バイクのマフラーの違いと交換時に知っておきたいこと
公開日:2022.10.29 / 最終更新日:2022.10.29
マフラーとは何? マフラーの役割について
マフラーは、エンジンから延びている金属製のパイプです。エンジンをスタートするとシリンダーの中で爆発が起こりますが、その後に排出される排気ガス(有害物質)と、大きな音、臭いといったものを取り除いてくれるのがマフラーの役目です。
全てを完全に取り除くことはできないので、マフラーの末端の穴からは、キレイになった排気ガスと小さくなった排気音、弱められた排気ガスの臭いが出ています。近年は排ガス規制がどんどん厳しくなっており、環境規制に対応した高年式バイクのマフラーだと、O2センサーや触媒(キャタライザー)の効果により周辺の大気よりキレイな排気ガスを出していることもあるほどです。
さらには、形状や内部構造を工夫することでエンジンパワーを向上させたり出力特性を変更することもできるので、レースの現場ではマフラーの選択やセッティングは速く走るために重要な要素となっています。
昔はとにかくパワーアップ、軽量化、ドレスアップなどが目的でしたが、現在は騒音規制や排ガス規制が厳しい中で、規制に対応した上でのパワーアップ、音質変化、軽量化、ドレスアップといった視点で選ぶユーザーが増えているようです。
マフラーを交換することのメリットと注意点
マフラーを交換することのメリットには以下があります。
パワーアップ
車種やマフラーのメーカーにより異なりますが、一般的には5~10馬力程度変化があると言われています。
ただしセッティングが必要な場合が多く、パワーとトルクがトレードオフになることもあります。
全域パワーアップというのは難しいことが多いです。
排気音の音質を変える
いわゆる「音を良くしたい」「自分の好みの音に変えたい」というもの。近年は加速騒音規制などもあり、かつてのようなメーカー・ブランドごとに特徴のある音を出すのは難しくなってきました。
純正に比べるとアイドリング時から排気音が大きくなることが多いので、ご近所迷惑にならないようエンジン始動時には気を使いましょう。
軽量化
バイクとマフラーの相互関係です。純正がステンレス製の2本出しマフラーをカーボン製の1本出しマフラーに変えた場合には10kg以上の軽量化も珍しくありません。
ただし、街中を走っているぶんには、その効果をあまり実感できないかもしれません。
ドレスアップ
いわゆるファッション的な感覚でのドレスアップです。
憧れのマフラーブランドを付けたい(入れたい)、大好きなレーシングライダーのバイクと同じブランドのマフラーにしたいなど理由は人それぞれで良いでしょう。気分を高揚させてくれる見た目も重要ですね。
主なメリットを書きました。ただし、社外品(リプレイス)マフラーは10万円以上することも多くて高額です。上記のメリットに見合うのかどうかしっかり吟味してから装着したいですね。
純正マフラーにはブランドロゴもなくのっぺりしたものが多いですが、あらゆる状況下で最高の性能を発揮できるようにテストされて作られた究極の万能型マフラーです。マフラーを交換するということは、何かにメリットがあっても、どこかでデメリットになる可能性があることも知っておきましょう。
マフラーの種類による違いとは?
マフラーの販売形態には、マフラーの構造から2種類あります。マフラーは、大きく分けるとエキゾーストパイプ(排気管)とサイレンサー(消音器)の2つのパーツからできています。
エキゾーストパイプの長さや形状は排気ガスを単に通すだけでなく、出力特性等にも影響を及ぼします。また、サイレンサーはその大きさ(容積)や形状、内部構造により消音特性や音質特性に影響します。
近年のエキゾーストパイプやサイレンサーには環境規制に対応させるための各種センサーやバルブ、触媒(キャタライザー)等が備えられており、社外品マフラーの開発費アップ、価格高騰にもつながっています。
また、サイレンサーのエンド部分にはバッフルと呼ばれる消音パーツがついています。
元からついているバッフルを取り外す等の行為は違法改造に該当するためしないようにしましょう。
フルエキゾーストタイプ(通称:フルエキ)
フルエキゾーストとは、エンジンから伸びているエキゾーストパイプ部とその先で太くなっているサイレンサー部が一体となって売られているタイプです。交換時には、マフラーの全てをまるっと交換することになり、その効果をフルに体感できますが、性能を発揮するためには車両側のセッティングが求められるものもあります。
価格も十数万円からと高額になりますが、軽量化の効果も大きくなるので、サーキット走行を楽しみたいという方にもベストな選択でしょう。
●アクラポビッチ レーシングライン チタン JMCA MT-09/SP 21-22 【型式:8BL-RN69J】価 格:¥235,400(税込) ※JMCA認証マフラー、排ガス証明書付属(車検対応)
問合せ:株式会社プロト TEL:0566-36-0456(代)
スリップオンタイプ
スリップオンとは、エキゾーストパイプはそのままにしておいて、連結部から後ろのサイレンサー部分のみを交換できるように売られているタイプです。サイレンサー部のみなのでフルエキゾーストタイプよりは安価です。音質を変えたり数kgの軽量化等の効果を実現できます。気軽にドレスアップしたい方にもオススメです。
●アクラポビッチ スリップオンライン カーボン JMCA CBR250RR 17-22 【型式:2BK-MC51】/価格:¥81,400(税込) ※JMCA認証マフラー
問合せ:株式会社プロト TEL:0566-36-0456(代)
マフラーの材質による違い、メリット・デメリットとは?
マフラーの特性を大きく変える要素として、その材質があります。どれも一長一短がありますので、目的や予算を考えて選びましょう。
スチール(鉄)
小~中排気量車の純正マフラーに採用されているオーソドックスな素材です。
スチールマフラーのメリット
衝撃を受けてもへこんだり曲がったりするだけで壊れにくく、価格が安い。
スチールマフラーのデメリット
重い。マフラーは高温になるパーツなので酸化しやすくサビやすい
アルミ
サイレンサーの軽量化に採用されることのある素材。近年はあまり見ません。
アルミマフラーのメリット
スチールやステンレスよりは軽く熱に強い。
アルミマフラーのデメリット
衝撃を受けると曲がらずに割れる場合がある。白サビが出ることも。
ステンレス
中~大排気量車の純正マフラーにも採用されているポピュラーな素材です。
ステンレスマフラーのメリット
衝撃を受けてもキズがつきにくく、熱に強くサビにくい。耐候性も高い。
ステンレスマフラーのデメリット
重い。削りキズなどは補修しづらい。サイレンサーが分離できないものが多いので注意。
チタン
強度が強く、レーシングマシンなどハイスペックなバイクに採用されています。
チタンマフラーのメリット
強さと軽さを兼ね備える。焼け色が美しく、ほぼサビない。
チタンマフラーのデメリット
加工が困難で高価。薄いので溶接など補修が難しい。
カーボン
金属ではなくカーボンクロスに樹脂を染みこませて成形加工した複合素材です。
現状では最も軽い素材で、サイレンサーの外殻やカバーに使われることが多いです。
カーボンマフラーのメリット
とても軽くて強度も高く、耐熱性も備える。見た目もレーシーになる。
カーボンマフラーのデメリット
転倒等による削れ・割れに弱い。紫外線などで色落ちする。補修も完全には難しい。
マフラー購入時に知っておきたいこと、注意点とは?
社外品マフラーを購入する際には注意すべきことがあります。特に、251cc以上のバイクに装着する際には車検対応品でないと車検を通せないということにもなるので注意が必要です。
また、近年は不正改造車の取締りが厳しくなっています。特に違法・改造マフラーの取締りは厳しく、規制値をクリアできていないと街頭検査(上写真)を受けた際に違反車両として整備命令が発令されたり、それに従わない場合は車両の使用停止処分を受けることもあります。
また、使用者だけでなく、不正改造を実施した者にも懲役や罰金が課せられる可能性があります。
車検時にクリアしないといけない項目は、騒音規制値と排出ガス規制値です。
騒音規制値
バイクの製造年式と排気量によってそれぞれ規制値(単位はdb(デシベル)
)が定められています。例えば、バイクの年式が1997年式なら当時の規制に対応していればよく、年代をさかのぼったり、それより新しい規制に対応している必要はありません。
さらに騒音と言っても「近接排気騒音」「加速走行騒音」「定常走行騒音」と測定方法により3つの項目に分かれています。
ユーザー車検で検査されるのは近接排気騒音のみです。加速走行騒音と定常走行騒音はJMCA(全国二輪車用品連合会)に加盟するマフラーメーカーならば、製品化の前に型式認定試験を受けて合格しているので、近年のマフラーであれば心配ありません。
ただし、バイクの年式に合わない昔のマフラー、海外メーカーの輸入マフラーや汎用マフラー、海外市場向けマフラー、サーキット走行専用マフラーなどの「JMCA政府認証マフラー」でないものを装着してしまうと、車検に通らない可能性が高くなるので、購入時にしっかり確認する、またはショップ店頭スタッフに相談したほうがよいでしょう。
ショップが保安基準を満たしていないマフラーを装着する等の不正改造を行った場合は「不正改造の幇助(ほうじょ)」として認証工場の資格取消処分となる可能性もあるため、JMCAプレートの無い海外メーカーのマフラー等はと類付けしてもらえない可能性があります。
安易にインターネットで海外メーカーのマフラーを購入することは危険です。
2016年10月以降に製造されたバイクの場合
比較的新しいバイクの場合は、証明機関による騒音性能表示等が義務づけられていて、マフラーにマークやプレートが付けられているので、ひと目でわかりやすいです。
「アクラポビッチ」などの海外人気メーカーのマフラーを買う際には、正規輸入代理店がJMCA政府認証を通している(共同開発している)ものを買うのがベストです。
JMCAマーク(プレート)
国内マフラーメーカーのJMCA政府認証マフラーや取扱いメーカー(正規輸入代理店)による海外製マフラーに装着されている
※詳しくは https://jmca.gr.jp/about_muffler/certification/
Eマーク
ハーレーダビッドソンなど海外メーカー車両のマフラーに刻印されている。EU圏内では「e」マーク(小文字)となる。
○自マーク
国内メーカーの純正マフラーに刻印されている。
排出ガス規制値
1999年から新たに適用されたのが排出ガス規制です。
社外品マフラーの場合は、排ガス検査レポート(通称ガスレポ)という書類が必要です。車検時にこれがないと不合格になるので、社外品マフラーを装着した中古車を売買する際には、必ず添付を確認しましょう。
さて、こちらもバイクの年式で分けられており、1999年(平成11年)以前の車両には添付の必要がありません。
また、排ガス規制対象車であっても、もともと純正マフラーに触媒がなかった車両、さらには装着した社外品マフラーがスリップオンの場合で、エキゾーストパイプ内に触媒が残してある場合もガスレポは必要ありません。
このように、車検を通す際には、騒音検査と排ガス検査の両方に合格する必要があります。
片方でも落ちれば車検を通せないので注意してください。
また、まれにあるのがマフラーの劣化による不合格です。
10年以上経つような車両の場合、純正マフラーでも経年劣化等によりマフラー内部に機能低下が起こりうるので、頭に入れておいてください。
マフラー交換は簡単にできる? 難しい?
マフラーの交換は、分解整備について基本的な知識と技術があるならば、スリップオンタイプであれば比較的簡単にできるものです。
連結部のバンドやスプリング、ステー等をボルトで固定するといった作業になります。
スリップオンタイプの場合はセッティング等を変更しなくても、軽量化やドレスアップ、音質変化も気軽に実感できます。
フルエキゾーストタイプの交換は、エンジンのシリンダー部の根元から全てを外して行います。
エキゾーストパイプが複数に分割されていればスプリング等で連結する必要がありますが、各パイプやステーの固定の際にも仮締めを少しずつ行いバランスを取りながら締めていくなど経験が求められる作業があります。
また、予め新品のガスケット類を用意するなどの準備も必要ですし、外されるマフラーに付いているO2センサーや排気デバイス(上写真)を外したりと専門的な知識も必要になるので、初心者がやろうとするとけっこう大変です。
ショップにまかせてしまうのが安心・確実かもしれません。
マフラーはレース業界のみならず、カスタムの定番として幅広くユーザーに人気のあるパーツです。
目的は様々だと思いますが、一度交換してみるのも楽しいと思いますよ。