「バイクの歴史を振り返る」シリーズも、2000年代編にて一応は完結したのだが、しかし2009年ですら執筆時から既に15年も前の話である。
2010年代に入るあたり、どのような転換があったのだろう。

1980年代から続いてきた技術が様々な環境規制などによりとうとう役目を終えて、新たなバイクが登場した時期でもあった。
2000年代番外編として、もう一言、この年代について記しておこう。

前回記事


新世代絶版車

1960年代から始まり、00年代まで追ってきたこの「年代を追う」シリーズ。
何度も書いてきたが、いわゆる「絶版車」という話になると中心となるのは70年代~80年代前半の人気空冷機種、あるいは80年代後半のレプリカ系など、というイメージも強いかと思うが、しかしこれらモデルは既に殿堂入りとも呼べる位置へと昇華してしまっている。

本当に好きなマニアが、深い愛情をもって、金銭にとらわれることなく大切に維持するレベルのモデルが多いのが実情。
「ちょっと旧めのバイクでも楽しんでみようかな?」と、中古車の延長線上として軽い気持ちで購入・所有・維持するのは難しくなっているだろう。

その結果、実際に一般バイク愛好家を対象に売買されている新世代絶版車は90年代~00年代の車両が多い傾向にある。
1990年代に盛り上がりを見せたネイキッド系や、2000年代にかけて新しく台頭してきたスーパースポーツ系も今や立派な絶版車である。

4スト車も襲った、2006年の排ガス規制

2000年代はスーパースポーツなど新規のモデルが登場した一方、1990年代から引き継がれたエンジンを使い続けているようなモデルも多くあった。
1998年の排ガス規制により既に2ストローク車はほぼなくなっていたが、2000年代も後半になってくると4ストローク車も新たな排ガス規制に対応するのが難しくなってきたのだ。

これの引き金となったのが2006年の新排出ガス規制。
これまでのものよりも格段に厳しい数値が設定されただけでなく、冷間時にその測定をしなければいけなくなったなどの測定方法の変更がさらにハードルを高めたのだ。
これにより1990年代から引き継がれてきたモデル達は選択肢をせまられることになった。

1990年代から2000年代へとそのまま生き続けたモデルと言えば、中心となるのはネイキッド系だろう。
性能も乗り味も今のバイクと遜色ないどころか、とても魅力的なものが多いが、しかし多くのエンジンは1990年代ではなく1980年代に基本設計がなされたようなものだったため、この規制対応が困難だったわけである。

こんな背景から、名車と名高いだけでなく販売数的にも好調だったモデルが引退を余儀なくさせられたのが2000年代後半なのだ。

名車が一斉に姿を消す

この規制の主だった犠牲車を挙げると、ゼファー400やXJR400といった空冷4気筒勢、ホーネットやバリオスなど水冷ながらエンジンの基本設計が1980年代も中盤ほどまで遡れる機種などだろう。
あまりに設計が古く、非常に厳しい新規制に対応するのは困難を極めたため、そのままディスコンティニュー/絶版となってしまったのだ。

しかし、空冷車はともかくとして、水冷モデルについてはエンジン内部の手直しに加えインジェクション化や触媒の追加などで延命は可能だったはずだ。
事実、ホンダCB400スーパーフォアなどはその道を辿ったし、大排気量ネイキッドもまたインジェクション化や、なかにはバンディット1250のように水冷化も果たして次世代へと生き残ったモデルもあった。

ただ、それでも1980年代から受け継がれてきたようなユニットは徐々に姿を消していくことになる。
大排気量車もビッグネイキッドに代わってストリートファイターが台頭してくるわけだが、これら機種に搭載されるのはスーパースポーツモデル用に新規開発されたモダンなエンジンの転用であり、今後さらに厳しくなることが予想された各種規制に対応可能なユニットを採用していくというのは当然の流れだったのだ。
そんな背景から、2000年代後半は一つのターニングポイントとなったのだった。

生き残るものとそうではないもの

大排気量が延命したのならば、小排気量も何とか規制対応することは可能だったのではないか?
みんなCB400スーパーフォアのようにやってくれればよかったのに……と思わないでもない。

しかしこれら250~400ccという中間排気量車が絶版となってしまったのは、規制対応のコストを車両価格に転嫁しにくいということもあったのではないだろうか。
高価で利益率も高い大排気量車ならばそのコストは回収できるかもしれないが、~400ccクラスの車両に果たしていくらまで価格を上乗せできるのか……そんなジレンマから、絶版という苦渋の判断に至ったモデルも多いと思われる。

もう一つの背景は、バイク界が急速に大排気量化していたという部分だろう。
大型自動二輪免許が教習所で取得できるようになり、400ccを超えるモデルに乗るライダーも増えた。
このため、しぼみつつある400ccマーケットよりも大排気量車に開発資金を集中させたいというメーカーの想いも理解できる。

こういった複合的な要因により、残念ながらラインナップ落ちしたバイクと、生き残ったバイクが選別されていったのだった。

インジェクション化元年

規制対応と並行するこの時代の特徴としては、インジェクション化がある。
キャブ車は一部小排気量車などを除き軒並み姿を消し、大排気量車を中心に多くのバイクがより緻密な制御ができ規制にも対応させ易いインジェクションへと移行していった。

ただ、初期のインジェクションは扱いに一癖あるものも少なくなかった。
アクセル開け始めがジワッとできずに、ライダーの意図以上に飛び出していってしまうという「ドン付き」と呼ばれる症状が取りざたされ、「やっぱりキャブ車の方がいい」という声も多く聞かれた。

足周りがハードな設定であるスーパースポーツでは大丈夫でも、足周りが良く動くネイキッド系ではその急激な反応が気になってしまうといった面もあっただろう。
こういった部分がしっかりと煮詰まってくるのは00年代も後半のことのように思う。

もう一つ不思議だったのは制御が緻密なハズのインジェクションなのに、キャブ車よりも燃費が悪い機種も少なくなかったことだ。
こういった部分含め、規制対応やインジェクション化というのは色々な複合的な難しさがあったのだろう。
だからこそ2000年代後半は、多くのモデルが絶版となっただけではなく、複合的に一つの転換期なのだ。

250ccクラスの復権

400ccクラスが現在に続くまで下火になってしまってきたのはこの時がきっかけとなっているかもしれないが、一方で車検がなく維持管理が比較的気楽かつリーズナブルにできる軽二輪クラス(~250cc)は、そういった時代の流れに左右されないニーズが常にあるのだろう。
2000年代後半の大きなトピックとして、パラツインのニンジャ250Rの登場があった。

ニンジャ250Rは旧ZZR250系のパラツインエンジンをリファイン&インジェクション化することで各種規制に対応。
さらにはタイで生産することで価格も抑え、主要機種が次々と絶版となっていく状況のなかで突然輝いたスターだった。

遡れば1980年代まで辿れる古いエンジンではあるものの、そこはカワサキお得意のリファインにリファインを重ねる努力の賜物。
出力の数値はZZRよりもかなり下がってしまってはいたが、本格的なスポーツバイクが見当たらなくなってきていた時に、久しぶりのフルカウルスポーツとして瞬く間に人気を伸ばした。

しかもニンジャ250Rが救ったのは「何に乗ったらいいのかわからない」となっていた若手ライダーだ。
バイクには乗りたいが、1990年代に流行ったトラッカー系やネイキッド系、スクーター系はもはや見飽きていたのか、はたまた良き中古車がなくなってきていたのか、久しぶりの新機種に世は沸いて、特に新規の若手ユーザーを掘り起こしてくれたという意味でニンジャの功績は大きい。

ニンジャ250Rが引き起こしたムーブメントは他社にも追従され、ホンダからはシングルのCBR250Rが、そしてヤマハやスズキもパラツインの250ccスポーツを投入し大きなカテゴリーが成り立った。排ガス規制によりすっかりしぼんだと思われたバイク業界が再び立ち直ったと感じさせるムーブメントとなっていったのだ。

ピックアップ試乗記

XJR400とゼファー400

XJR400RXJR400R
ZEPHYRχZEPHYRχ

2006年の排ガス規制のあおりを受けて絶版となってしまったモデルの中で、象徴的かつ特に惜しかったのはこの2台ではないだろうか。
400ccネイキッドというカテゴリーはゼファーの登場以来ずっと強かったし、性能だけではなくフィーリングや造形も重視されるこのジャンルの中でこの空冷の2台は大切なポジションだったと言えるだろう。

XJRは初期型はかなりスリムでスマートなスタイリングをしていて、どこか懐古主義的な要素が求められるネイキッドというカテゴリーの中でも独自の魅力を発していた。
空冷エンジンながら自主規制いっぱいの53馬力を発し、しっかりとスポーツすることを意識していたのも特徴だろう。

1998年には兄弟車の1200を意識したようなグラマラスな外観になり、後にはラジアルタイヤを標準装備するなどしっかりと時代と共に進化。
当然ながら高年式の方が洗練されてはいるが、同時に車格同様に乗り味も堂々としたものに変化しているため、敢えて1997年までの型を選んでヤマハがこだわった「空冷スポーツ」を味わうのも良いだろう。

数値上の出力は水冷のライバル勢と同じだが、ヨーイドンしたらどうしても後れを取るのは事実。
ただそれでも空冷ならではの音や、ヤマハならではのハンドリングなど、速い遅いでは片付けられない魅力がXJRにはある。

対するゼファーは既に絶版車ステータスも高く今さら語ることもないかもしれない。
初期の2バルブの型はたくさん作られてたくさん売られたはずだが、残念ながらもう良質な中古車は非常に少なく、現実的に購入するのは4バルブ化した以降の「χ」ということになるだろう。
ただ、XJRのように「前期型には前期型の面白さがある」というのは、ゼファーには必ずしも当てはまらない。
というのは、確かに2バルブゼファーも味わいや付き合いやすさはあるものの、「χ」になってもそういった魅力がまるで失われていない上に、しっかりと現代的な速さや安定感が上乗せされているのだ。

ネイキッドというムーブメントにおいて大切な役割を果たし、2000年代に姿を消した空冷名車の2台。絶版車としてこれからも大切にされていくことを切に願う。

VTRとスーパーフォア

VTR250VTR250
CB400SFCB400SF

旧いエンジンでもしっかりと規制対応して作り続けましょう、とホンダが決断したのがこの2台。
VTもCBもそのエンジンのスタートは80年代なのだから基本設計はかなり旧いが、しかしコストをかけてでも延命させる価値があると踏んだのだろう。

CBの方はまだまだセールスも好調で、また4気筒のライバルが軒並み絶版となる中で、多少のコスト高でも対応させる価値のあるモデルということだったはず。
またVTの方は、VTRがそもそも初期の高回転型スポーツユニットがベースではなく、低中回転向けにリファインさせたマグナ用ユニットがベースにあったということもあって、規制対応がさせやすかったという背景もあったかもしれない。

スーパーフォアはインジェクション化される前に既にラジアルタイヤ化など近代化を果たしていたため、インジェクション化した前後のモデルで何が変わったということはあまり感じられない。
年式が進むにつれ、カウルのないスーパーフォアはメーターの文字盤がクラシカルなものになったり丸ミラーになったりと懐古主義が強まり、代わってハーフカウル付のボルドールはモダンなデザインとなっていくが、どの型でもスーパーフォアの完成度は変わらず高いのだ。
今乗れば、その重心位置や操舵性など一昔前のものに感じなくもないが、しかしそれはスーパーフォアブランドが築き上げてきた超絶バランスであり、それこそが魅力である。

対するVTRだが、こちらもまたインジェクション化で何かが変わったということはほとんどない。
ホンダ車全般においてそうだが、キャブ時代の完成度が非常に高いおかげで、インジェクションになったことでチョーク操作が不要になったなどの細部では違いがあるものの、ホンダらしい完成度は揺らがないのだった。
VTRはその後もスタンダードなネイキッドとして生きながらえていき、レジャーに、バイク便に、レースにとまだまだ活躍していく。

なお、インジェクション化に対して懐疑的な意見も聞くことがあるが、本当のインジェクション化元年はともかくとして、その後はさすがに技術が進歩し、キャブ時代を超える総合性能を獲得していく。
例えばセローやトリッカーといった空冷車もインジェクション化したが、始動性だけでなくトルク特性もやはり向上しておりインジェクション化の効果は大きいのだ。

ホーネット900/Z1000/FZ-1 FAZER

ホーネット900ホーネット900
Z1000Z1000
FZ-1 FAZERFZ-1 FAZER

大排気量車では2000年ごろから既にインジェクション化が進んではいたが、その波はメーカーやモデルによってマチマチだった。
そんな中で早い段階で既存エンジンをインジェクション化したのがホーネット900。
CBR900RR系のエンジンを250や600で人気だったホーネットのスタイリングと融合させた。
ただこれはやはり初期インジェクション車にありがちな「ドン付き」がなくはないバイクだった。

もちろん、CBR由来のエンジンなのだから速いには速いのだが、ペースが上がるほどに「ジワッ」と開けるのが難しく、ビッグシングルのように開け始めでちょっとだけクラッチに触れてあげる、といった小技を使う必要があったりもしたのだ。
もっとも、それはインジェクションの設定だけではなく、120馬力以上あるベースエンジンを国内仕様88馬力に抑え込んでいたことによる弊害も大いに関係しているだろうが……。

カワサキのZ1000も比較的早めにインジェクションを採用した車両。
こちらもかなり猛烈な性格で、それ自体が多くのファンを引き寄せたわけだが、モデルチェンジした2型ではだいぶ性格がマイルドになり万人に扱いやすく変化したことを思えば、初期型はまだちょっと色々と煮詰まっていなかったのではないかと想像させられる。
初期型の荒々しさを楽しむのもまた一興だが、2型のスムーズさや懐の深さを知ってしまっては戻れないだろう。このZ1000の2型というのは名車である。

同様にヤマハのFZ-1も、当初は逆輸入車しかなかったのだが、強烈な「ドン付き」がありとても乗りにくかった。
当時「これは……難しいでしょう!?」とヤマハの開発の方に申し上げたところ「欧州ではこれぐらいグッとくる反応が好まれるんです」との返答。
ところが国内仕様が出たらアクセル開け始めの領域がとても柔らかくなっていて劇的に乗りやすくなっただけでなく、同じタイミングで輸出仕様も同じように改められたのだった。
よってFZ1の購入は(割と簡単にフルパワー化できる)国内仕様もしくは2008年以降のモデルを購入することをお薦めしたい。

ビッグネイキッド

エンジンのルーツを80年代まで遡れるという意味では、絶版となってしまった400ccクラスと背景は同じのビッグネイキッド群だが、こちらはまだまだ人気も継続中だったということもあって、揃ってインジェクション化を果たした。

ホンダはX4ベースだったCB1300SFをインジェクション化と同時に再びスポーティ路線へと回帰、ヤマハはXJRを空冷のままインジェクション化させた。

そんな中スズキは伝統の油冷エンジンではなく新規の水冷エンジンを開発しバンディットシリーズを存続。
他社に先駆けて6速ミッションを採用する非常にコンパクトなユニットを搭載してとても魅力的だったのだが、このエンジン、他車種にバリエーション展開されずにその後絶版になってしまったのがもったいない。
スズキらしい、スムーズでトルクフルなユニットだった。

カワサキも長らく続いてきたZRXブランドをインジェクション化した「ダエグ」へと進化。
ハイオク仕様とするなど更なる高級路線へと舵を切り、多くのファンに支持されたブランドとなった。

いずれのモデルもインジェクション化で規制対応しつつ、ライダーや使い方を選ばないというビッグネイキッド本来の魅力を最後まで崩さず走り続けた。
今となってはホンダのCB1300SF/SBしか残っていないのが少し寂しい。

ニンジャ250R

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2010年代への新たな提案として登場したニンジャ250R。
こういったフルカウルモデルがしばらくなかったため、とても新鮮に市場に受け入れられた。

ベースとなったZZR250は40馬力を発していたことを思えば、ニンジャ250Rの31馬力は若干心許ない気もしないではなかったが、この頃のメインストリームと言えば空冷シングルのトラッカー系が主だったこともあって、水冷のツインはなかなか高級感があったのだった。

タイ生産であることで価格も抑えられ、おかげで大ヒット。
若者が喜んで飛びつき、オジサンたちはレースにも使った。
空席となっていたスタンダードスポーツバイクという枠を上手に埋めたわけである。

たくさん売れたおかげで中古車も豊富なニンジャ250R。
良い意味で特筆することがないぐらいナイスバランスである。
無理のないポジションはツーリングも許容するし、静かで振動も少なく乗り続けることにストレスがない。
現行のニンジャ250はいくらかスポーティな路線に舵を切ったが、共通の車体に400ccエンジンを搭載したモデルも展開されるなど、この初代ニンジャ250Rがあったことで今のカワサキの中間排気量ラインナップが充実しているとさえ言って良いだろう。
ニンジャ250Rに他車が続いたように、4気筒のZX25RやZX4Rにも他社が続くかどうかが見ものだ。

筆者プロフィール

ノア セレン

絶版車雑誌最大手「ミスターバイクBG」編集部員を経た、フリーランスジャーナリスト。現在も日々絶版車に触れ、現代の目で旧車の魅力を発信する。
青春は90~00年代で、最近になってXJR400カスタムに取り組んだことも! 現在の愛車は油冷バンディット1200。