90年代はネイキッド真っ盛り。ゼファーの400ccクラスから飛び火して250クラスも大いに盛り上がる中、カワサキはキッチリと18000RPMまで回し切れる「バリオス」を投入。
超高回転サウンドとその速さはライバルを圧倒した!

バリオス 初期型


ZXR250のショートストロークエンジンのカムやフライホイールマスを変更して搭載した、カワサキ版250NK。
エンジンには空冷風のフィンを切ってクラシカルさの演出もしたものの、ラジエターには大きなシュラウドをつけるなど水冷車であることも決して隠さず、ゼファーとはまた違った新たなスタンダード像を提案した。
フレームはダブルクレードル形状でタンク下にパイプが見えている構造にもかかわらず、バンディットや400のCB-1のようなスポーティなイメージにはならず、伝統的なテイストにまとめることに成功しているのはカワサキならではのバランス感覚だろう。
砲弾型メーターや丸ライト&丸ミラー、そして初めからカスタムされているかのようなミニマムなウインカーなどもスタイリッシュだった。
紫がかったカラーリングなどでちょっとヤンチャなニーズにもこたえつつ、かつ96年にはエンジとホワイトのツートンカラーを展開するなど、オシャレな提案もしてくれ、様々なタイプのライダーにアピールしていたと言えるだろう。

250ccクラスにもネイキッドの波

各社のレプリカ合戦の過熱と共にバイクブームが極限を迎えつつあった80年代後半、ゼファーショックを待たずして既に各社から「何か違うものを」という模索は確かにあった。

ゼファーが最もアイコニックではあっただろうが、ホンダのCB-1やスズキのバンディット400などがソレであり、これらはゼファーに前後して登場。

レプリカ一辺倒ではまずいぞ、と各社共に開発を進めていたわけである。

400ccクラスはゼファーが一つのきっかけになり、90年代初頭にはスーパーフォアなどのライバル登場と共に、伝統的なネイキッドスタイルなのか、それともそれにパフォーマンスも入れ込んでいくのか、などといった狭間で揺れつつも各社が高め合って魅力的な市場を形成していった。

だからこそ、空冷あり、水冷あり、モノショックあり、と多様なモデルが生まれたのだった。

対する250市場はあまり注目されることが少ないようにも思えるが、やはり同じように各社から「何か違うものを」そして「個性的なものを」とモデルが充実していった。

当初はコブラ250や2ストのウルフ250といった、本当にレプリカからカウルを外しただけ、に近いような、今で言うストリートファイターが存在したが、後に400勢同様にスチールフレームと伝統的な砲弾型メーター等を採用していくことになる。

ただ250クラスの特徴としては、多くのモデルはモノショックを採用し、かつエンジンも水冷を守ったことがある。

排気量的に空冷でいくにはパワー面で難しさがあったかもしれないし、そもそもこの新しい「ネイキッド」というカテゴリーは4気筒であることが一つの前提としてあったため、新規に空冷の2504気筒を作る……というわけには、さすがにいかなかったのだろう。

かくして、各社の250ccネイキッドはそれぞれベースとなるレプリカの高回転高出力精密機械である4気筒DOHCエンジンが積まれていったのである。

「デチューン」という言葉

ネイキッド世代ほどこの言葉には敏感ではないだろうか。
「チューン」の反対、「デチューン」である。
性能を落とす、という意味合いであり、誰でもそれを歓迎する人はいるまい。

本当の意味では行き過ぎたレプリカ勢のエンジンをより常用回転域/常用使用速度域に合わせこむ、という意味合いではあるのだが、事実多くのエンジンがベースのレプリカでは18000RPMからレッドゾーンなのに対し、ネイキッド版になると16000RPMへとレッドゾーンが引き下げられている、ということがあった。

その2000RPMに「『デ』チューン」を感じてしまったものだ。

そのおかげでストリートで気軽にこの超高性能エンジンを楽しめていたにもかかわらず、心のどこかにひっかかる、レプリカに対して「なんだか負けてる……」感。

しかしバリオスは違った。しっかりとレッドは18000RPMからで、初期型は規制前の45馬力仕様。これには心躍ったものである。

実際にはベースモデルであるZXR250に対しては常用回転域の使い勝手を向上させるチューニングが施されたエンジンではあったものの、18000RPMからのレッドゾーン、そしてタコメーターに刻まれたレッドの向こうの「20」(2万回転を示す)の文字に、「こんなネイキッドな見た目なのに超本気じゃん!!」と盛り上がったのだった。

確かに速かったバリオス

ライバルとして挙げられるのは、このクラスにいち早く参入したスズキのバンディットやホンダのジェイド、そしてちょっと変わり種ではカタナ250や2本ショックを選んだヤマハのジールなどだろう。
いずれも91年ごろに一気に登場したあたり、各社ともこのカテゴリーへの入れ込み具合が想像できる。

しかしライバル多きこのカテゴリーにおいて、バリオスは一歩抜きんでていた。
ゼファー、さらにはその向こうにチラつくかつてのZの影は感じさせないモダンなデザインながら、砲弾型メーターやダブルクレードルフレームなど、本当に上手に伝統と新しさのバランスをとっていたのだ。

ゼファーのような既視感は無かったし、かといって奇抜なほど新しくもない。
この構成は80年代を生き抜いたバイクファンのみならず、ポストバイクバブル世代にとっても素直に受け入れられるものだったのだ。

そして何より、バリオスは速かった。前述したライバルたちももちろんそれぞれ魅力はあったが、しかし本当に、バリオスは別格だったのだ。

低回転域から確かなトルクで車体を進め、かつ高回転域はレッドゾーンに飛び込むまでZXRと遜色ない強烈な加速を見せF1マシンのような超高回転の咆哮をまき散らした。

当時リアルタイムでこれらバイクに接していた筆者だが、バリオスはもう「相手にならない」ほど速かった印象がとても強く、バリオスライダーは遠慮なくレプリカ乗りにも勝負を挑んでいったものだったのだ。

ZXRのカムやフライホイールマスを変更し「デチューン」したことになっているバリオスだが、実際の乗車感覚的にはファイナルを少しショートに振ったぐらいの差ぐらいしか感じなかったのではないかと思う。

「バリツー」の登場に時代の変化を見た

バリオスが45馬力の本気仕様だったのは初期型のみで、93年には他社/他車同様に新しい規制値に合わせて40馬力へとダウン。
それでも例の18000RPMからのレッドゾーンは維持し、やはり「速い」というイメージは変わらなかった。

しかし97年に登場した「バリオスII」となるとちょっとイメージが変わってきた。

「バリツー」などと呼ばれるこの型は2本ショックを採用しクラシック路線へと舵を切ったのが大きなトピック。
加えてポジションが少しアップライトに改められ、車体寸法もわずかに大きくなっている。

バリオスII


ツインショックになったのが一番の変更だが、それに伴いサイドカウルとテールカウルが別体となったり、タンデムステップがライダーのステップから伸びる形状になったりといった変更があった。
加えてホイールベースが伸ばされ、ステップ位置は前へ、ハンドルはアップに、とリラックスできる性格に生まれ変わっている。
高回転域だけではなく、常用域のトルクも豊富だったバリオスだけに、こういった提案もできたのだろう。
スロットルポジションセンサーも新搭載したことでさらにこの性格をサポートしている。
モノショックからツインショックへの変更は退化にも思えるが、実はシート下にスペースを確保できたり、またはプリロード調整やサスペンションそのものの変更が容易であったりといった魅力もあった。

モノショックからツインショックに変更というのは、実はサスの交換が容易であったりシート下スペースを確保できたりといった実用的な魅力もあるのだが、しかし性能面では退化したと言ってもいいだろう。

バリオスはスポーティで速いというイメージが強かっただけに現役若者世代からすると「何で??」という感覚だったのをよく覚えている。

同時に、少し上の世代が求めていた、ゼファー的なクラシカルさへと変わってしまったその姿に、「我々若者ではなくもっと上の世代に向けたモノづくりとなってしまったのか」「結局はバイクブーム世代が対象なのか」と得も言われぬ「取り残され感」のようなものも味わった気がした。

しかし実は「バリツー」はそれだけではなく、スロットルポジションセンサーがついて低回転域を充実させたり、サイレンサー容量が増えて静寂性が高まったりとしっかりと進化していると同時に、各種規制にも対応していったという都合もあったのだった。

狙うは初期型or最後期型

大ヒットとなったおかげで非常に多く売られ、結果中古車市場でもタマ数たっぷりというバリオスだったが、しかしそれでも最近ではだいぶ少なくなってきてしっかり絶版車ステータスへと変わってきた。

同時に価格も上がってはいるが、逆に言うとこんなに高性能なバイクを20万円前後で気軽に乗りまわしていた我々世代が罰当たりだったような気もする。

素晴らしく高性能かつ付き合いやすい、F1サウンドを発するバイク、絶版車的価値が認められるべきであり、高値を出してでも乗る価値はある。

今バリオスを求めるならば、パーツ供給の不安なども覚悟の上、敢えて初期型の45馬力仕様を選ぶのが男気である。

とてつもなく速く、エキサイティングだったあの初期バリオス。全てのライダーに味わってほしいと思えるほどの素晴らしさだ。

もう少し現実的かつ賢い選択肢は、なるべく最終型に近いバリオスIIだろう。年式が新しい分故障個所も少ないだろうしアフターも比較的安心なはずだ。かつポジションが楽チンで街乗りがしやすい一方、キャスターやトレールといった数値は初期と変わらないためスポーティな走りだって楽しめる。そして超高回転F1サウンドは変わらぬ魅力だ。

400ccクラスとは違った、スポーティな展開した250ccクラスのネイキッドたち。その中でも特に速く、かつスタイルも独創的だったバリオスは今でも非常に魅力的なバイク。名車の名にふさわしい。

ちょっと思い出話を

90年代後半、仲間が初期型のバリオスを買ってきた。
アイドリング領域から雑味のある音を発していて、これがカワサキのエンジンか、などと思ったものである。
走り出すと仲間内のバンディットやジェイドよりもブッチギリで速く、信号ダッシュでも高速道路でも、本当に相手にならなかった。

ストリートでは筆者が乗っていたNSRにも劣らないほどだったのだ。
エンジンフィールはジェイドの洗練された感覚とはかけ離れていて、荒々しくぶっきらぼうだったが、それでも高回転域まで回した時の激しさ、音、振動、フィーリング、そして何度でも言うが「速さ」。
カルチャーショックであり、これならもう250で十分じゃないかと思ったものである。

ただその仲間のバリオスは始動性に問題を抱えていた。ツーリングに行きコンビニ休憩などでエンジンを切ると、セルは回れどエンジンがかからないということが多々あった。
しかもカワサキはエンジンがかかっていないと2速に入らないという設計のため、押し掛けも困難を極め、何度も苦労したのをよく覚えている。
この個体だけかと思いきや他のバリオスでも似た症状を見たことがあるため、電気系のメンテやリフレッシュは気を付けたいものだな、と当時から思っていたなぁ。

筆者プロフィール

ノア セレン

絶版車雑誌最大手「ミスターバイクBG」編集部員を経た、フリーランスジャーナリスト。現在も日々絶版車に触れ、現代の目で旧車の魅力を発信する。
青春は90~00年代で、最近になってXJR400カスタムに取り組んだことも! 現在の愛車は油冷バンディット1200。