ヤマハ SR400 -シーラカンスは一夜にしてならず-
公開日:2023.01.30 / 最終更新日:2024.08.17
クラシック愛好家、そして絶版車好きからいつでも一目置かれる存在である「ヤマハSR」。
絶版になったのはほんの最近の話で、ファイナルエディションに注文が殺到し、最後の新車SRを購入しようとSRバブルが起き、つい最近まで現役だったにもかかわらず、エンスージアストから常に熱視線を集め続けるSRはいったいどんなモデルなのか…。
誰の注目も集めなかった「普通のバイク」
SRのルーツはXT500というオフロード車だ。最近まであったSRに対してXTとなると非常にレアな車種だが、これは輸出用のエンデューロモデルであったTT500を公道向けに仕立て上げたもので、国内での登場はなんと1976年。
いわゆる今「絶版車」として愛でられている王道車種たちと同時期に現れ、そのエンジンを転用しオンロード仕様として生を受けたSR400/500は2年後の1978年に登場したのだった。
今でこそ不動の名車という立ち位置を得ているSRだが、1977年の東京モーターショーに登場した時のヤマハラインナップと言えばXS1100やモトクロッサーのYZ250といったハイパフォーマンスモデルであり、実はSRのデビューは割とひっそりしたものだったそう。
時代はより高性能を求める流れになっている中で、ビッグシングルはスキモノ/エンスージアストからはいつでも一目置かれるエンジン形式ではあるものの、メインストリームではなかったということだ。
さらにはSRに与えられたのんびりとした特性もまた、玄人向けというか、当時はあまり注目されなかったという。
XTに対してフライホイールを重くするなどオンロード向けに仕様変更したこともあり、ビッグオフローダー的瞬発力が影を潜めマイルドなロードスポーツとなったのも一因だろうが、発売時はサブキャラだった、というのが真実と言える。
微調整しつつ「やめない」という英断
スタートこそひっそりとしたものだったSRの歴史だが、400版/500版共にキャストホイールにしたりスポークホイールに戻したり、ディスクブレーキをドラムブレーキへと退化(?)させたりといった小変更を加えつつ、一定のファン層を獲得していった。特別よく売れるバイクというわけでもないが、「あっても良いラインナップ」的位置づけで、大きなモデルチェンジも受けずにバイクバブル全盛期の80年代を生き抜いた。
80年代後半には4バルブ/セル付のスポーティモデルSRXが現れSRはお役御免かと思いきや、ここでも辞めずに踏みとどまったのは英断といえる。
逆に90年代に入るとゼファーがそうだったように、先鋭化し過ぎたレプリカ勢に対する「別の選択肢」としてSRが再注目を浴び、同時に90年代も後半になるとカスタムブームやトラッカーブームも追い風となりSRは好調なセールスを記録。手の加え方によって様々な表情を見せてくれるSRはエンスージアストだけでなく、若者にとっても憧れの車種へと成長したのだった。
爆発的な人気を得られなくとも、安易に辞めない、というヤマハの社風はこのSRによってつくられた部分もあるだろう。
同じように90年代に花開いたTWも当初は誰も注目しなかったバイクだったが、辞めずに作り続けて大きなムーブメントを作りかつヤマハにひと財産もたらしたし、セローシリーズも何度も絶版が噂されるもつい最近まで作り「続けた」。
続けることでファンも増え、そのモデルに対する理解も深まり、作る側もさらに深化させることができるだろう。この「辞めずに続ける」というのはヤマハの大きな魅力の一つに思えるし、それを引っ張ってきたのがSRであり、これまたSRを偉大にするもう一つの要素に思うのだ。
大まかな返還を追う
根本的な部分では大きな変更がされていないとはいえ、43年ほども作られ続けたモデルだけに、細かな仕様変更は数知れずすべてを把握するのは困難である。
幸い、どのモデルを選んでもSRには変わりがなくその世界観は揺るがないため、年式にあまりこだわることなく「一度は所有してみたい」バイクと言えるだろう。そんな中で節目となるチェンジを見てみよう。
初期型は400/500共に1978年から。
500はスクエアに近いボア×ストロークを持つのに対し、400版はボアをそのままにストロークを減らしかつ圧縮比を高めることで、排気量のビハインド分を補っていた。
SRと言えば「空冷ビッグシングルらしい、ドッコドッコとしたトルクフルな味付けが」などと言われることが多いが、実は400も500もスクエアよりはショートストローク設定であり、今のGB350のようなズットコズットコした感じとはまた違う。
旧車らしいブルブルした振動と共にノンビリした感覚ではあるものの、どこかにベースであるXTのパフォーマンスを感じさせる何かが、特に500の方にはあった。
なお初期型から84年まではフロントにディスクブレーキを装着している。
79年にはキャストホイールが解禁になったこともあり、SRもキャスト仕様のSPに。
これをオマージュして後にワイズギアからSR用キャストホイールがアクセサリーパーツとして販売もされたが、79年当時はあまり人気がなく後に限定で出たスポークモデル(400のみ)が逆にすぐ売れ、「SRはやっぱりスポークか」とその後はスポーク仕様へと戻された経緯がある。
ただ今見るとキャスト仕様もなかなか味わい深いしチューブレスタイヤが装着できるのも魅力だ。
79年当時は不人気だったとされるキャストホイール仕様だが、後のSR人気再燃及びカスタムブームのなかでキャストのカッコ良さ(及びチューブレスという機能性)を求めるユーザーも。
そんな声に応えてワイズギアからはオリジナルに忠実なデザインでSR用キャストをラインナップしてくれた。
しかもフロントで1.5kg、リアで2.0kgの軽量化をしているというからありがたい。カラーはガンメタリック・ゴールド・切削ブラックの3種。
新品は手に入りにくいだろうが、生産終了がアナウンスされているガンメタリック以外はまだ手に入るかもしれない。価格は税込み15万4000円。
中古でも同程度の価格帯で取引されているようだ。ちなみにフロント用も18インチ。ドラムブレーキ車に取りつける際は別売りのディスクブレーキキットが必要だ。
85年には完全にクラシック路線に行こうと決めたようだ。
フォークブーツやシンプルな音叉マークのみとなったタンクデザインといった外観だけでなく、フロントブレーキはなんとディスクからドラム化という、退化ともとれる変更を受けた。
ただ同時にフロントホイールはそれまでの19インチから18インチへと小径化されており、そのおかげもあってブレーキ性能にそれほどの不満が出たということはなかったようだ。
フロントホイール径が小さくなったことでハンドル幅も狭められ、全体的にコンパクトな印象へと生まれ変わった。
シート高が低く、手の内にあるようなサイズ感から女性ファンも増えていった頃である。
なお、エンジン内部も主に耐久性向上のための処理がなされ、ステップは後退し、燃料タンクは2Lも増量。この時のチェンジはかなり大掛かりなものと言える。
初期型からのハンドリングが大きく変わったのもこの時だ。
19インチのフロントホイールと幅広のハンドルから生み出されていたおおらかかつその気になれば大胆なハンドリングは、フロントの18インチ化と共にもたらされたコンパクト化により、だいぶ印象の違うものに代わったと言っても良い。今でも19インチ時代のSRを好む愛好家がいるのもわかる、魅力的な味付けだったのは間違いない。
初期型から84年まではタンク容量が12Lと少な目で、そのおかげでスリムなタンクとなっている。これをナロータンクとし愛でる向きがあるが、85年以降の14Lタンクもそんなに印象が変わらないところからするに、なかなかマニアックな所だろう。写真は83年の「スーパーレッド」。限定ではないがレアなカラー。
登場から10周年となった88年には負圧式のキャブレターの採用やマフラー出口の小径化、エアークリーナーボックス大容量化などリファイン。
より上質なフィーリングとなったが、逆にXTから続いた「秘められた荒々しさ」のようなものは影を潜めた。
5年後、15周年には常時点灯のヘッドライトや電装系を刷新。さらに5年後には20周年のアニバーサリーモデルが発売。記念エンブレムがつくぐらいで内容については特別なことはない。
90年代後半にはSRはヤマハのラインナップに必ず存在し続ける存在としてすっかり定番&人気に。老若男女から支持を得ていたが、販売的には中型二輪免許(今の普通二輪免許)枠で乗れる400が大部分であり、2000年についに500は絶版となった。絶版となって早23年、500が今や人気のレア絶版車として価格高騰しているのも頷ける。
2000年代のSRは2001年にフロントブレーキがディスクに戻されたのが大きなトピック。ドラムブレーキはドラムブレーキで大きな問題はなかったものの、交通社会の熟成と共にさすがに時代遅れ感は否めず、ディスク化によりコントロール性や制動力だけでなく、安全性も確かに向上した。
同じ2001年、そして2003年には騒音や排ガス規制に対応した変更がなされた以外、カラーリングの変更や細部ディテールの変更、ヤマハ50周年記念車といったアニバーサリーモデルが主で、SRの2000年代は大きな変更なく進んでいった。
ヤマハの50周年を記念したモデルはタンクとシートカウルに初代をイメージしたゴールドとオレンジのラインを配した。
この他文字盤をブラックとしたメーターや初期型風のパターンが入ったシートなどが特別仕様。500台限定。
そして2009年、最新排ガス規制によりさすがに30年以上前の空冷エンジンでは厳しいだろうと思われた中、なんとインジェクション化して延命。この時同時にセルスターターがつけばいいのに! と多くの人が思っただろうが、セルは結局つかず、SRはこの形のままさらに13年ほど作られ、惜しまれつつ歴史に幕を閉じた。
発表と同時に注文が殺到し、即完売後はプレミア取引がされたファイナルエディション。SRの歴史の締めくくりとして価値のあるバイクである。
買いたい年式を見つけよう
生まれた時点で決して高性能ではなかったSRだが、10年・20年と内容を変えずに歳を重ねていく様は、バイク愛好家としてはなんだか励みになるというか、バイク業界の支えのようにも思えてしまっていた部分がある。
流行り廃りに流されることなく粛々と作られ、悠々と走り続けたその姿はまさにシーラカンス。インジェクション化までして延命させてきたヤマハの「SR保護活動」にも賛辞を贈りたい。
さて、世の中には43年分ものSRが流通しているわけで、いまSRを買おうと思えばいくらでも選択肢があると言えるだろう。
500指定だと値も張るが、400ならばタマも多くじっくり検討することができる。
SR400は大きく分けて4種類
大きく分けて「初期19インチ期」「ドラムブレーキ期」「ディスクブレーキ期」「インジェクション期」と4つに分けて考えたいSRの種類。
初期19インチ期
初期のフロント19インチホイールの型はエンジンもスットコスットコ小気味よく、ハンドリングも大らかかつ絶版車感溢れるもの。
真のエンスーなら初期型500を指名買いして悦に入りたいが、旧さゆえのトラブルやパーツ供給の不安とも付き合っていく覚悟も必要。
ドラムブレーキ期
85年から90年代のドラムブレーキ&フロント18インチ仕様は、SRのブームもあったことでタマ数が最も豊富と言える年式。
全体的にコンパクトで小柄な人でも親しみやすいだろう。カスタムも盛んだったため様々な仕様の中古車に出会えるはずだ。
88年からの負圧式キャブはスロットルも軽くて、低い回転域から大きめにアクセルをひねってズッダッダ!というシングルらしい走りを楽しみやすいのも良い。ただ今の感覚ではドラムブレーキは心許なく感じる場面もある。
ディスクブレーキ期
万人に薦められるのはフロントディスクブレーキ化以降。やはり安心感が高く、あわせて車体もシャキッとしている感覚が強い。
エンジンは規制対応でさらにマイルドになっていて、良くも悪くも「絶版車感」は薄く(実際に年式もそんなに古くないが)、気軽に付き合いやすいと言えるだろう。パワーや鼓動感に不足を感じるならばカスタムを楽しみたい。
インジェクション期
インジェクション化以降のモデルは始動性が良くなったと言われるが、実経験からすると大差はない。
エンジンが一度かかってしまえばチョーク操作など必要なく、エンストすることなくすぐにアイドリングをしてくれるという意味では優秀だが、キックした時のエンジンのかかり自体はキャブ仕様と変わらない印象。
チョーク操作や暖気中のアクセル微操作を苦としない人ならばインジェクション以前のモデルでも全くストレスは無いはずだ。
ただたまにしか乗らない人は、インジェクション仕様の方がキャブ詰まりなどによる不動状態に陥りにくいという利点はあるだろう。
大別した4種のSR、このうちどれにするかが決まれば、後はカラーリングや、「自分と同じ年だから」といった動機で選ぶのも楽しそう。
アフターパーツは星の数ほど存在するため、カスタムやチューニング、ポジションの微調整などはなんとでもなる項目。購入後に好みに合わせて熟成させていくというのがSRの楽しみ方の一つである。
SRは「これから」だ!
SRが生産された歴史は終わってしまったが、SRのユーザーとの歴史はまだまだこれからである。なにせ大量のSRが世の中に存在するわけで、それぞれがこれからオーナーと共に紡いでいく歴史があるはずだ。
特別パワフルでもなく、そしてキックスタートゆえに特別便利でもないSR。一番の魅力は普遍的なデザインと「何も突出していない」ベーシックな運動性だろう。
海外ではすでにクラシックレースなどにも出始めているのを見かけるし、特に初期型はコレクターの手に収まりつつある。
登場時からエンスージアストに注目されたSRは、43年のモデルライフを終え、今またエンスージアストによって「SRという商品」から「SRという文化」へと昇華していく過程にある。
SRという名車の「これから」が楽しみである。
SR400の限定カラー・スペシャルエティション
84年に登場した「サンバースト塗装」はタンク中央から縁取りラインに向かってグラデーションになっているカラー。
当初は1000台限定だったこと、またSRのカラーリングとしての印象が強かったようで、SRの歴史の中で度々登場するカラーリングだ。
中央部がグリーンのものや、50周年記念車では木目にも見えるようなブラウン調のバージョンなどもラインナップされた。
なお90年代に入ると見た目の美しさや質感を追求し、厚いクリア層を持つ「ミラクリエイト塗装」や各部のアルミ部品をバフ仕様とするなどエクステリアの手が込んでいった。
SRの歴史の中でエンジンは常にシルバーだったが、2002年には初めてエンジンがマットブラック塗装となったモデルが発売。この他写真のブラックエディション(YSP限定)といった限定モデルも発売されたため、ニッチなレアSRを見つけるという楽しみ方もある。
ツートンシートとシルバーフレームが爽やかな印象となったSR 35周年仕様車は、内容に変更がなく「アニバーサリーエディション」とされたにもかかわらず価格をダウン。
税込53万5500円とされた。この前例のおかげで翌年からこの価格がSRの新価格に。ヤマハは以前にもセローやトリッカーなどを値下げしたことがあるが、なかなか粋な判断ではないか。
ヤマハ60周年(2015)には派手なインターカラー仕様が登場。足周りをブラックアウトしたことで引き締まった印象となっている。