RZV500Rはヤマハが2ストロークの技術を注ぎ込んで開発したレーサーレプリカのフラッグシップ
公開日:2023.04.12 / 最終更新日:2024.11.06
2ストロークV型4気筒500ccエンジンを搭載した唯一無二のマシンは、どのようにして生まれたのか解説します。
ヤマハは2ストロークに全力で取り組んでいたメーカー
RZV500Rのことを説明する前に、ヤマハにとって2ストロークがどれほど重要だったかを理解しておいたほうが良いでしょう。
ヤマハは60年代から70年代にかけて、2ストロークバイクで世界選手権に勝ち、たくさんの魅力的な市販車を作ってきました。
2ストロークに全力を注いできたメーカーです。
ところが70年代に発生した世界的なオイルショックや四輪の排ガス規制の影響で、2ストローク離れがはじまってしまいます。
「2ストロークはもう終わった」というような空気が世界中に流れていた中でも、ヤマハは2ストロークをあきらめず、RZ250を開発しました。
RZ250は一大ブームを巻き起こして2ストの人気を見事に復活させ、これが80年代のレプリカブームのキッカケとなりました。
つまりヤマハにとって、2ストは絶対に他のメーカーに負けられない重要なジャンルだったのです。
HY戦争があったからRZV500Rが生まれた?
70年代後半から、ヤマハはホンダとHY戦争と言われる状態になります。
ホンダのシェアを奪って二輪でNo1になることを目指したのです。
両メーカーは色々なクラスで、ガチンコのライバルを登場させあいました。
例えばヤマハの稼ぎ頭だったスクーターのパッソルに対して、ホンダがぶつけてきたのはタクト。
値引き合戦や無理な生産などを続けた結果、ヤマハは経営が傾くほどのダメージを受けることになってしまったのです。
そんな状況下で出たのが「YZR500レプリカを作ろう」という意見でした。
経営的に苦しい状態であれば、販売台数が見込めそうなバイクに注力すべきだったかもしれません。
しかし、苦しい状態だからこそ、ヤマハのイメージを復活させるくらいインパクトがあるモデルが必要だと判断されました。
こうして2ストロークメーカー、ヤマハのプライドをかけた最高峰のマシン、RZV500Rの開発が開始されることになったのです。
ストリートの楽しさを考えたエンジン
エンジンはYZR500同様にV型4気筒。
2ストロークの軽快さを生かすためにYZR500に近い1375mmというホイールベースにすることが決定されました。
これは250ccロードスポーツとほぼ同じ寸法で、同時期にスズキから登場したライバル、RG500Γよりも60mmも短いのです。
RZV500Rの凄いところは、この小さなスペースに500ccのV4エンジンを搭載してしまったことでした。
ところがこれが一筋縄ではいきません。
ストリートバイクはレーサーと違って大きなエアクリーナーを装備する必要があり、補機類やオイルタンクなども増えます。
そこでVバンク(前と後ろのシリンダーの角度)はYZR500の40度から50度に広げられることになりましたが、それでも十分ではありませんでした。
不可能ではないかと考えられたスペースの問題を解決するために考えられたのが、前バンク2気筒の吸入方式をクランクケースリードバルブ、後ろバンク2気筒をピストンリードバルブにするというレイアウト。
吸気マニホールドの位置が変わるので、前後のシリンダー同士が接近していても吸気マニホールドが干渉しなくなるのです。
ただし、前と後ろでは特性が変わってしまうので、4気筒の燃焼状態を揃えるのに開発陣は大変な苦労をすることになりました。
足回りにも独創的な技術を採用
RZV500Rは、車体にも独創的なアイデアがたくさん取り入れられています。
短いホイールベースでハイパワーな500ccV4エンジンを搭載すると、簡単にウイリーしてしまいます。
フロント荷重を高くして対策するとハンドリングが重くなってしまいます。
そこで軽快なハンドリングの為、フロントには16インチホイールが採用され、加速時を含む安定性と旋回性が確保されました。
フロントのディスクローターはベンチレーテッドタイプ(空洞のディスク板内部を空気が流れて冷却効果を高める)で、フロントフォークはブレーキング時の姿勢を安定させるアンチノーズダイブ機構付き。
フレームはヤマハの量産車としては初となるアルミ(輸出仕様は鉄)です。
リアショックを装着するスペースを通常の場所に確保できなかったので、エンジン下にサスペンションを取り付けるなど、タイトなスペースを有効に活用にすることが考えられています。
ちなみにアッパーカウルが、RZ250RRと同じものであることからもRZV500Rが、どれほどコンパクトにまとめられたかをうかがい知ることができます。
ライバルのRG500Γが、レーシングマシンの構造を極力忠実にコピーしたのに対し、RZV500RはV4というエンジンレイアウトこそ継承していたものの、各部のメカニズムはレーサーとは違ったものになりました。
しかし、だからこそ開発が難しかったことも事実。
ストリートを楽しく走れることを考え、当時のヤマハの2ストロークテクノロジーを余すところなく注ぎ込んだマシンとなっています。
RZV500Rのフィーリングと中古車事情は?
RZV500Rは、非常に乗りやすいマシンです。
ライバルのRG500Γに比べると低中速ではV型特有の力強さがあるので、ストリートで扱いやすく、回転が上がるにつれて排気音が整ってきて、パワーバンドに入った瞬間、2スト4気筒独特の乾いた排気音と共に力強く加速していきます。
ハンドリングは基本的に素直ですが、16インチフロントタイヤを装着しているマシンとは思えないほどの安定感があり、コーナーリングでは狙ったラインを忠実にトレースしてくれます。
そして何より、4本のサイレンサーから吐き出される2ストスモークと排気音がライダーを夢中にさせてくれます。
RZV500Rは、手に入れられないほど希少ではありませんが、国内での販売台数は4000台にも満たないマシンです。
もしも、ヤマハ2スト最高峰のRZV500Rが欲しいのであれば、チャンスは逃さないようにすることが重要になるでしょう。
もしも手に入れることができたなら、ヤマハ2スト最高峰の走りを存分に楽しむことができるでしょう。