スズキ バンディットシリーズ -他と同じはイヤダ! 油冷エンジンで独自のビッグネイキッド像を構築-
公開日:2023.06.26 / 最終更新日:2023.06.26
既存のハイパフォーマンスエンジンを日常域で楽しみやすいようにチューニングし、汎用性の高い車体にまとめ上げた「ビッグネイキッド」群。
そんな中スズキはあえてスポーティ路線を選び、ビッグネイキッドのライバルの中で最軽量となったGSF1200を投入。
バンディットシリーズの世界的大成功へと繋がっていった。
エンジンそのものが「美しかった」
当時のスズキのフラッグシップモデル、油冷GSX-R1100のエンジンをベースにボアを広げ、1156ccとしたユニットを搭載したネイキッド、1995年のGSF1200が大排気量バンディットシリーズの出発点……かと思いきや、実はそのちょっと前にGSX1100Gという輸出モデルが存在した。
こちらはGSX-R1100と同じ1127ccでシャフトドライブ、フロントに18インチホイールを履かせるなどいわゆる「ビッグネイキッド枠」とはちょっと路線が違ったクルーザーテイストを持っていた。
GSX-Rの時はカウルに隠れていたスズキ自慢の油冷エンジンだが、GSX1100Gでネイキッド化されたことで、実は細かなフィンが切ってあり外観が特徴的で美しいということに社内外の人が気づいたことだろう。
センターカムチェーンゆえに左右のルックスも対称で、また油冷ゆえに冷却水ホースなどがなく、おかげでカウルを外してもすっきりとしたルックスをしていた。
エンジンの性格はクルーザー然としたネイキッドの車体に合わせて、GSX-Rでは145馬力を発生するに至っていたものをキャブやカム、点火時期を見直して100馬力まで落とされ、そのおかげで日常域での豊かなトルクを獲得。
このモデルは国内に正規で入ってくることはなかったものの、スズキはこの時点で、「これはこの先、何かに化けるぞ」と手ごたえを感じていたはずだ。
かくして4年後、排気量が増やされ、大幅に軽量化したGSF1200が国内に登場する。
「ウイリーマシン」と名高いGSF
ホンダのCB1000SFとカワサキゼファー1100は92年、ヤマハのXJR1200は94年に登場し既にビッグネイキッド像が確立されつつあった時に、GSF1200はデビューした。
ライバルたちがみな昔ながらのダブルクレードルフレームに2本ショック、そしてホイール径やタイヤの太さなども色々と試行錯誤していた時期だが、GSFはそういった懐古路線も含めた「ビッグネイキッド」像とは別路線を追求。
フレームはダブルクレードル形状としながらも上部は剛性を確保しやすい幅のあるものを採用し、タンクがその上に乗るスタイリングは独特だった。
ホイールもスポーツバイクでは定番になっていた17インチ径のフロント3・5インチ/リア5・5インチ幅を採用するなど、「ビッグネイキッド」というよりは他社とは違った真正直なスポーツバイクを作った、というイメージだろう。
またライバル勢が軒並み230kgオーバーの車重だったのに対し、GSF1200は208kgと軽量に仕上げられ、かつホイールベースは1435mmと一般的な750クラスよりも短いほど。
加えてエンジンは最大トルクの発生回転数を4000回転に設定したことで、日常的な速度域/回転域で非常に活発な性格が与えられていた。
「アクセルを大きめに開けようものなら即座に前輪が離陸する!」と噂され、堂々とした重厚な走りが魅力だったライバルのビッグネイキッドたちとは一線を画す、スポーティなモデルとしてスタートしたのだった。
ライバル勢に対して軽量であることやホイールベースが短いこと、そして低回転域で大トルクを発することなどからウイリーマシンと称されることも多い。
後のバンディットシリーズに比べるといくらか荒削りな印象もあるが、だからこそマッスルバイク的エキサイティングさが魅力だ。
能あるバンディットは爪を隠す
コンパクトで軽量、そして日常域から大トルクを積極的に楽しめたGSFはビッグネイキッドというカテゴリーだけでなく、大排気量モデルを日常的にスポーティに楽しむという新たなバイクの楽しみ方そのものを提案したと言えるだろう。
ヤンチャな性格によりワインディングでも楽しむ人が多かったし、スタントライダーにも愛された。欧州では600cc版もあり絶大なる人気を誇ってスズキにひと財産もたらしたモデルとなっていた。
そんなGSFの初めてのモデルチェンジは2000年。車重こそ214kgへと重くなったが、パワーはGSFの97馬力から100馬力に向上、そしてなんと、短かったホイールベースはさらに短くされて1430mmに設定された。
こう聞くとさらに過激になったのかと思いそうだが、最大トルク発生回転数が6500回転へとかなり高められたことや車重が増えたこと、そしてスロットルポジションセンサーがついたキャブなどによりGSFの凶暴さは影を潜め、むしろ上質さが目立つようになった。
この2000年のモデルチェンジからは国内でも「バンディット」の名前が使われるようになり、そしてこの型からはハーフカウルがついた「S」の方がメインで売られるようになったため、バンディットと言えばハーフカウル付をイメージする人も多いだろう。このハーフカウルがついたおかげで「ウイリーマシン」的な印象も薄らいだのかもしれない。
全体的に洗練された印象となったバンディットだったが、こと速さについては変わらずビッグネイキッドカテゴリーの中で光るものを持っていたし、カウルがついたことやタンデム部含めてシートが快適になったこと、燃料タンク容量が増えたこと、グラブバーや荷掛けフックがついたことなどもあって全体的に汎用性が備わり、乗り味も上質になった。
GSFほどのヤンチャさは影を潜めたが、まさに能ある鷹は爪を隠す的な進化を果たしたのだった。
最大トルク発生回転数が高められたことやスロットルポジションセンサーがついたことなどでより洗練されたフィールを得ている。
この型からはハーフカウル付の「S」モデルが主流となり、初代のもっていたヤンチャなイメージからもっとオールラウンダー的な立ち位置となった。
とうとう油冷が最後に 「ファイナルエディション」登場
2006年にはモデルチェンジしてヘッドライトがそれまでの猫目2灯から1灯になった。
スイングアームは45mm伸ばされてホイールベースが1480mmとされたのは、バンディットユーザーがGSF時代のエキサイティングさよりも、高い汎用性を求めるようになったからだろう。
ハーフカウル付の方が市民権を得て、タンデム含めた優秀なスポーツツアラーとしての立ち位置を確立していたのだ。
このモデルチェンジでは他にもシート高が2段階の高さから選べたり、タンクを短く設定し着座位置が前方に移動したりといった変更がなされたが、エンジンスペックは前モデルと同じとされた。
この頃には排ガス規制が厳しくなり、とうとうGSX-R1100から繋がってきた油冷エンジンでは厳しくなってきたため、「ファイナルエディション」も発表された。
内容に変更はないが、タンクに「油冷Final Edition」と記された。
この頃にはバンディットはライバルよりも軽量でパンチを楽しむモデル、という印象は薄れていただろう。
カワサキZRXもスポーティ路線をとったこともあってか、バンディットはさらにオールラウンド的性格や気軽な付き合いやすさなどをアピール。
ホイールベースは伸ばされ、2段階調整機能が付いたシートは低い位置では当時ライバルの中で一番低い数値となっていた。
ついに水冷化。バンディットブランドは最後まで守られた。
バンディットと言えば油冷のイメージだが、2007年には油冷ファイナルと酷似した車体に水冷ユニットを積んだ新型が登場。
各種寸法は先代と同じだが、車重は10kgほど重くなっており、冷却水を持たない油冷エンジンがいかに軽量だったかを知らされる。
とはいえこの水冷ユニットも非常に良くできていて、クランクケースはそれまでのビッグネイキッドの常識を覆すコンパクトさを実現。
吸気はインジェクション化され、ミッションは6速化され、メッキシリンダーも採用され、そして最大トルク発生回転数は初代のGSFを彷彿させる3500RPMまで下げられた。
このおかげで水冷バンディットはその重量増を感じさせないキビキビ感を実現し、カウル付の「S」は優秀なツアラーとして、そしてカウルのない方は初代GSF的な日常的気軽さ&エキサイティングさを提供してくれた。
大変力の入ったこのエンジンは残念ながらこのバンディット1250にしか使われなかったことが残念でならない。
しかし今日日のスーパースポーツ由来のストリートファイター系ネイキッドでは表現できない、ビッグネイキッドならではの余裕や上質さを確かに持っていたエンジンだった。
クランク内の3軸配置をスーパースポーツモデルのように立体とすることでコンパクトにし、6速ミッションやメッキシリンダー、インジェクション吸気など次世代のマシンへと進化した。
重量増が指摘されることもあるが、初代のGSFのように極低回転域で最大トルクを発生することと、6速になったおかげで繋がりが良いミッションのおかげで油冷モデル以上のキビキビ感を持っていた。
お馴染みハーフカウルとネイキッド仕様の他、フルカウル仕様の「F」もラインナップされた。
ハーフカウル仕様
フルカウル仕様
バンディットの名を持たない兄弟車種
初代GSF(GV75)、フレームが直線的になった初代バンディット(GV77)、油冷ファイナルエディションも出たホイールベースが長くなったモデル(GV79)、そして水冷(GW72)の4機種で形成される大排気量バンディットシリーズだが、この他にも油冷エンジンを使った兄弟車がいた。
イナズマ
1998年にはより「ビッグネイキッド然」としたイナズマが登場。
タンクがフレームの背骨部分に覆いかぶさる昔ながらのデザインをしており、テールももっとクラシカルなスタイリング。加えて2本ショックとするなど、当時大きく盛り上がっていたビッグネイキッドブームに対してより本流の一台を投入した形だ。
キャブレターもより小径のものを採用するなど、GSF以上に日常的に、気軽に乗れるモデルとされた。
そこでスズキは油冷ビッグネイキッドの派生モデルとしてイナズマを投入。
こちらはフレームの背骨部分を一本とし、タンクがその上にかぶさる昔ながらのスタイリングで登場。リアサスもツインショックとすることで王道ビッグネイキッドの姿となった。
同じ姿の400cc版もラインナップしたことも話題となった。
GS1200SS
そして2001年には耐久レーサーイメージの大型カウルを持つGS1200SSも投入。
エンジンこそ兄弟車と同じ(吸気系はイナズマと似たもので、最大出力よりも扱いやすさを狙った仕様)だが、車体周りは全てにおいて専用設計となっており大変に力の入ったモデルと言えるだろう。
発売当初は話題にこそなれど販売的には期待したほど伸びなかったようだが、後にその独自性ゆえに人気に火が付き、絶対数が少ないこともあってスズキ車としては珍しくプレミアム化した。
2本ショックのスタイリングはイナズマに通じるものがあるかもしれないが、大きな耐久カウルやセパレートハンドルなど、多くのビッグネイキッドがラインナップされていた当時でもかなりのインパクトを持って登場した。
この大きな耐久カウルのカッコ良さにライバル会社も追従すれば面白い流れができたかもしれないが、発売当時は孤高の存在となってしまいあまり台数が出たモデルとは言えないだろう。
結局油冷ネイキッドはスポーティなバンディットシリーズが本道となったということだ。
GSX1400
もう一台忘れずにいたいのは、油冷最大排気量のGSX1400だ。こちらは過熱するビッグネイキッド市場に対するスズキの回答、とばかりに排気量を1401ccに設定し、スタイリングも「これぞ王道」というものでまとめてきた。
しかも吸気はインジェクション、ミッションも6速にするなどライバルに先駆けて次世代のビッグネイキッド像を提案していた。
エンジンがGSX-R由来のものとは言いにくいためバンディットシリーズとは切り離して語られがちだが、油冷という視点で見た場合は外せない兄弟車である。
排気量増大を続けるライバル勢に対して「1400ccでどうだ! もうそんな戦いには終止符を打ってやる!」とばかりに登場した。
しかしただ排気量が大きいだけではなく、最大トルクではライバルを圧倒し、またそのサイズを持ちながらも軽快に操れる性格はまさにバンディットの流れを汲んでいた。
水冷バンディット同様にインジェクションや6速ミッションを備えるなど先鋭的な設定としていたのも魅力。
ホンダのCBやカワサキのZRXが6速化したのはもっとずっと後の話なのだから。
乗って・比べて・所有して…… 筆者雑感
ジャーナリストという立場上様々なバイクに乗る機会があるが、バンディットシリーズについては特別な気持ちがある。
これまで2台所有し、今また3台目を所有中であり、同じバイク(エンジン)を3回も買っているのである。
最初に買ったのはGSF1200にハーフカウルの付いた「S」だった。綺麗なフルノーマル車両で絶好調だった。
GSFはウイリーマシンなどと呼ばれることが多いが、筆者としてはそんな風に思ったことはない。
確かに大排気量車としてはコンパクトで小回りが利くものの、ナメてかかることなく、ちゃんと伏せてアクセルを開ければイキナリ前輪が離陸するなどということはないし、ましてや自分で所有していた「S」はカウルがついていたこともあってか、前輪が浮いてしょうがない!と困ったことはなかった。
GSF1200Sはカウルのデザインが当時も今もあまり魅力的には思えなかったし、せっかくカウルがあるのにメーターがカウルマウントではなくハンドルマウントだったことが奇妙に思えたものだったが、しかしあれは本当に良いバイクだった。
ドラッグレースに参戦してクラッチを焼いてしまったのを機に手放してしまった。
何台ものバイクを乗り継いでいるうちに「やっぱりあの油冷エンジンは良かったなあ!」と再び手に入れた油冷はカウルの付いていないバンディット1200(GV77)。
GSFほど活発ではないと言われ、実際に最大トルク発生回転数が高くなったためか街中の速度域でアクセルを開けた時の「ウワッ!」と感はGSFの方があったと思うが、一方でGSFがその性格ゆえドン付き感に疲れることもあったのに対し、バンディットはコンパクトなノンカウルだったこともあり、まるでパワーのあるCB400SFのように扱いやすかった。
日常的に足がわりに乗るにも全く苦がなく、それでいてロングツーリングでは燃費も良かったしタンデム性能も高く、またワンタンクの航続距離も十分だった。
カウルはついていなかったが、砲弾型のメーターが意外に良い仕事をしてくれており、高速域でも辛いと感じる場面は少なかった。
サーキット走行も楽しんだが、前後サスとブレーキさえしっかりしていれば良いタイムも見込め、その万能さがサーキットまで及ぶことには驚いた。
その際「もう少し」が欲しいと思ったためパワーチェックしてみると、ヨシムラのフルエキがついていた以外はフルノーマルだったにもかかわらず後輪で115馬力をマーク。しかしパワーカーブを見ると高回転域が伸び悩んでいるのが分かったため、いつかはこの油冷にヨシムラのカムシャフトをつけてみたいと思ったものだ。
何かのきっかけでこのバンディットは手放してしまったのだが、また数台を乗り継いでいるうちに「やっっぱりバンディットに勝るものはないな!」と思い直し、こんどはカウル付のGV77を購入、現在所有している。
なまじ極乗車を手に入れてしまったため以前のように日常的には乗っていないが、極上だからこそバンディットの魅力を追求したいとも思い、最近念願のヨシムラST-1カムを購入した。バンディットの可能性を探ってみたい。
なお、水冷のバンディットも大変に好きなモデルで、こちらもいずれは所有してみたいと思っているし、GSX1400も同様だ。
バンディットファンを自認しているが、バンディットに限らず、汎用性が高くそれでいてスポーツ心も満たしてくれるスズキの大型車が好きなのかもしれない。そんなバイクの代名詞が、「バンディット」という名前なのだろう。