ネイキッドブームも落ち着いてきた00年代、各社共に次世代の400ccを模索すると共に、しぼみつつある400cc市場をどうするかというのも課題だった。
スズキは2001年のショーモデルとして注目を集めたB-KINGのイメージを落とし込んだGSRを2006年に発売した。

SUZUKI GSR400

昔ながらのネイキッドからの脱却

カワサキゼファーに端を発するとされるネイキッドブームは、基本的にはレプリカブーム以前の、70年代車へのオマージュだったといえよう。
鉄のダブルクレードルフレームに2本ショックというレシピは各社に共通し、その中でそれぞれが個性を発していた。

スズキは当初、よりスポーティな路線のバンディットで人気を集めていたが、やはりこの懐古路線人気に押され、カタナ400やインパルス400といったモデルを展開していた。

しかし1996年に大型自動二輪免許が教習所で取得できるようになってからは、バイク趣味を謳歌したいライダーは大型バイクへとシフト。
ネイキッドブームもリッタークラスへと飛び火しており、400クラスは縮小傾向にあった。
それでも各社はこの「昔ながらのネイキッド」をラインナップし続け、ホンダのスーパーフォアはもちろん、ヤマハはXJR、カワサキはゼファーχとZRX、そしてスズキは08年までインパルスをラインナップしていた。

一方で大型クラスではカワサキのZ1000をはじめスーパースポーツをベースとしたネイキッドが登場、新たに「ストリートファイター」というカテゴリーが生まれつつあった。
そしてスズキははたしてストリートファイターというカテゴリーを意識していたか否かはわからないが、少なくとも既存のネイキッドとは全く違うアプローチとして、コンセプトモデルB-KINGを発表していたのだった。

大型クラスが昔ながらのダブルクレードルフレーム&二本ショックという構成のネイキッドからストリートファイターへと変換していく中、400ccクラスはいくらか取り残されていたとも言えるだろう。
そこでスズキが投入したのが、コンセプトモデルB-KINGのイメージを引き継いだGSRだったのだ。

ちなみにハヤブサをベースとした公道仕様のB-KINGの発売は08年のため、GSRの方が先である。

兄弟車を上手に作る

GSR400は輸出仕様のGSR600と兄弟車である。GSR600の方はGSX-R600のエンジンを転用したネイキッドであり、欧州で人気の600ccクラスへの参入だった。
特に欧州ではFZ600やホーネット600といった気軽で使いやすいネイキッドモデルが人気であり、スズキはやはり人気だったバンディット600の後継という意味合いで投入したのだろう。

国内のGSR400はこのGSR600のボアダウン版であり、車体構成は共通である。
だからこそ400ccながらクラス初のアルミキャストフレーム(その後も400ccネイキッドにアルミキャストフレームは無いのではないだろうか??)を持っていたし、足周りもフロント120、リア180サイズのタイヤを履くなど堂々とした佇まいだった。

他社がやっていない独自のものを400ccクラスに投入したのはいかにもスズキらしいが、一方でトレンドであったストリートファイタームーブメントに乗っかりつつ、欧州と兄弟車で展開することで、しぼみゆく400ccクラスに高価になりすぎないモデルを投入するという懐事情もあっただろう。
しかしおかげで個性的なモデルが実現したわけである。

B-KINGの香り、欧州の香り

ヘッドライトが丸くなく、リア周りはモノショックで、しかもアップマフラーというのはB-KINGだけでなく色んなデザイン要素が含まれていると言える。
異形のヘッドライトやウインカーが組み込まれた大きなシュラウドなどはやはりB-KINGからの流れだろうが、テールランプとほぼ同径とされた2本のテール出しマフラーは、イメージとしては4本出しのようでMVアグスタにも似ていた。

立派なアルミのスイングアームや、それまでのネイキッドとは違ったモノショックなどは走りを予感させるもの。
スズキはバンディット時代からネイキッドにもスポーツ性を求めていたためそれもスズキらしい設定だろう。
また600ccクラスと車体が共用だという都合とは言え、タイヤサイズが極太なのもファンを引き付けた要素。

そしてこんな「新しい400ネイキッドのカタチ」を提案しているにもかかわらず、ポジションはとても楽チンなものとし、しかもシートも低く座面も広く、タンデム部も広く確保するなど、快適性や使い勝手をしっかり追求している所もスズキらしい。そもそも600版が欧州で大切な立ち位置なだけに、デザインだけではなく実用性においてもその作り込みに妥協はないのである。

最強の61馬力

GSRの話題としては、400ネイキッド初の60馬力越え、というものが語られるが、実はそれは国内の馬力自主規制が撤廃された後、09年モデルからであって初期型から08年まではライバルと横並びの53馬力であることに気を付けたい。
もっとも、53馬力仕様のGSRも元をたどればGSX-R600のエンジンからの流れのため、ライバルに対するエンジンのモダンさなどから十分速く感じたものだ。

09年型からは小さなメーターバイザーが装着されたため、61馬力仕様は一目でわかる。

当時「これでライバルも皆、400ccは60馬力ぐらいになるのではないか」と期待したものだが、ライバルたちはそうはならず、400ネイキッドで60馬力越えはいまだに最強である(現行のZX-4Rにネイキッド版が出れば塗り替えられてしまうが)。

試乗を振り返る

GSRが出た時、世の中はまだまだ懐古路線のネイキッドが主流であり、またB-KINGと似てはいるもののどことなく雰囲気が丸められてしまっているその佇まいは、時代をちょっとだけ先どってしまった感はあった。
しかし乗れば「これが次世代か」と思ったものだ。

アルミフレームであることやタイヤが極太であることからよりスポーツの振ったものかと思いきや、フロントが正立フォークになっているおかげもあってか特別硬質に感じるようなことはなかった。
エンジンもスーパースポーツがベースとはいえ、ボアのみを縮小したことによってボア×ストロークは一般的な400ネイキッドの数値へと落ち着いていて、適度にファジーな味付けで付き合いやすい。
そして設計の新しさからか、エンジンのスムーズさや車体全体のフリクションの少なさなど、特にまだ現役だった空冷400ネイキッドたちに比べるとまるで別次元の乗り物に感じたものだ。

特に61馬力になった09年以降のモデルは「確かに速い!」と思ったもの。
しかもその速さが常用域からスムーズにピークパワーへと繋がっていき、とてもナチュラルだった。
最高出力では今のZX-4Rに敵わないが、あちらは超高回転型ユニットであり、回し切ってパワーを絞り出してこそ真価を発揮するのに対し、61馬力GSRは「これぞ400ccの理想形」と感じるような、無理のない力感を持っていたのが好印象だった。
この感覚は古今東西他の400ccにはないもので、いま絶版車として見直されているのもよくわかる。

今見てもちょっと不思議なスタイリングのGSRだが、その実力は確かなものであるし、他にないという意味でも貴重だ。
またお好きなライダーによるカッコいいカスタムも見かけることがあり、化ける要素もあるな、と感じている。
400ccクラスの、他にはない一台を求めるならGSRはなかなか良い選択肢だろう。


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それまで一般的だった丸目ヘッドライトと砲弾型メーターとは決別し、コンセプトモデルのB-KINGを連想させる異形ヘッドライトを採用。
ヘッドライト周りに外装パーツを組み合わせてメーターとうまくデザインを繋げていくのは、バンディット1200シリーズや後のグラディウスなどとも同じ手法で、スズキとしては早くから取り組んでいた。
タンクからフレームを覆いラジエターへと伸びる大きなシュラウドもデザイン的な特徴で、しかもそこにウインカーが埋め込まれているのもまたB-KINGの流れだろう。

タンク・シート

車体そのものは600と共通ということもあってわりと大柄な印象がある。
しかしそれが逆に頼り甲斐にも感じられるし、筆者のように大柄なライダーにとってもありがたい。それでいてシートは低く、しかも快適だ。

エンジン


GSX-R600ベースのため、ライバルの400ネイキッドに比べると格段にモダンに感じるエンジン。
09年のチェンジで馬力自主規制撤廃を受けて61馬力までパワーアップした。
とはいえスーパースポーツ的な激しいエンジンではなく、アップハンのネイキッドとして成り立つよう上手にトルクバンドも用意されていて、回さずともパワフルに感じることができる。

テール


2灯のテールランプの左右にマフラーの出口がおかれ、リアビューはアグスタF4のような印象も。
タンデムシート下にサイレンサーがあるためシート下スペースが少ないということもあるが、マフラーが横に出ていない分駐車スペースは狭くても大丈夫だし幅広のタイヤがよけいにアピールされている。

フロント足周り


倒立フォークのGSX-R600に対してGSRは600も400も正立フォークを採用。
ネイキッドらしいしなやかな付き合いやすさを生んでいると感じる。
ブレーキは対向4ポッドをダブルで採用し十分な効き。

リア足周り


180サイズのリアタイヤが迫力満点。
また400ccクラスでありながらこのメジャーなサイズであることで現在でもタイヤは選びたい放題である。
立体的なアルミのスイングアームもこのクラスにはなかった装備だ。

メーター


ライト周りと一体化したメーターは中央にタコメーターを据えたレーシーな構成。
左右にデジタル部があり、ギアポジションなど多彩な表示を誇った。

筆者プロフィール

ノア セレン

絶版車雑誌最王手「ミスターバイクBG」編集部員を経たフリーランスジャーナリスト。現在も絶版車に接する機会は多く、現代の目で旧車の魅力を発信する。青春は90~00年代でビッグネイキッドブームど真ん中。そんな懐かしさを満たすバンディット1200を所有する一方で、最近はホンダの名車CB72を入手してご満悦。