個性的なバイクの代名詞とも言える「ビーキング」。
スズキはそもそもカタナなどエポックメイキングなデザインを提案することがあるが、インパクトで言えばこれはカタナ以上だろう。
ハヤブサベースのネイキッドという説得力に加えこの姿。もっと売れてよかった。

コンセプトモデルからのガッカリさを払拭

モーターショーやモーターサイクルショーで衝撃的なモデルが登場すると「うわぁ! 夢のバイクだ!」と盛り上がる。
が、実際に市販されてみると「あれ? コンセプトモデルはあんなにカッコ良かったのに、なんか……普通」ということがままある。

当然、合法的に公道を走らせるために改められている部分も多いだろうが、同時にいくらか「守り」に入るというか、あんな奇抜なモノ、本当に売るわけにはいかないでしょう? というメーカーサイドの想いも透けて見える。

その点、B-KINGはほぼそのまま出たのが偉い。
2001年の東京モーターショーで独自のスタイリングとハヤブサのネイキッド版というそのコンセプトが多くの目を集め、市販化も熱望された。
しかし筆者はじめ、多くのライダーが「まさかこのカタチのまま出ないでしょう」とタカをくくっていたはず。
ところがB-KINGは本当にほぼあのコンセプトモデルのカタチのまま市販化された。その事実だけでもう、素晴らしい。

2代目ハヤブサと同じタイミングで

B-KINGが登場したのは、ハヤブサが2代目へとモデルチェンジしたタイミングであり、国内にも同じタイミングで逆輸入車として入ってきた。
新しいハヤブサが197馬力というとんでもない出力を発揮していたのに対して、B-KINGは183馬力と控えめに見えてしまうが、初代のハヤブサは175馬力だったのだからそれ以上の出力をネイキッドスタイルで実際に市販するというのはなかなかのインパクトだった。

コンセプトモデルの時点ではスーパーチャージャーの搭載も提案されていたが、実際に市販されたモデルにはスーパーチャージャーは搭載されず、シンプルにハヤブサエンジンの転用となった。

ただ特にマフラーエンドの処理が個性的なスタイリングはコンセプトモデルそのままであり、持てる実力を誇示するような姿と、その圧倒的なサイズ感によりライダー達を恐れさせた。

意外に優しい乗り味

新型ハヤブサと同じタイミングと言うこともあり、メディア向け試乗会はハヤブサと同時に富士スピードウェイにて行われた。
カウルが無いということもあってハヤブサほどの最高速は出なかったが(安全のために250km/hあたりにスピードリミッターが設定されていたような記憶がある)、強烈な加速はさすがハヤブサ譲りで、コーナーが連続するセクションではハヤブサに後れを取らない運動性も確かに持ち合わせていた。

2型のハヤブサがそうであったように、B-KINGにもドライブモードが設定されており、タンク上のボタンでAモードもしくはBモードが選択できたのだが、この切り替えがバイクが停止している時しかできず、切り替えるためにわざわざピットインしなければならなかったのがもどかしかったのを思い出す。

サーキットという超高速域でハヤブサと追いかけっこするのも楽しかったが、公道では実は優しい乗り物でもあった。
当時はちょうどスーパースポーツからカウルを剥ぎ取った「ストリートファイター」が流行っていたが、B-KINGは239kgの重量があり、かつシートが低いのかそもそも重心が低いのかドシッと地面に張り付いているような感覚があり、それこそハヤブサ的な安定感、そしてバンディットなどビッグネイキッド的な付き合いやすさを持っていた。

高い重心位置からヒラヒラ走る軽量な「ストファイ」系とは違っていて、この見た目に反して付き合いやすさももっていたのだ。

今や絶版車ステータス

当時は残念ながら思うようには売れなかったB-KING。逆輸入車であったことや、価格設定がハヤブサよりも高かったこと、またコンセプトモデルにあったスーパーチャージャーが搭載されていなかったことが大きいだろうが、それ以外にもコンセプトモデルのインパクトから、実際に発売されるまで7年もかかってしまったのが惜しいポイントだっただろう。
「鉄は熱いうちに打て」ではないが、7年もたってしまうと「今さら」感があったのは否めない。

加えて、コンセプトモデルのカタチそのままで出たのは素晴らしいことではあったものの、やはりその独特のスタイリングは乗るものを選んだのかもしれない。

しかし新車当時にあまり台数が出なかったこともあって、現在ではかえってプレミアム化しているから面白い。こういった現象は絶版車の常だ。絶対数が少ないから価格も上がる傾向にある。
今のB-KINGの中古相場は当時の新車価格以上となる事が珍しくない。現役当時は売れずに大幅値引きされていたことを思うと複雑な思いだ。

幸い、ハヤブサエンジンは耐久性にも優れているため、距離を走っていても問題のある個体は少ないB-KING。誰もが振り返る「凄いバイク」をお求めなら面白い選択肢だろう。

SUZUKI B-KING


ロボットアニメに出てきそうな力強いマスクとタンク横のシュラウド、そして跳ね上がったテールに存在感抜群の2本出しサイレンサーが超個性的。
写真で見ても大きいが、実物もとても大きくインパクトは絶大だ。
リアタイヤも200幅と太く、全てにおいてグラマラスだったが意外やライディングポジションに不自然さはなく、幅のあるシートも快適だった。
発売のタイミングが違っていたらもっと売れたかもしれないが、絶版車として今楽しむのも良いだろう。

筆者プロフィール

ノア セレン

絶版車雑誌最大手「ミスターバイクBG」編集部員を経た、フリーランスジャーナリスト。現在も日々絶版車に触れ、現代の目で旧車の魅力を発信する。
青春は90~00年代で、最近になってXJR400カスタムに取り組んだことも! 現在の愛車は油冷バンディット1200。