ペットネーム「ニンジャ」を考える
公開日:2025.04.06 / 最終更新日:2025.04.06
ニンジャと言えばカワサキのビッグネーム。
GPZ900Rとあの戦闘機映画をすぐに思い浮かべる人もいれば、今や最初のバイクがニンジャ250だったという世代も多いだろう。
カワサキの偉大なるペットネームとして41年間も駆け抜けた「ニンジャ」を考える、近代バイク史に残る名車を語るシリーズ番外編。

Zを超えるアイコン
GPZ900R及びGPZ750Rは、少なくとも国内ではこのアルファベットと数字の組み合わせが正式名称であり、「ニンジャ」はあくまでペットネーム、愛称のようなものだった。
しかしニンジャと言えばGPZ900R、GPZ900Rと言えばニンジャ。
もうGPZ900R以外はニンジャと認めない! というコアファンもいるほどに、GPZ900Rの登場とニンジャというネームの衝撃は強かったのだ。
カワサキとしては一世を風靡したZ1に続くモデルとしてこのGPZ900Rを開発。
その経緯はこちらをご覧いただきたいが、ライバルが多く登場し優位性を失いつつあった空冷Z系から新しいイメージを模索していたカワサキは、この全く新しい水冷のGPZ900Rに「ニンジャ」というペットネームをつけることにした。
これは実はアメリカ市場からの要望だった。当時アメリカでは「将軍」というテレビシリーズが人気となっていて、アメリカ市場から「何か日本らしい名前を付けてくれ」と言われたそう。
ニンジャデビュー前にはスズキから「カタナ」が登場していたこともあり、そういった機運もあったのだろう。
アメリカでの「忍者」のイメージは「忍びのもの」というよりはスーパーマンや正義の味方、といったものだったらしく、こういった背景から「ニンジャ」というネーミングが採用されたとされている。
皆さんご存知のように、GPZ900Rはライバルを一気に突き放す圧倒的な高性能で世界的に大ヒットとなり、さらにはZ1がそうであったようにその後のスポーツバイク作りの方向性まで示したような、まさに近代バイク史に残る名車となった。
そんなモデルに付けられたペットネーム「ニンジャ」。当然その名前もまた、カワサキ性高性能バイクの代名詞のように浸透していったのだ。
高性能車に引き継がれていった「ニンジャ」ネーム
GPZ900Rの大成功からGPZ1000RXをはじめ、GPZシリーズは250ccや400cc、600ccクラスにも広く展開され、これら車種にも仕向け地によって差異はあるものの「ニンジャ」のペットネームが惜しみなく使われた。
一部GPX系にさえ「Ninja」のロゴがあしらわれたりしたため、あまり細かいカテゴリー分けはされていなかったことが伺える。
さらには海外ではZX-11とも呼ばれたZZR系や、サーキットにフォーカスしたZX-7R系にも、カウルに大きく「Ninja」のロゴが使われたりもした。
90~00年代にかけての「ニンジャ」は、新世代高性能カワサキ車の代名詞として乱発されたという印象は否めない。


いったんリセットされたように思えるのは、ZX-9Rが登場した94年前後だろうか。
ペットネームとしてではなく、車名の頭にしっかりとNinjaとついたのだ。
これはZX-9Rだけでなく、兄弟車となるZX-6Rにも使われ、そして2004年にはスーパースポーツというカテゴリーへと進化したZX-10RもまたNinjaの冠をつけていた。


ニンジャのネーミングはサーキットというよりは公道での総合性能を表すようなイメージもあったため、ZX-10Rに「ニンジャ」がつくのは若干の違和感もあったが、その後ZZR1400などにもまたペットネームとして「ニンジャ」がついており、その実態は細かいことは言わず、カワサキにとって自信のある高性能車にはつけてきた愛称、ということなのだろう。
2000年代に生まれた、新たな「ニンジャ」
現在、カワサキのラインナップではフルカウルスポーツは皆ニンジャと言ってもいいほど、ニンジャのネーミングは現役だ。カウル付はニンジャ、カウルなしはZと大別できるほどであり、カウル付でもスーパースポーツ系であるZX-10R、スーパーチャージャー付のH2系、そしてツアラー系含め、皆ペットネームではなく正式名称として「ニンジャ」が使われている。
こういったラインナップになっていったのは2008年登場のニンジャ250Rがきっかけだろう。

寂しくなっていた250ccラインナップにカワサキが放った渾身の一台は大ヒットとなり、若手ライダーも多く取り込んだ名車として2000年代を代表する車種と言える。
カワサキとしてはこの新機種に期待を込めて「ニンジャ」とつけたのだろうが、次世代ライダーへと上手にバトンを繋いでくれたこの名車がニンジャの名前を使ったおかげで、「ニンジャ」という名前の商品価値もまた見直されたと言える。
続く2009年には650もカウル付がそれまでのER6fという名前からニンジャへと改められたし、2010年には国内向けにニンジャ400も投入。
これもまた当時無敵の販売台数を誇っていたホンダCB400SFを抑えてベストセラーになったほどの大ヒット作。



かつてのハイパフォーマンスの代名詞としてではなく、カワサキのカウル付のスポーツバイクとして「ニンジャ」が再び浸透してきていたのだから、2011年に登場した新機種、ニンジャ1000にも同様に「ニンジャ」の名前を使ったのは極自然な流れだった。

ニンジャ250の登場から17年、カワサキのカウル付スポーツはもはや皆「ニンジャ」であり、カウルのないものは皆「Z」。
かつてバイクの世界を大きく変えた二つのブランド、「Z」と「ニンジャ」を、その意味合いは多少違って来てはいるかもしれないが、今も大切に使っているというわけだ。
ペットネームのエネルギー
かつてのGPZ900Rに強い思い入れがある人からすれば、ニンジャというネームを乱発されることに抵抗もあるかもしれない。
しかしこの「ニンジャ」というネーミングがいま、頂点に位置するモデルだけに付けられるわけではないという背景には、GPZ900Rの異例の長寿が関係しているとも思える。
登場時は圧倒的パフォーマンスで注目されたGPZ900Rだが、その後ZZR系へと進化してもGPZの持つ総合力は世界的に愛され、カタログ落ちすることなく2003年まで販売されていたのだ。
名車であることには変わりないが、2003年となってはもはや立派なクラシック。
性能的には優位な部分はないはずなのだが、それでもファンがいたのだからいかにGPZ900Rが普遍的な性能や魅力を有していたかが伺える。
かつての頂点モデルがこの頃には不動の名車という立ち位置へと変化したのだから、ニンジャというネーミングは「頂点の高性能車」というニュアンスから「高い総合性能を持ったオールラウンダー」へと変わっていたのだと思う。
だからこそニンジャ1000は違和感なく新世代カウル付スタンダードスポーツとして受け入れられていった、という背景も見える。
このように、ペットネームはそのバイクの性能だけではなく、どのように受け入れられていったのか、または取り巻く環境がどのように変化していったのかで意味合いも変化するもの。こうして文化を繋いでいくという意味でも、やはりこのような愛称があるというのは良いことに思う。
他社で言えば、「カタナ」や「ハヤブサ」、最近では「ホーネット」も復活した。
また「レブル」や「エリミネーター」もまた歴史のあるペットネームであり、こういった愛称をつけることでそのバイクに対して親近感を持ちやすかったり、あるいはそのバイクの持つアイデンティティを体感しやすかったりといったこともあるだろう。
とはいえ、「ニンジャ」ほどのチカラをもったペットネームは後にも先にもないはず。
形を変えつつ大切に引き継がれてきた「ニンジャ」。
次の10年、いや、次の40年、どのような機種に使われていくのかも見守っていきたい。