか? ケースバイケース?

今回はバイクメーカーにも聞いてみましたので、ぜひご一読ください。

1.そもそも、暖機運転って何? やり方と役割とは?


思い返せば、バイクの免許を取るために通った教習所でも、暖機運転は必要と言われました。
でも、20年以上前の話です。バイクは機械的に進化し、インジェクション車にはもはやチョークレバーすらついていません
かつては常識だった暖機運転ですが、現在はどうでしょうか?

まずは、おさらいも兼ねて、暖機運転のやり方とその役割をご紹介します。

暖機運転のやり方と役割

ニュートラルに入れた状態でエンジンを始動し、1000~1500回転くらいの低回転でアイドリングを1~3分間ほど続けることで、エンジンを内部から暖めるのが目的です。
冬場や早朝など外気温が低い時は、チョークを使って(下写真)混合気のガソリン割合を濃くし、エンジン回転数を高めにすることで、冷たい空気や金属によるエンジンストール(エンスト)を防止します。

暖機の過程で、エンジン内部の金属パーツが膨張しパーツ間のクリアランスも適切なものとなります。
また、暖まったミッションオイルはエンジン内の各部に送り届けられ、金属表面にオイルの膜を作ることで金属同士の摩擦を低減し、各部の作動をスムーズにします。
こうすることで、アクセル開度に応じてスムーズに吹け上がると共に、エンジン内部のパーツをいたわることができます。


さて、暖機運転の効果をわかりやすく体感できるのが冬場です。

キャブレター車の場合、外気温が低いなかでエンジン始動直後にアクセルをあおっても吹け上がりがついてこないことがあります。
それどころか、エンジンがストール(ストップ)してしまうこともあります。

技術的な話で言うと、空気の温度が下がることで空気の分子密度が高くなり鈍化、混合気が薄くなってプラグの失火(エンスト)につながるわけです。
そんな難しい話はともかく、『エンジン始動直後にすぐ走り出して、最初の曲がり角でクラッチを切ったとたんにストンとエンストして立ちごけをしてしまった。』そんな経験は筆者にもあります。

やはりエンジンの暖機運転は必要なのでしょうか?
ネットで調べても諸説入り混じってしまいよくわかりません。

次項では、最新の判断をバイクメーカーのHondaに聞いてみました。

2.暖機運転は必要か否か? バイクメーカーに聞いてみた!


「バイクのことはバイクメーカーに聞け」ということで、Hondaの国内二輪販売会社であるホンダモーターサイクルジャパンの広報課富永さんに伺いました。

ちなみに上の写真は、1982年に輸出専用車として開発され、量産車で世界初となったフューエルインジェクション搭載車「Honda CX500 TURBO」です。
Hondaのインジェクションとして有名なPGM-FI(Programmed Fuel Injection)の歴史はこの1台からスタートしました。

Q. エンジン始動時の暖機運転は必要ですか?

A. フューエルインジェクション(FI)採用車では不要、キャブレター車は車種による
インジェクション車は電子制御により気温に応じて安定したアイドリングを行うため暖機運転は不要です。
ただし、キャブレター採用車には暖気運転が必要なモデルもあります。取扱説明書に記載されている始動方法(気温に応じた始動手順やチョークの使用等)に従って暖機運転を行ってください。

キャブレター車の暖気運転の完了については、アイドリングが安定した場合、スロットル操作に対する反応が良くなった場合など車両によって判断基準が異なります。

なお、長時間の暖機運転はガソリンの無駄使いになるだけでなく、エンジンやマフラー、触媒装置などに悪影響を与える恐れもありますので気を付けてください。

ハイ、正解出ましたー! 暖機運転に関しては「インジェクション車は不要、キャブレター車は車種による」が正解でした。電子制御燃料噴射装置であるフューエルインジェクション(FI)システムは排出ガス規制のたびに採用車種が増え、現在では原付スクーターを含め、ほぼ全ての車両に採用されています。

ちなみに下の写真は、世界で初めて4ストローク50ccスクーター用に開発されたHondaのフューエルインジェクション(PGM-FI)を搭載した「ディオ(2007年発売)」のエンジンカットモデルです。
バッテリーが完全に上がってしまっても、キック(0.2秒間)のわずかな電流で始動できるという凄い性能のエンジンシステムでした。


さて、電気を使わない機械式燃料供給装置であるキャブレターは、バイクの創世記から採用されています。
Hondaの回答にもあるように、暖機運転の方法やその完了判断などは取扱い説明書などを参考に自分自身で決めるほかないでしょう。

3.暖機運転でも考えたいバイク乗りのマナーとは?


さて、暖機運転について必要かどうかがわかったところで、ちょっとした注意点を書いておきたいと思います。

●注意点その1. 暖機運転時の騒音
インジェクション採用車の場合、自動(オートチョーク)で高められたアイドリング回転数によって、その騒音が近所迷惑になることがあります。
キャブレター車の場合は、チョークレバーの操作によりエンジン回転数を低めに調整することもできますが、それでもエンジン内部のメカノイズやマフラーからの排気音には気を使うべきです。
特に早朝のエンジン始動には気をつけたいものです。

●注意点その2. 始動直後の走り出し
エンジン始動後、インジェクション車はオートチョーク機構などの電子制御によって、とにかくエンストしないようにエンジン回転数が高めに維持されます。
この状態ですぐに走り出す場合は、いつもとは違うアクセル感覚(アクセル全閉時でも回転が高い)によりシフト操作をミスし、かえって走行中のエンストにつながる場合があります。

いかがでしたか?暖機運転の要・不要論。
さらには暖機運転時の方法やマナーや注意点までご紹介しました。エンジンの始動ひとつとっても奥深いものですね。

筆者プロフィール

田中淳磨

二輪専門誌編集長、二輪大手販売店、官公庁系コンサルティング事務所等に勤務ののち二輪業界で活動するコンサルタント。二輪車の利用環境改善や市場創造、若年層向け施策が専門で寄稿誌も多数。