HONDA CB1100 -旧車ブームが生んだ、ネオクラの草分け-
公開日:2024.05.08 / 最終更新日:2024.08.17
空冷エンジン/前後18インチ。本気で作った「今のクラシック」
今でこそ内外各社から出そろっている「ネオクラシック」と呼ばれるモデル群。
しかし2000年代はカワサキWぐらいしか目立っておらず、まだブーム前夜であった。
そこにホンダが「CB」ブランドを空冷で復活。大ヒットとなりネオクラブームを牽引した。
CB1100
2007年にコンセプトモデル、2010年の登場でネオクラブームに火が付いた
CB1100が登場したのは2010年こと。絶版車を取り上げている本コラムにおいては割と新しいモデルと言えるだろう。
だからこそここ14年で世のバイクはずいぶんと変わったと実感もさせられる。
CB1100が登場した時は、まだ「ネオクラ」ブームは起きていなかった。
カワサキのWはまだ650ccのキャブ車で、他のメーカーからはそのメーカーの歴史(最近は「ヘリテイジ」などと言われますね)を感じさせるようなモデルラインナップは(モトグッチなど一部外車を除き)なかった。
それが今は各社からネオクラ的車両が多数登場し、バイク界をにぎわせているのだ。
CBが登場する前夜、W650は安定した人気を誇っており、その背景にはますます盛り上がりを見せる絶版車人気があった。
1970~1980年代のZやCBをはじめとする絶版旧車を愛でる向きは以前にも増して加速。
1990~2000年代に「リターンライダー」だった人たちが、さらに年齢を重ねて今度は「憧れのバイクを買い戻す」というフェーズに入ったと予測する。
そしてそういった旧車にハードルの高さを感じていた人が、Wを支えていたはずだ。
だからこそ、2007年の東京モーターサイクルショーにCB1100の試作車、CB1100Fが参考出品された時には多くの反応があったのだった。
ウチがやるなら「空冷四発」
CB1100が出る頃には、実はもうネオクラブームの兆しはあった。
モトグッチはV7クラシックを出していたし、トライアンフなどは常にクラシカルタイプのモデルを提案していた。
そしてキャブ車であったW650も2011年には800cc化&インジェクション化を果たすなど、各車ともその流れを感じていたのだ。
そんな中でホンダが選んだのは「空冷四発」。
ホンダならやはり4気筒だろう、という気持ちもあっただろうし、空冷であることは絶版車人気も意識したことだったと思う。
これだけ排ガスや騒音の規制が厳しい世の中において4気筒の空冷車を作るというのは容易ではなかったはずだが、CB1300スーパーフォアをベースにボアを小さくし、かつプラグや排気ポート周りには油冷のようなシステムを新設することでこれを実現したのだった。
それまで人気だったネイキッド群はモダンな水冷エンジンを搭載しつつも「空冷っぽく見せる」ために装飾としてのフィンを配するといったことも多かったのに対して、CB1100は本物の空冷。しかも空冷車らしい美しさを追求し冷却フィンは2mmという薄さに設定ししかも深く刻んでファンを喜ばせた。
とはいえ、ホンダとしては同時にCB1300スーパーフォアもラインナップしていたため、ただの兄弟車とするわけにはいかず、エンジンにも空冷ならではの個性を与えた。
それはカムのタイミングを気筒ごとにわざとずらす、というマニアックな設定に至るまで、徹底したものだった。
カムタイミングをずらす意図は、わざとバラけたような排気音となり、そしてフィーリングも独特の燃焼感を追求するというもの。
性能的な視点で言えばデチューンとも言えるのだろうが、それでもフィーリングにこだわった。
また2本のカムの距離も、CB1300SFよりもわざと広くとっているのも特徴。
カム間が広くなれば燃焼室形状も高くなってしまい昨今のトレンドとは逆行するかのように思えるが、しかしカム間が広い方が車体を横から見た時に「よりカッコいい」という理由で採用。
あらゆる部分の設定が、運動性能よりも官能性能を追求していたのであり、これが新世代ホンダ「空冷四発」となったのだった。
「鷹揚」コンセプト
バイクの歴史はいつもハイパフォーマンスとそれに対するアンチテーゼの行ったり来たりだろう。
レプリカがあってゼファーがあったように、ビッグネイキッドやスーパースポーツがあって、その揺り戻しとしてネオクラが台頭してきたとも言える。
ビッグネイキッドだって当初は扱いやすいビッグバイクがコンセプトだったはずだが、じょじょにハイパフォーマンス化していってしまった、という部分もあったように思う。
だからこそ、CB1100は「過ぎない」性能であることが大切だったのだ。
コンセプトは「鷹揚」。軽量コンパクトで扱いやすく、のんびりと、かつ堂々と乗れるビッグバイクでなければいけなかったのだ。
このために先述のエンジンだけではなく、前後のホイールは18インチとして、キャスター/トレールといったディメンションもCB1300SFよりも安定したものに設定。
「過ぎない」が、頼りなくもない、それでいて旧車に通じるような付き合いやすさやハンドリングも追及するなど、高度なバランスの上に成り立っていたのだ。
セカンドバイクとしての需要
絶版車人気に引っ張られてネオクラブームも起きた、という背景は確かにあると思うが、しかしこの二つの人気が食い合わなかったのも面白いところだ。旧いバイクと接していくにはある程度の覚悟が必要なため、こういったネオクラ系を求める人はそもそも本当に旧車に乗るつもりはなかったのかもしれない。
前向きな化学反応だったのは、既に旧車を持っている人がCB1100を買い足す、という例が多かったこと。
旧車は好きだが、出先でのトラブルや盗難が怖い、あるいは雨の中では走らせたくない、といった気持ちの人が、もっと気軽に付き合えるクラシックバイクとしてこのCB1100を求めることがあったし、また旧車の方はノーマルを維持したいのに対し、CB1100ならカスタムも楽しめる、といったニーズもあったようだ。
結果として、CB1100はネオクラというトレンドの最前線を引っ張っていったというだけでなく、旧車愛好家にとっても手を出したくなる一台となっていったのだった。
意外と多いモデルチェンジ
90馬力ほどの出力と、今の感覚で言えば重めの車重など、パフォーマンス的には飛びぬけたところがないCB1100だが、しかし確かな人気は継続しており、最終型などはプレミアム価格で取引されていることもある。一方で初期型ならば比較的リーズナブルに入手することもできるだろう。
2012年には「ブラックスタイル」と呼ばれる、カラーリングをシンプルなブラックにしたことで価格を抑えたモデルがあったが、これは前後ホイールだけでなくフォークのボトムケースやステップホルダーなどもブラックとなっていたため個性的で面白い。
大きなモデルチェンジは2014年。ミッションがそれまでの5速から6速になったことで、さらにクルージングが快適になったのに加え、バリエーションモデルとしてマフラーが2本出しとなったEXが加わった。
EXはスポークホイールや肉厚のシートといったクラシカルテイストに加え、エンジンもそれまでのブラックからシルバーにしたことで往年のCB750フォアと通じるような雰囲気も獲得。
さらにタンク容量が17Lに増えたのもありがたい変更だ。なおEXには最初からETCとグリップヒーターが備わる「Eパッケージ」も設定されたため、コレが見つかればラッキーだ。
2017年にはまたチェンジ。イメージは大きく変わらないものの、5kgの軽量化を含む細部のアップデートと共に、前後17インチホイールを採用しさらに3kg軽量化した「RS」グレードも新たに設定された。時代に合わせてか灯火類はLED化されたのだが、これはもしかしたらファンからするとクラシカルテイストに水を注したように感じるかもしれない。
2021年には特別カラーを採用したファイナルエディションが発売。プレミアム価格で取り引きされるなど、ちょっとしたブームを巻き起こしてモデルライフを終えた。
今このCB1100を購入するならば、買いやすい初期型を手に入れてカスタムなどを楽しむというのも良いだろうし、長く付き合いたいのならばミッションが6速化した後のモデルの方がより完成度が高く満足感が高そうに思える。エンジンの色やスポークホイールのEXなど、意外とバリエーションが豊富で、しかもタマも多いため、自分の好みに合ったものをじっくり探すのも楽しいだろう。
「鷹揚」なだけではない乗り味
最後に試乗インプレを記しておこう。
最初に登場が噂された時は「90万円ぐらいで、100馬力ぐらいあればいいな!」などと妄想していたが、出てみたら逆で、90馬力で100万円だった。
せっかくの「ホンダの空冷四発」なのだからパフォーマンスもしっかりと追求してほしかった。
なんなら「水冷のCB1300SFよりも軽量で高回転型!!」といった謳い文句だったらカッコ良かったのに……と少し残念がった記憶もある。
しかし乗ってみるとノンビリ&ユッタリというだけではなかった。前後18インチホイールでしかもアップハンドルの「タイプワン」は確かにどこか旧車感があり、堂々とした姿勢で乗っているにもかかわらず、その気になればアクティブに振り回すこともできた。
バンク角もあり、かつブレーキも良く効く。モダンなラジアルタイヤを履くなどワインディングを楽しむための要素はそろっており、さらにはホイール径だけでなく、タイヤの細さも気軽さや接しやすさを実感させてくれた。ちょっと荒れた路面や、あるいは路面が濡れているような状況では、むしろ17インチのワイドタイヤよりも自信を持って走らせることができたほどだ。
また高速道路での余裕は特筆すべきポイント。
それまでのネオクラの基準は650ccのW650だったわけだから、それに比べれば1100ccの4気筒は隔世の感。滑らかでトルクフルで開ければちゃんと速い。
ノンビリ&ユッタリだけでは終わらない、ホンダらしいオールラウンド性能を持っていて、その総合力は時としてCB1300SFよりも高いと感じたほどだ。
特別仕様でETCとグリップヒーターがついたEパッケージというのもあったが、それだけではなく、センタースタンドを標準装備するなど実用車的な面も持っていた。
アナログの2眼メーターなどクラシカルテイストはしっかりと持たせつつも、その2眼の間に設けられたデジタル部にはギアポジなどモダンな情報が詰め込まれていたのもありがたい。
一方で初期型にはちょっと注文もなくはなかった。タンク容量14Lというのはリッターバイクとしては少なめと言わざるを得ないが、加えて燃料メーターがなかなか辛口で、すぐに空(カラ)を指してしまっていた。
給油してみるとまだまだ余裕があるのだが、特に最初の方は「しょっちゅう給油している!」という感覚が強かったのが印象的だ。
後のモデル(EX)ではタンク容量が増大され、また燃料計の設定ももう少し正確に改められたようだ。
またシートだが、ライダー側はシート高が低く足着きも良好だったが、タンデム部が薄くタンデムライダーの快適性がイマイチだったことと、そしてルックス的にもボリューム感に乏しかった。このためか社外のCB750フォア風肉厚シートが多く出回っていた。
やはり旧車らしい堂々としたイメージはEXの登場によって完成されたのであって、スタンダードモデルはネオクラ風の良き万能車、という位置づけだったのだろう。
こんな万能名車が絶版になってしまい寂しいが、CB1100があったからこそ、Z900RSや新型KATANAも生まれたのは間違いなく、世界的なネオクラブームの火付け役でもあっただろう。
ハイパフォーマンスすぎない、いかにも「オートバイらしいオートバイ」として今でもその魅力は全く陰っていない。
絶版車的プレミアがつく前に、絶版車入門として楽しんでおきたいと思わせる一台だ。