バイクブームは80年代のもの、そして「絶版車」として愛でられ憧れられるモデルの中心もまた80年代のもの……といった認識もあるかもしれない。
しかし様々な技術が日進月歩で進み、がむしゃらに進化した80年代に対して、90年代は確立された技術を応用/転用して個性的かつ洗練されたモデルが多く現れた年代とも言えよう。
90年代は前半・後半と分けるのではなく、各ムーブメントからひも解いてみたい。
PART1は極まったレーサーレプリカと、ネイキッドの席巻について語ってみよう

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【バイクの歴史を振り返る】1980年代編『バブル経済と連動した飛躍の10年』

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まぁちょっと落ち着きましょうよ。

90年代を振り返ると、80年代が前半と後半でずいぶんと雰囲気が違ってきたように、90年代もまた色々なことが変わった10年だった。
前半はまだバブル経済の盛り上がりが残ってバイクブームが続いていたおかげで、まだまだパフォーマンス系のバイクが多くあった。
それに対して後半はバイクがよりオシャレなもの、生活に密着したもの、多様なライフスタイルに寄り添うもの、へと変わっていった面があるように思える。

どんどんとバイクが高性能化し、レースシーンが盛り上がり、世の中にはお金がジャブジャブあったイケイケドンドンから、90年代も中ごろには「まぁちょっと落ち着こうよ」といった雰囲気になっていただろう。
革ツナギを着こんで峠に繰り出さなくても、もっとカジュアルにバイクを楽しんで、なんならタンデムでもして、デートにも行きたいじゃないか……といった、レーサーレプリカの登場以前のバイクのスタンスが思い出されたとも言えるかもしれない。

「バイクブーム」という熱狂に対して、「落ち着いてしまった」というと寂しさを感じるライダーもいたかもしれないが、長くバイクを楽しんでいくという意味ではむしろ正常化したとも言えるはずだ。
その道筋は80年代後半にゼファーの登場により既につけられていたわけだが、それが花開いたネイキッドブームは大きなうねりだった。

極まったレプリカ

熟しきったレプリカ群と40/53馬力規制

90年代はネイキッドの10年、といったイメージで語られることもあるが、忘れてはいけないのが性能極まったレプリカたち最終形である。
80年代も後半になると現在でも十分通用するハイパフォーマンスを備えたレプリカが登場していたが、90年代には各モデルのSPモデル等も充実した。
スタンダードモデルはガムシャラな高性能から洗練の高性能へと進化し、またSPモデルは本当にそのままサーキットで高い実力を発揮できるものとなっていた。

90年には大容量ラジエターやクロスミッションを備えたFZR400SPや、やはりクロスミッション装備のZXR400R、91年にはGSX-R400が通常のR、そしてSP、さらにはSP仕様にクロスではない通常ミッションのSPIIまでラインナップしていた。
この流れは2スト250ccクラスでも同様だったため、レプリカの熱気は収束するどころか極まっていたのが伺える。

しかしレースへの注目度が失われ始め、ゼファーに引っ張られたネイキッドの付き合いやすさが認識されると共にレプリカブームは徐々に収束に向かう。
そのきっかけとなったのは92年の新馬力規制もあるだろう。それまで400ccは59馬力、250ccは45馬力という規制値があったのだが、92年を境にその数値がそれぞれ53馬力、40馬力へと改められてしまったのだ。

かつてホンダNSRシリーズの開発者インタビューの際に聞いた話だが、NSRは45馬力時代のものは、吸排気系や点火系に一定の手を加えレース仕様にすればすぐに高い出力を得ることができたそう。
ところが40馬力規制となってからは、出荷時状態で40馬力のものをレース仕様にしても、出発点が45馬力仕様のモデル以上の出力を得るにはなかなか厳しく、それまでのように気軽にはできなくなったと話してくれた。

もちろん、車体の方は進化を続けていたため、しっかりとフルパワー化することができれば実力は高いのだが、フルパワー化のハードルが上がってしまい、ゆえに一般レースユーザーにとって負担が増えてしまった、ということだった。

レプリカという熱狂は多くの人を楽しませ、技術の進歩をもたらしたブームだったが、趣味嗜好の移り変わりや馬力規制など多くの要因によって90年代のうちに幕を閉じたムーブメントとなってしまったのだった。

ピックアップ試乗記 NSR

NSR最強として今でも人気の高い88年型(MC18型)があるが、本当の意味でのベストバランスと言われるのはMC21型と言われる90年型以降であり、リアホイールが17インチ化したことなどから今も現役でレースで活躍している姿も珍しくない。
MC18型の乗り味はドラマチックな出力特性でパワーバンドに入ると力強く盛り上がっていく楽しさがある一方、ミッションタッチや各部の操作性は荒削りに感じることもあり、遠慮なく飛ばすには今となってはちょっと気がひけると感じることもある。
そう簡単に壊れるといったことはないだろうが、それでもいたわりながら走らせた方がいい「絶版車感」のようなものが確かにある。

対するMC21型はとてもスムーズだ。NSRには「台形トルクカーブ」と呼ばれるトルク特性が与えられていたが、MC21となると本当にそれが感じられ、特にノーマルチャンバーならば低回転域でもとてもスムーズで軽やかに加速する。各部のタッチもグッとモダンになり、MC18からの確かな進化を感じられる。

ところがリアが片持ちスイングアームのMC28になると、それがさらに洗練されるのだから素晴らしい。馬力こそ40馬力に落とされているものの、扱いやすさやスムーズさ、全体的なクリーンな印象など、ひたすらにパワーを求めて高性能化した2ストマシンという感覚ではなく、一般道でも軽量でパワーのあるNSRというモデルを気兼ねなく楽しめる構成となっていて、MC21型でもまだ荒削りに感じさせてくれるほどだ。

NSRシリーズはどれも魅力的なスポーツバイクであり絶版車人気もとても高い。よりガムシャラで乱暴さも持っているMC18か、それとも洗練のモダンさを持っていてより気兼ねなく付き合えるMC28か、それともその中間のMC21か。どれを選んでもドラマチックな体験ができるだろう

NSR250R MC18 (’88)
NSR250R MC21
NSR250R MC28

ピックアップ試乗記 400SP

400ccレプリカはSP仕様でなくとも大変に速く、特に公道で乗るには2スト250以上に気軽にスポーツを楽しめる。
4ストゆえのパワーバンドの広さや排気のクリーンさも魅力だ。
SPモデルは最後の方では細分化したため各モデルの仕様は良く良くチェックする必要があるが、エンジン出力よりも足周りの充実やクロスミッションの採用が多かったため、普通に走らせている分にはSPだからと言ってそれほど違うものでもない。
ただFZRやZXRのSP仕様に乗った経験からすると、クロスミッションは街乗りではちょっとせわしないという印象もあり、GSX-Rが通常ミッションのSPIIを出したのも理解できる。
一般道で走らせるのではなく、絶版車イベントなどでサーキットを走らせるのがメインという人は、その希少性も考えてレアなSP仕様を探し出して購入するのもロマン。
しかし公道で楽しくツーリングもするような絶版車の楽しみ方をするならば、なるべく高年式のSPではない綺麗な車体を探し当てるのもまた幸せだろう。

ネイキッドが花開く

ゼファーで始まり、スーパーフォアで形作られた「ネイキッド」

さて本題だが、90年代と言えばやはりネイキッドである。
レプリカに変わる新たなムーブメントとして、88年にカワサキゼファー、スズキバンディット、ホンダCB-1が提案され、それが90年代を予言する3台だったとも言える。
ただこの時点ではゼファーが一人勝ちと言えるほどの人気であり、他社は様子をうかがっていた、というのが実態だ。
レプリカに代わる新たなこのカテゴリーは、性能以外の部分でどういったツボを押さえれば売れるのか……そんな模索の末、ホンダが92年に出したのがつい最近まで続いたメガヒットモデルCB400スーパーフォアだ。

しかしネイキッドという枠で考えると、実は前年の91年に既にホンダJADEやカワサキバリオス、ヤマハからは個性的なジールといった250ccクラスネイキッドが投入されていたのだから、90年代初頭は様々なネイキッドが次々と投入されていたということになる。
何が正解かわからないまま、そして400ccクラス、1000ccクラスで本格的に花開く前に、250ccクラスからムーブメントは始まっていたのだ。

ネイキッド黄金期【400ccネイキッド】

ネイキッドと言えば400ccを指す、わけではないものの、96年までは大型二輪免許を教習所で取ることができなかったこともあり、まだまだ400ccが主力といった雰囲気だった。
92年にスーパーフォアが出たのが、400ccネイキッドの基軸となっただろう。
CB-1ではスポーティすぎた。ゼファーではパワー的にちょっと物足りない……。
ダブルクレードルフレームと2本ショック。汎用性も高いが走らせる楽しさや一定の速さもちゃんと確保する。
そんなちょうどいいレシピをスーパーフォアが確立した。

翌年にはヤマハがXJR400を投入。こちらは空冷エンジンとしながらも4バルブでスポーティさを売りにしていた。
スーパーフォアがグラマラスだったのに対して、XJRはスリムでオシャレだったのはいかにもヤマハらしい。
空冷ながら規制値いっぱいの53馬力を達成していたことで、まだ2バルブ46馬力だったゼファーと対比して見られることも多かった。

興味深いのはスズキのアプローチだ。バンディットでネイキッドカテゴリーをスタートさせたものの、スーパーフォアと同じ92年に既にGSX400S、いわゆる400カタナを投入したのだ。
これはバンディットよりもわざわざロングストロークに作り直したエンジンを搭載し、フロントには18インチホイールを使うなど他のネイキッドとは違ったアプローチだった。
94年には同じエンジンを使ったインパルスを出すなど、過去のモデルのオマージュに力を注いだのはバンディットが少しスポーティすぎたという反省だったのだろうか。しかしカタナもインパルスも大変に元気で速いという魅力も持っている。

カワサキはゼファーで頑張っていたが、ライバルの高性能化に対応するように95年には水冷のZRXを展開、翌年にはゼファーも4バルブ化するなどハイスペック化していった。

400ネイキッドはゼファーというユルいモデルでレプリカ時代に対して新しい価値観を提案したわけだが、90年代も半ばを過ぎるとRモデルやSモデルといったスポーティバージョンが展開され、結局高性能化していったというのも皮肉なものだろう。
これに加えて大型二輪免許取得が容易になってきたことで、90年代後半になると400ccという排気量カテゴリーそのものが縮小し、2000年を迎える頃には沈静化へと向かっていた。
ただその総合力の高さが多くのファンをひきつけたのは、今もこれらモデルが絶版車として人気を誇り、世代問わず魅力的に感じる人がいることが証明している。

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ピックアップ試乗記 CB400スーパーフォア

CB400スーパーフォア NC31

この先長く市場の中心となった「ネイキッド」というものを確立したスーパーフォア。
初期型は黄色や赤といったビビッドなカラーもまた注目を集めるきっかけだった。
ゼファーに比べればとてもスムーズで洗練されていてかつ速かったが、それでも初期型はまだ少し「速くてはいけないんだ」という感覚があったようで、90年代中頃のモデルに比べると特性がおとなしいような印象もあった。

後にビキニカウルがつき、エンジンも少しだけ高回転化したバージョンR、そのビキニカウルをやめて普通の丸ライトに戻したけれど中身は同じというバージョンSが展開されたが、この2台になるとちゃんと速くてよりバランスの取れたモデルとなった。

98年まではNC31と呼ばれる型式で、細身のバイアスタイヤを履いている。このNC31型までは乗り味も「絶版車感」が豊富で、今のバイクとはちょっと違った操作性が楽しめると言えるが、今となっては旧いバイクのため綺麗な個体を見つけるのも難しくなっている。あえてNC31型を求めるなら、98年のホンダ50周年カラーが粋だろう。

99年にはNC39型へと進化。全体的に低重心化し、ラジアルタイヤを採用。今のバイクに近い操作性になっており付き合いやすさはNC31以上だが、本当に今のバイクと変わらないほど洗練されているため「絶版車感」のようなものは希薄だ。

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国内でちょうどいい大排気量スポーツ【リッタークラスネイキッド】

ネイキッドの流れは大排気量にも移り、CB1000SFを筆頭に、400ccクラス同様にXJR1200、ZRX1100、ゼファー1100などが展開された。
スズキは軽量でスポーティなGSFシリーズからバンディットへと繋がるが、いずれも主に海外向けのフルカウルスポーツモデルのエンジンをベースにしたネイキッドという意味では生い立ちは同様だ。

それらフルカウルモデルはいずれも130~140馬力といった出力を持っていたが、ネイキッドはそれを規制値の100馬力以下に抑え、その代わりに常用域でのトルクを太らせ、そのトルクをダイナミックに楽しめる5速ミッションとするのが定番だった。

当時はこれを「デチューン」と呼ぶ向きもあったが、しかし実際には日本の道路事情に良くマッチしたセットアップであり、そして400ネイキッド同様に高い実用性/汎用性を持っていたためスポーツ志向の人にもツーリング志向の人にも幅広く受け入れられた。

大型自動二輪免許を気軽に取得できるようになった時、気軽に乗れる大排気量バイクとしてぴったりフィットしたのだろう。
巨大な大排気量ツアラーなど玄人好みのモデルではなく、こういった接しやすいモデルが各社から出てくれたのは、大排気量バイクをより多くの人に楽しんでもらいたいというメーカーの意図だったのだろうが、それは見事に功奏したと言える。多くのライダーが拒否反応や「手に負えないかも」という不安を持つことなく大排気量車へとシフトして行けたという意味でも、ビッグネイキッドが担った役割は大きい。

90年代も後半になると、XJRは空冷のまま1300になり、スーパーフォアはX4ベースのクルーザー色強い1300へと進化した。
スズキからはイナズマが出たり、GSFにハーフカウルをつけた「S」モデルが登場したりし、400cc版同様にバリエーションが増えていった。

ビッグネイキッドは2000年代も続いていくわけだが、今ではストリートファイター系やアドベンチャー系に取って代わられ、こういった「1台で何でもこなせるオールラウンドスポーツバイク」というものは国内ラインナップから失われてしまった(CB1300SFは現役だが)のが残念だ。

絶版車としてのステータスは高くはないものの、気兼ねなく付き合うことができる大排気量車としては今でもとても魅力的であり、中古車として見た時に費用対効果が非常に高いジャンルと言えるだろう。
またカスタムやチューニングを楽しみやすいという意味でも、幅広く楽しめるモデル達である。

ピックアップ試乗記 XJR1200

XJR1200

ビッグネイキッドたちはどれもとても魅力的であり、現在のストリートファイター系のようなエキサイティングさとは違った落ち着いたスポーツ性を持ちつつ、タンデムや荷物の積載といったことも十分考慮されていたのが魅力だ。

前後18インチホイールを持つホンダの大柄なCB1000SFも走らせれば本当に気持ちの良いバイクであり、思いのままに操ることができるし、カワサキのZRX1100もフロントからクリクリとコーナリングができ、懐古的なルックスからは想像しにくい軽やかなハンドリングが魅力だ。

しかし最もビッグにネイキッド「らしい」のはXJRに感じる。
シートが柔らかくライダーが跨るとバイクの重心へと沈み込むような一体感があり、大きなエンジンを抱くような安心感がある。
それでいて鈍重にならずワインディングもスイスイと走れるのはいかにもビッグネイキッドが持つ高い汎用性ゆえだろう。
場面を選ばずいつでも一体感があり、巨大なバイクを思いのままに操るという充実感はライバルの中でもかなり高いだろう。

なおXJRのルーツは空冷マシン最大出力を誇るFJ1200がベース。
チューニング次第ではとても高いパフォーマンスを得ることができ、今でも旧車レースで大活躍もしているのだ。

絶版車ステータスとしてはZRXなどの方が高いかもしれないが、ビッグネイキッド「らしさ」という意味ではXJRはとても魅力的なバイクである。

独自路線を走った250ccクラス【250ccネイキッド】

400cc~大排気量へと繋がったネイキッド群だが、スタートは250だったと言える。
ただ250は400cc以上と比べると、ネイキッド然とはしているもののほとんどがモノショックであったり、必ずしもダブルクレードルフレームではなかったりと、400cc以上のネイキッドが定番としていたレシピとはちょっと違っていたようにも思える。

250ccクラスは比較的若いユーザーが多いということもあってか、懐かしさに訴える必要もなかったのだろう。
だから2本ショックもマストではなかったのだろうし、バリオスやジール、ウルフといった独自のモデルが展開されたのが特徴だ。

またバンディットも400cc以上を見ているコアユーザーとしては、ゼファー全盛の時代の流れに沿っていないという感覚もあったのかもしれないが、バイクブームを実体験していない90年代後半の若者層にとってはあくまでスタンダードなスポーツバイク。VCエンジンを搭載するなどして長くファンを集めていったブランドだろう。

そんな若者ニーズに応えるように96年に登場したのがホンダのホーネット。
グラマラスなボディにファットなタイヤというスタイルはCBR系エンジンを搭載してはいるものの過去へのオマージュは全くなく、独自の新しい250スポーツとして絶大なる人気を誇った。
むしろホーネットはもう、250ccネイキッドの答えだったのだろう。
ホーネットに対抗できる250ネイキッドはその後登場しておらず、世の流れがスクーターやトラッカーに移行するまで一人勝ちの人気車種という状態だった。

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ピックアップ試乗記 バリオス

バリオス

タコメーターが19000回転まで記されていて、そういった超高回転域に突入するとノーマルマフラーでもまるでF1のような高周波サウンド共に250ccとは思えない素晴らしい加速を見せてくれたバリオスは、ホーネットが登場するまでは250ccネイキッドの中心的存在だった。

90年代はまだまだ現役で走り回っていたレプリカたちと一緒に走っても遅れることはないほどとにかく速く、そして高回転域だけではなく常用域のトルクも大変に力強かった。
ライバルのジェイドやバンディットとは一線を画するパフォーマンスが何よりも魅力的だったが、ルックスもまた、400ccネイキッドが持っていたネイキッド像とは違ったところで魅力を放っていた。

97年には2本ショックのバリオスIIにモデルチェンジしスタイリング的にはより「ネイキッド」化するわけだが、バリオスの本当の魅力は初期型にあるだろう。
今絶版車として楽しむべくバリオスを選ぶなら、45馬力時代の初期型を強くお薦めする。

忘れてはならないぶっ飛びオフ車

90年代のPART1はレプリカとネイキッドについて書く予定だったが、ロードモデルだけでなくハイパフォーマンスなオフロードモデルも多くあったのもまた90年代のため追記しておこう。

2ストエンジンを積んでいたCRMやDT、TSやKDXといった、80年代から引き継がれたモデルはまだ健在で、オンロードのレプリカ群ほどブームに左右されなかったおかげか、90年代中ごろ以降もまだまだ現役でファンを楽しませてくれた。

また4ストでも「闘う4スト」のKLXや、DRシリーズのようなパフォーマンス重視のモデルがあり、そしてAX-1やディグリーといったよりフレンドリーなオフロード系モデルですらハイパワーの水冷エンジンを搭載するなど、魅力的なモデルが多かった。

ネイキッドが全盛の90年代、フルカウルのレプリカモデルはもう一部の愛好家のものといった雰囲気となっていたが、しかしオフ車というのはその普遍性のおかげか、ストリートを元気に駆け巡る2ストやカスタムを施された4ストなど、元気に走り回っていたものだ。

ピックアップ試乗記 DT230ランツァ

DT230ランツァ

2ストオフ車の移り変わりもまたレプリカたちと同様で、80年代の終わりはまだまだガムシャラでスポーツを追求していたのに対し、90年代の中ごろになってくるとだいぶ洗練されて日常的に扱いやすくなってきた。

CRMのARがそんな印象の筆頭だろう。
2ストながらとてもクリーンな燃焼をしてくれていたおかげで白煙も少なく、そしてツーリングシーンならば燃費もとても良かったのが印象的だ。
それでいて元気に走ろうと思えば、軽量な車体と相まってロードモデルを追い回せるような実力を持っていた。

ただ90年代らしい洗練さを持っていたのはヤマハのランツァだったと思う。
コンペ志向ではなく、セロー同様にシート高を低くし、林道や獣道でも楽しめるコンセプトとしていたおかげでそもそも付き合いやすさは高かったのだが、加えてセルモーターを備えていたのだ。
当時2ストにはセルはいらないという風潮だったが、オフ車こそ難しい状況に陥った時セルの恩恵にあやかる乗り物。そうでなくとも日常的にもありがたい装備だ。

ランツァのもう一つの魅力は、そのスマートなスタイリングだろう。ヤマハはどこかオシャレなバイク作りをしてくれるメーカーだが、オフ車はどうしてもプラスチックが多く軽薄な印象になってしまう傾向がある中、ランツァは造形だけでなくカラーリングや塗装の仕上げまでとても上質だったのである。

90年代は続く……

PART1にもかかわらずずいぶんと長くなってしまったが、90年代を象徴することとして、まだ最高速競争のハナシやCBR900RRに端を発するSSモデルの躍進など話題は尽きない。
様々なことが起きた90年代、今絶版車に乗るには旬な年代とも言える。

80年代車よりはだいぶ安心して乗ることができ、かつ今のバイクにはない味わいも確かにある。
価格的にも一般的な中古車+アルファ的な感覚で現実的に購入できるものがまだまだ豊富というのも魅力だろう。
次号でも90年代を語っていく。

筆者プロフィール

ノア セレン

絶版車雑誌最大手「ミスターバイクBG」編集部員を経た、フリーランスジャーナリスト。現在も日々絶版車に触れ、現代の目で旧車の魅力を発信する。
青春は90~00年代で、最近になってXJR400カスタムに取り組んだことも! 現在の愛車は油冷バンディット1200。