電動キックボードのルール整備に関する道路交通法改正案が衆議院を可決し、2年以内に施行の見込みとなりました。改正の内容と背景、課題、今後の展開、バイク市場への影響について考えたいと思います。

1.「特定小型原付」という新区分が誕生する!

4月19日、電動キックボードのルール整備等に関する道路交通法改正案が衆議院で可決されました。
これにより、2年以内に法改正が施行される見込みとなっています。法改正案の概要は下記になります。

<電動キックボードに関する道交法改正案の主な内容>
※2024年5月までに施行予定
●16歳以上は免許不要 ※16歳以下は乗車不可
●ヘルメットは努力義務
●最高速度20km/h 以下(スピードリミッター装着)
●6km/h 以下制御モードで自転車歩行者道(自歩道)も 走行可能
※要識別ランプなど義務付け
●新設区分「特定小型原動機付自転車」の定義
・ 電動に限る(出力は600W 以下)
・ 最高速度20km/h 以下に制限されている
・ 長さ190cm×幅60cm 以内である
※普通自転車(2輪以上4輪以下)と同じ寸法
・ 特定小型原付に必要な保安部品(ウインカー、ホーン、
尾灯、ブレーキ灯等)が装着されている
・ 型式認定も実施

 

懸念とされていた車両区分は、原付一種から分離するという形で、新たに「特定小型原動機付自転車(※特定小型原付)」を新設することになりました。

動力は電動のみとされており、多くの新しい電動モビリティがこの区分に合わせて開発販売されることになるでしょう。

また、特定小型原付の注目すべき点は、16歳以上は免許不要でヘルメットも努力義務ということです。16歳と言えば高校1年生です。電動キックボードの価格は、高機能なものでなければ現在でも10万円を切っていますから、普及モデルは4~5万円ほどの価格帯に抑えられ、電動アシスト自転車よりも低価格になると見られています。

現在、電動キックボードの多くは原付一種に区分されていますが、ルール整備がされる前に海外から様々な電動キックボードが輸入販売されたこともあり、未登録車両(いわゆる野良電動キックボード)による事故や違反が目立ち、問題となっていました。

しかし、改正案が示されたことにより、法改正の認知や安全運転の啓発、取締りなども進んでいくと思われます。

2.電動キックボードの法整備が進んだ背景


今回の法改正は、急に話が進んだわけではありません。その背景には、日本社会が抱える大きな課題があります。
最も大きなところで言えば、いわゆる少子高齢化です。さらには、それにより、地方の過疎化、中山間地での限界集落化、電車やバスといった公共交通網の衰退、学校統廃合による通学距離の延伸化といった問題が日々の生活を脅かしています。

都市部に住んでいるとこうした問題はあまり身近ではないかもしれませんが、ツーリング先の市町村を走っていて、廃線や廃駅、ミニバン等によるデマンドタクシー(乗り合い)の姿を見たことがある人もいると思います。


日本は、国土の7割が中山間地です。人が自由に移動することが少しずつ難しくなってきていて、それを支える人の手も少なくなってきています。

こうした移動の課題が背景にあり、新しいモビリティ、多様なモビリティといったものが検討されてきました。

電動キックボードについても、移動手段のひとつとして数年前から検討を繰り返しており、シェアリングサービスでの実証実験を段階的に実施し、それは現在も続いています。

個人の移動課題を解決するために、CASEの流れの中でMaaSを活用すべく、新たなモビリティがいろいろと検討される中のひとつの手段として電動キックボードがありますが、今回新設される特定小型原付という車両区分には、キックボードタイプ以外の多くの電動モビリティ(3輪・4輪・モーターサイクルタイプ等)が含まれていくことも期待されています。

3.今後の普及展開と違反・事故といった課題


前述したとおり、多くのメーカーやシェアサービス事業者が特定小型原付に含まれるような新製品を多数販売すると思われます。

電動キックボード自体はある程度乗り手を選ぶものと思われますが、若年層(のいる家庭)の購入から所有が進み、並行してシェアサービスやレンタルによる利用拡大も進んでいくでしょう。駅から目的地、駅から自宅といったラストワンマイル利用における需要は都市部においてはかなり多いと思われます。


ただし、そこで心配になるのが、交通違反や交通事故です。

免許証を持っている人なら道路交通法といった交通法規を習得していますが、高校生や大学生などの若年層で免許を持っていない人は、違反を犯したり事故を起こしてしまう可能性が高いと言えます。

現在の学校教育では、歩行者・自転車として知っておくべき最低限の法規しか教えてもらえません。
そうした知識もなく公道に出ることは懸念であり、今後取り組むべき最も切実な課題と言えるでしょう。

家庭でも学校でも十分な交通安全教育が受けられていないのは、我が国の長年の課題であり、その要因のひとつに三ない運動がありますが、こうした現状を改革すべき時に来ているのかもしれません。

ぜひ、自治体や企業・事業者まかせにせず、国が率先して取り組んでほしいものです。

4.既存のバイク市場への影響は?


特定小型原付となる電動キックボードは免許不要の自走モビリティです。三ない運動が残る地域・学校の高校生でも購入して乗ることができるようになります。

自走モビリティの便利さ、楽しさといった部分はその上のカテゴリーとなる原付一種・二種、普通・大型自動二輪へのステップアップにつながる可能性も秘めているでしょう。


特定小型原付の20km/hという最高速度は、混合交通下では「抜かれることが怖い」「いちいち後続車を抜かせることが億劫」という考えに至らしめる可能性が高く、幹線道路では自転車専用レーンが整備されているところでないと、実用的ではないと判断されるかもしれません。


「原付一種バイクが売れなくなるのでは?」という意見も聞きますが、電動キックボードの移動半径は数km程度でしょうから実際にはそれほど影響はないでしょう。

内燃機関(ガソリンエンジン)の原付一種は2025年11月の継続生産車への令和2年排出ガス規制対応でラインナップがほぼ途絶えると言われていますが、それまでには交換式バッテリー採用の電動原付一種が登場し、電動キックボードなど特定小型原付の電動モビリティとは用途による住み分けが自然となされると思われます。


むしろ、子育て(園への送り迎えなど)が終わった後のお父さんお母さんのパーソナルな移動手段として脚光を浴びるなど、電動アシスト自転車のほうが影響を受けるなんてこともあるかもしれませんね。

筆者プロフィール

田中淳磨

二輪専門誌編集長、二輪大手販売店、官公庁系コンサルティング事務所等に勤務ののち二輪業界で活動するコンサルタント。二輪車の利用環境改善や市場創造、若年層向け施策が専門で寄稿誌も多数。