カワサキ ZRX1200DAEG -ビッグネイキッドの集大成は初の国内専用仕様-
公開日:2024.03.06 / 最終更新日:2024.08.17
1990年~2000年代を駆け抜けた「ビッグネイキッド」ブームだったが、2010年前後になってくるとそれも沈静化、新たにCB1100やW800といったクラシックテイストなモデルへと世の人気は移っていった。しかしカワサキはビッグNKをあきらめなかったのだ。
ZRX1200DAEG
「ダエグ」という聞きなれないワード
ダエグの登場は上手に演出されていた。カワサキはビッグネイキッドブームにおいてゼファーとZRX両シリーズを展開し大成功を収めていたが、2000年代後半には環境規制対応の難しさや、やそもそもネイキッドブームの陰りが見え始め、各社共にネイキッドをどうするか、というタイミングとなっていた。そんな中、カワサキは大きく「ダエグ」のルーン文字を使った広告を展開し、車両は部分的にしか見せずに「これは……? 何が出るんだ?」とライダー達を沸かせたのだった。
よく見れば特徴的なスイングアームや二本ショックからZRXの後継機種だということはわかるのだが、当初は情報が限定的かつ、「ダエグ」という聞いたことのない車名に「なんだなんだ!?」と盛り上がったのだった。
ZRX1200の後継機種、ZRX1200DAEGはこうして、2009年にデビュー。
これまでのZRXシリーズと違い、国内専用機種として展開されたのだった。
作り続ける覚悟
ZRXを存続させるかどうかは、メーカーとしてはジレンマもあっただろう。
ネイキッドブームの落ち着きと厳しくなる環境規制によって、400ccネイキッドは軒並み絶版となっていっていた。
ライバルメーカーのCB1300SF、XJR1300、バンディット1250は既にインジェクション化(バンディットはさらに水冷化も)を果たし延命を決定していたが、カワサキには既に人気モデルとなっていたインジェクション搭載のZ1000もあったし、2011年にデビューするニンジャ1000の開発も進んでいたはずだ。
そんな中、ZRXをインジェクション化し、まだ作り続けるという選択をした。
その背景には国内市場にフラッグシップになるものをしっかりと持っておきたいという気持ちがあっただろう。
Z1000をはじめ、カワサキは他メーカー以上に逆輸入車の国内流通も盛んではあったものの、国内正規の大排気量モデルは実は少なく、ZRXシリーズは大きな存在だったのだ。
その最後のモデルとなったダエグは、2016年のファイナルエディションまで大きな変更を加えられることなく駆け抜けた。
見た目以上の大きな進化
ダエグの先代からの代表的な変更点は
①インジェクション化
②6速ミッション化
③110馬力へとパワーアップ
④ハイオクガソリン化
といったところだろう。
国内専用車ゆえ海外ニーズに応える必要がなかったため、日本国内の速度域に合わせてさらに常用域を作り込んだとされるが、高回転域のパワーもしっかりと上乗せされるなど総合的な進化を果たしている。
国内でしか売らないのに、ずいぶんと力が入っているものだ。
なおフロントブレーキキャリパーはそれまでの6ポッドタイプから4ポッドタイプへと改められている。
大きく変わった乗り味
ZRXシリーズは初期の1100から、常にライバルよりもスポーティな路線をとっていた。
同時に空冷のゼファー1100も展開していたことで、ドッシリと、堂々とした乗り味はゼファーに任せ、水冷のZRXは心置きなくスポーティ路線を追求できたのだろう。
特に初期の1100はライバルに対してコンパクトに感じられ、またハンドリングも軽やかで「ビッグネイキッド」から想像するよりも格段に活発に走らせることができた。リアタイヤがワンサイズ細い設定だったこともそんな軽やかさに貢献していただろう。
1200に進化した時には、そもそもGPZ900Rニンジャベースのエンジンをこれだけ排気量増大するにあたりメッキシリンダーを採用。車体もホイールベースが長くなるなど、いくらか安定方向へとチェンジしたとも言える。
ハーフカウルを装着した「S」モデルは主に海外での使い方に対応したバリエーションだったとは思うが、これを国内でも展開したのはZRXに当初のスポーティなビッグネイキッドとしてだけでなく、ビッグネイキッドならではの汎用性を活かしたツーリングも楽しんでもらおうというメッセージだった。
こんな変換を経て誕生したダエグは、実は乗り味も1200からかなり変わっていた。
キャスターが少しだけ立ち、トレールが少しだけ減らされたところを見ると、1200よりはスポーティな方向にシフトしたことを想像するが、それ以上に6速ミッション化が大きな変化をもたらしているのだ。
旧車らしい、各ギアでのトルクにのせた伸びやかな加速が楽しめる5速ミッションこそが、ビッグネイキッドらしい味わいというのが定説ではあったが、スズキがバンディットに新規の水冷エンジンを搭載した時に初めてビッグネイキッドに6速が備わり、ZRXもダエグでこれに倣い、そしてCB1300SFもまた追従したことを思えば、5速ならではのフィーリングは2010年も超えてくるといくらか古くさく感じられていたのかもしれない。
また高速道路網の更なる充実やETCの普及により高速道路を利用したツーリングが以前にも増して楽しまれるようになったこともあるだろう。
快適な高速巡行や燃費の向上といった観点からも6速化がビッグネイキッドのスタンダートとなっていった。
しかし高速巡行や燃費以外にも、ダエグは6速化されたことでピピッとした機動力も手に入れていた。
今の感覚では普通ではあるが、1200から乗り換えて「妙にモダンだな!」と感じさせるのはパワー感や軽快な足周り、あるいは近代的な作動性を見せるサスペンションよりも、この6速ミッションによるところが大きいだろう。
上乗せされた10馬力以上に、直感的に「ッ速いな!」と感じさせてくれるのだ。
現代のバイクに慣れている人がZRX1200R(もしくはZRX1100)に乗ったならば即座に絶版車的感覚に包まれるかと思うが、ダエグならば味わいは楽しめつつ、現代の感覚で付き合いやすいとも言える。
長く楽しませてくれる素材
ZRXシリーズはスポーティなビッグネイキッドとして様々な世代に愛されてきただけでなく、今でも旧車レースなどでは信じられないような速さを見せている。
チューニング幅が大きくパワーアップが容易というのも、長く楽しんでいくのには魅力的な要素だろう。
ダエグになってインジェクション化したわけだが、それでもチューニングやカスタムに取り組んできたショップは多く、パーツ類も豊富でパフォーマンスアップだけでなく様々なスタイルを楽しませてくれるのも魅力的だ。
元が汎用性の高いビッグネイキッドなのだから、ツーリングにせよスポーツにせよ、自分の好みに合わせて手を加えていっても根本的な付き合いやすさが揺らぐことは少なく、このシリーズがカスタム好きからも支持されているのはこういった背景があるように思う。
ちょっとした裏話
ZRXシリーズを試乗してきた経験から、最後にダエグの操作感について少しだけ書いておこう。
ダエグになって、1200R以上に手の内に感じたのが印象的だ。
シート高は790mmと先代同様にもかかわらず、車体の重心が少し上がったような感覚があり、先述した6速化と相まって操作感は軽くなり、性格は活発になった印象がある。
そして速度を上げていって気付くのは、先代以上のしっかりとしたフロントの接地感だ。高速コーナー中に段差を拾ったりしてもフロントが路面とくっついている感覚が強く、フレに発展する気配もない。
こういった車体構成でしかもアップハンなのだから特別フロント荷重が大きいとも思えないのだが、ネイキッドならではのドシッとした安定感が特にフロントに集められているようで、コーナリング中の安定感は抜群なのだ。
それと対比するようにピボットから後ろはしなやかな印象がある。ギャップを踏んで車体がグワンと揺れた際などに、フロントはそのまま平気でコーナリングを続けてくれるのに対し、車体の後半部分はしなやかに動くことでその揺れを収束してくれるイメージだ。
このフィーリングは特に一般公道では自信を持ってスポーツライディングをさせてくれ、とても印象が良い。
このことを旧車レースにも参戦しているカワサキ系ショップで話したところ、「ダエグになってネック周りの強度が上げられ、逆にピボッド周りはしなやかな方向に改められているんですよ」と教えてもらったことがあった。
カワサキから直接聞いた話ではないため数値的なことはわからないが、乗り味は確かにその方向であり、それは万人に安心してスポーツを楽しませてくれるものに思える。
誰にでも乗って欲しいビッグネイキッド集大成
今もホンダのCB1300SF/SBシリーズが現役であることを忘れてはいけないが、ZRX1200シリーズ及びカワサキのビッグネイキッドとしては、集大成となったダエグ。1100、1200、ダエグとそれぞれ性格は違うものの、いずれも魅力的な車種である。
しかしその中でダエグは、シンプルに年式が比較的新しいことに加え、安定のインジェクション仕様であったり、比較的モダンな乗り味であったりと、「絶版車っぽいけど安心して乗ることもできる」という絶妙な位置にいると思う。
価格も絶版車的なプレミアム高騰価格ではなく、魅力的な中古車としての真っ当な値付けであることも多い。
今のバイクではない、ちょっと前、チョイ古なバイクってどうなのだろう?という興味本位で乗っても満足感は高いはずだし、ZRXシリーズの集大成として長く楽しみたい人にとっても魅力的な選択肢なはず。ライダーを選ばずに薦めやすい車種である。