60年代から追ってきた日本のバイクの歴史もとうとう80年代編。
最も飛躍的に技術が進歩し、最も台数が売れ、そしてレプリカの爆発的人気だけではない、様々な機種が販売されたまさにバイクブームである。
あまりに多くの機種が売られ、あまりに多くのストーリーがあるため80年代はだいたい前半と後半に分けて語られることが多いが、ここではバブル経済と共に駆け抜けた10年を一気に辿ってみたいと思う。

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バブル景気と共に技術が進んだ80年代
バイクの進化は日本の経済成長の鏡だった

80年代のバイクシーンを語るのは難しい。

販売面では「バイクブーム」がトピックだろう。70年代末から特に小排気量クラスが大衆に浸透したことでいわゆる「バイクブーム」が起き、82年には過去最高の国内出荷台数328万5000台を記録するというバイク黄金時代だった。
近年は40万台前後を推移していることを考えるといかに売れまくっていたかが伺える。

しかしそのうち8割ほどは原付一種であり、126cc以上の排気量では急激な落ち込みはなく125ccクラスは逆に伸びているため、80年代のバイクブームは主に原付に引っ張られてのものだというのが真実である。
50ccのヘルメット着用義務化は86年からのため、老若男女が気軽に50ccのバイクに乗って自由なモビリティを満喫し、好景気に浮かれていたのが想像できる。
こんな時代の流れの中で、いわゆる「HY戦争」なるものが取りざたされるが、その実はRZvsVTなどといったスポーツバイクの性能対決というより、いかに多くの原付を売るかという販売合戦だったのだ。

技術面では、大排気量では70年代に確立された空冷4気筒が熟成を進め、中盤にはGSX-Rの登場などにより大排気量スポーツが進化し、終盤にはRC30といったプレミアムホモロゲモデルや、リッターオーバーには300km/hも現実的になってきたZX-10やCBR1000Fといったモデルまで出てきてしまうのだから技術進化のスピードは凄まじい。

そして80年代や「バイクブーム」を象徴するのが、レプリカ群の躍進だ。70年代後半に中型二輪免許が導入され400ccまでが現実的な排気量になったこと、またWGP人気も高まっていたことなどに後押しされ、250cc/400ccのスポーツバイクは日進月歩で高性能化。レースも盛んになり一大ブームを巻き起こした。

これもまた、その出発点をRZ、もしくはVTやRG250Γだと捉えると、わずか数年であの89年型NSRまで進化しているのだから凄まじい技術競争があったことがわかるだろう。

このように80年代は様々な事柄が絡み合い、原付も、中型も、ビッグバイクもそれぞれが大きく進化した時代となった。
バブル景気と絡み合ったバイクブームの熱気はその時代を生きた人にしかわからない、独自の魅力があったことだろう。

GSX750Eが、GSX-Rになってしまう 〈750クラス〉

80年の1月に登場したビッグバイクとして、GSX750Eがある。
CB750Fが79年に登場していたことを思うと「ベコ」などと呼ばれ親しまれたGSX750Eは少し旧世代的なルックスをしていたかもしれないが、それでもしっかりと80年代車両。
後にカタナへと繋がる4バルブエンジンを搭載しスポーツ性は高かった。
しかしフロント19インチリア18インチのバイアスタイヤで、そのスポーツ性はあくまで70年代の延長線上だ。

ところが僅か5年後にはアルミフレームに100馬力オーバーのポテンシャルを持つ油冷エンジンを搭載したフルカウルのGSX-R750が生まれてしまうのだ。
しかも50kgほども軽量化しているのも信じがたい。さらに4年後、TT-F1レースや耐久レースで培ったノウハウを投入したGSX-R750Rも登場。
この時点でもはや現代でも通用する車体構成/サスペンション/足周りにまで進化しているのだから、いかに80年代がもの凄いスピードで進んでいったかが伺い知れる。

なお例としてスズキを挙げたが、ホンダも同様に82年に最先端のV4エンジンを搭載しデビューしたVF750Fが87年にはRC30にまで進化している。
いずれのバイクも今やプレミア絶版車だが、この短期間での進化の速さこそが80年代を象徴しているだろう。

過熱しだした最高速競争 〈リッタークラス〉

80年代になった時の最速車といえば何だっただろう。
81年のCB1100Rや、83年のGPZ1100Fといった大排気量空冷4気筒が230km/h付近の最高速を持っていたが、そもそも最高速がどれだけ出るのか、というのはあまり注目されていなかったように思う。
そこに一石を投じたのが85年登場のGPZ900R「ニンジャ」だ。
エンジンは空冷から水冷にかわり、ビッグバイクの定番だった1100ccから900ccへとスケールダウン。
カワサキはZ1以来の900ccスポーツとして力が入っていて、カウルの採用にも助けられ最高速は250km/hに届いたとされる。

300km/hを目指す最高速競争が激化するのは90年代に入ってからだが、それでもカワサキはニンジャを進化させ最高速を280km/h程度まで伸ばした137馬力のZX-10を88年にリリース。
スズキはGSX-R1100を89年に1127ccまで排気量アップさせ138馬力を獲得、ホンダはCBR1000Fで132馬力を実現していて、いずれも200km/h後半を現実的にする実力を誇った。
ZZR登場前夜、このカテゴリーもまた80年代にすでに布石があったのだ。

忘れたくない「テイスティ系」

各排気量帯においてスピードを求めた進化は飛躍的に進んだ。
馬力、最高速、ラップタイムといったわかりやすい尺度での進化はメーカーにとってもユーザーにとっても前向きな気持ちになったことだろう。

しかし同時にそれだけではない車種が、実は多数生まれたのもまた80年代だ。
ヤマハSRは70年代に生まれていたが、そのシンプルで決してパワフルでもないコンセプトはハイパフォーマンスの80年代でも愛され続けたし、85年にはSRXも投入されスポーツシングルの世界も提案された。
また83年にはCBX250RSというスポーツモデルがあったが、ホンダはあえてそれをクラシカルなルックスにしたGB250クラブマンを同年に追加したのだった。
その兄弟車とも言えるGB400/500も85年に投入され、400cc版にはロケットカウルがついた「MkII」もラインナップするなどクラシカル/トラディッショナル路線も追及していた。

また80年代後半にはレプリカ系が猛威を振るっていたが、同時にやはりスタイリッシュなVT250スパーダやブロス400/650というモデルも登場したのが興味深い。
パフォーマンス向上ばかりがフォーカスされがちだが、バイクマーケットが巨大化する中で各メーカーは多様なモデル展開を模索していたこともうかがえる。

今こそ注目の
「ジャパニーズクルーザー」

昨今の絶版車人気の中で、唯一穴場的に存在している分野が、このジャパニーズクルーザーだ。振り返れば70年代からホンダには「カスタム」、カワサキには「LTD」といったクルーザーブランドがあったのだが、80年代になるとこれもまた多様化。

例えば82年のVF750セイバーやその後のマグナ、84年にスタートしたビラーゴシリーズ、85年にはエリミネーターやVMAXもデビューする。現行車として大人気のレブルも、元祖のパラツインミニクルーザーは85年にデビューしているのだ。

このカテゴリーはまだ絶版車としての人気に火はついてはいないものの、実はストレスなく走らせられかつしっかりと絶版車感を味わえるモデルが多く、さらに車両の性格上無理な走りをさせられてこなかったがゆえに状態の良い個体も多いようだ。
足つきも良く、車体も堂々としていて、しっかりとクラシックバイクの所有感を満たすこれらジャパニーズクルーザーもまた、絶版車好きとしては抑えておきたい。

とはいえ、真打は「レプリカ」である

様々な80年代カテゴリーを取り上げてきたが、やはり80年代を象徴するのはレーサーレプリカだろう。RZ250に始まり、VT250が追い、そしてRG250Γ、TZR250といよいよコンペモデルをそのまま公道仕様に落とし込んだようなモデルが次々に登場した。

250ccクラスは主に2ストローク車が躍進。スズキ、ヤマハがパラツインを選択したのに対してカワサキはKRでタンデムツインという興味深いチャレンジをし、そしてホンダは独創的なV型3気筒のMVXをデビューさせた。

80年代も後半になると先述したナナハンクラス同様、今の目で見ても十分通用する、というか今でも現役でレースに使われている完成度を誇るようになり、エンジン形式もヤマハはパラツインでも後方排気、カワサキは通常のパラツイン、ホンダとスズキはVツインへと変わっていった。
あらゆる形式、あらゆる可能性を追求していることが面白く、またそれだけ多岐にわたるチャレンジが許されたのも80年代という時代背景あってのことだろう。

一方、400ccクラスは4ストローク車を中心に進化を重ねた。80年代前半は空冷のCBRやGPZ、水冷のVF400FやXJ400Zといったモデルがあり、そして250のΓがそうであったように、400ccクラスではGSX-Rが、そしてそのすぐ後に続いたFZ400Rがターニングポイントとなった。
86年にはカムギアトレインのCBR400RとVFR400Rが登場、400ccクラスも本格的なレプリカ時代が始まる。
80年代後半になるとCBR400はRの数が増えRRに、FZRもF3キットを組み込んだFZR400Rを追加、カワサキはクラス最軽量のZX-4を経て倒立フォークのZXR400Rを投入し競争は白熱していった。

なお250ccクラスにもCBR250FやGSX-R250、FZ250フェーザーといったスポーティな4気筒が登場しこれもまた90年代へと繋がっていく進化を重ねていく。

「もっと普通にバイクに乗りたい」

50ccクラスの爆発的売れ行きと、中型クラスの性能追求が極まった80年代後半、ユーザーはさすがにこのブームに疲れてきてしまったのだろう。もう少しのんびりした乗り物に乗りたいという方向に趣向が振れたようで、ホンダからはCB-1、スズキからはバンディット、そしてレプリカ時代を終わらせるほどの影響をもたらしたカワサキ「ゼファー」が登場した。
速さという尺度に疲れたという部分もあっただろうし、バイクに乗るたびにライディングウェアや革ツナギを着こむといった風潮が廃れ始めたということもあるだろうし、バブル景気も終わりが見えてきていたという、社会の空気感もあったかもしれない。

とはいえ、90年代に入ってもレプリカモデルは進化を続けていくし、ビッグバイクはCBR900RRの登場により新たなページが開いていく。
そしてリッタークラスは市販状態での300km/h達成に向けたムーブメントへと繋がっていくわけだが、それについては90年代編でお伝えしよう。

ピックアップ試乗記

RZ250&VT250

RZ250
VT250F

80年代初頭はCBX400Fなど70年代の名残を感じさせるスポーツバイクがあったものの、80年代の高性能化競争の幕開けといえば82年登場のRZ250と、その対抗馬として「4ストで勝つ!」と鼻息荒く登場したVT250Fだろう。
現代の感覚で試乗すると、RZは80年代前半車らしく、とても華奢で絶版車感が高い乗り物だ。前身となるRDなどに比べれば水冷ということもあってとてもスムーズなエンジンであり、当時のライダーにカルチャーショックを与えたのはよく理解できる。レッドゾーンへと飛び込みたがるほどフリクション感少なくビュンビュン回るパラツインは、その独特の排気音と相まって楽しいものだし、スタイリングも70年代からは脱した新しさを持っている。

ただブレーキの甘さやサスペンションのストローク感などはまだまだ70年代感が残っており、今の感覚で乗る、飛ばす、というのは少し難しいかもしれず、いたわって走る必要を感じる。エンジンもストレスなく回るとはいえ35馬力ゆえついつい回し過ぎてしまうきらいがあり、抱き着き/焼き付きが脳裏をかすめることもある。
なおRZ350になるとパワーやトルクに余裕があり、より現代的な交通事情に即している感覚が強まるのと、後継機種である排気デバイス付きのRZRになるとグッとモダンになる。

対するVTだが、こちらは初期型のFCモデルでも今の感覚で走らせられるのが凄い。
さすが4ストロークという感じで、よく整備されていれば精密機械を遠慮なくブン回して走らせる快感がある。
インボードディスクのフロントブレーキもソコソコ効くし、前後足周りも細身で旧さはあるものの、危なっかしさのようなものは感じずに走らせられる。
またスポーツという観点では当時RZに敵わなかったとされるが、現在乗り比べるとペースはほぼ同じといった印象である。

RZはとうの昔に絶版車としてのステータスを確立しているが、今こそ特に初期型のVT、そして83年に追加されたフルカウルの「インテグラ」などは特に大切にしてあげたい。
なおフレームが角パイプになった84年以降はエンジンも40馬力にパワーアップし明らかに速いし、車体周りもモダンになっている。
絶版車ステータス的には初期型に敵わないが、走らせて楽しいのはコチラかもしれない。

RG250Γ&TZR250

RG250Γ
TZR250

市販車初のアルミフレームを採用したΓはまさにその名前通り「レーサーレプリカ」のスタート地点と言えるモデル。
この初期型から既に高いポテンシャルを持っていて、細身の車体をヒラヒラとスポーツさせることができる。スリムな車体や細身のバイアスタイヤなどによりとても軽く感じられ、楽チンなポジションのおかげもあって公道ワインディングがとても楽しい。
ただエンジンは規制値いっぱいの45馬力を発しているとはいえ、後継機のVΓに比べると高回転域のパワー感は乏しく感じてしまうこともあるだろう。

2年後に登場したTZRも同様にパラツインエンジンを搭載。車体はアルミデルタボックスフレームに前後17インチだったのだから先見の明があったというものだ。
ここまでくるとエンジンも大変に速く、現在でもクラシックレースシーンでは活躍しているモデルだ。
独特のテール形状や、RZから続くデデンコデンデンという排気音は絶版車感が高いが、現代のタイヤを履いて元気に走らせるとその実力には驚く。
絶版車界ではNSRほどのプレミアにはなっていないものの、走らせる愉しみはとても高い。

GPZ1100&GPZ900R

GPZ1100
GPZ900R

空冷VS水冷という図式なのだが、まさに80年代前半を象徴するような2台だろう。
2バルブの空冷4気筒の限界まで追求した空冷1100はインジェクションを採用し、車体もモノショックにするなど革新的だった。
カワサキ空冷4気筒の集大成といえるモデルで、そのスムーズでパワフルなエンジンはとても魅力的。
高速道路を高速巡行するのはもちろんのこと、ワインディングでだって豪快な走りが可能だ。

車重は決して軽くなく、かつ車体も大きく長い印象があるため操作に丁寧さを求める部分があるが、それでも「空冷最強」の名は説得力がある。
(ちなみに4バルブではあるが、空冷で最大出力をマークしているのはヤマハのFJである)

対するニンジャは水冷の900cc。走り出しのトルクは排気量が少ないぶん空冷1100に譲るが、車体のコンパクトさゆえライダーを選ぶ感じは薄れている。
そして高回転域まで回していきスピードを載せていくと、どこまでも伸びていく感覚があり今でも魅力的だ。
カワサキはこの後のRXやZX-10、そしてZZRに繋がっても、このスピードが乗ったところからさらにずーっと伸ばしていく、という能力が他車/他社に比べて高いと感じる。
ただ初期型はフロント16インチにいくらか癖があり、またフォーク径の細さやブレーキ性能などスピードを出すにはためらわれる部分もある。
絶版車的には初期型にこそ価値があるという部分もあるだろうが、安心してハイスピードを楽しむような走りがしたい人は、フロントが17インチになった以降のモデルが良いだろう。

筆者プロフィール

ノア セレン

絶版車雑誌最大手「ミスターバイクBG」編集部員を経た、フリーランスジャーナリスト。現在も日々絶版車に触れ、現代の目で旧車の魅力を発信する。
青春は90~00年代で、最近になってXJR400カスタムに取り組んだことも! 現在の愛車は油冷バンディット1200。