バイクは機械なので乗れば乗るほど各部が劣化していきます。
日光の紫外線に焼かれたり強い衝撃で壊れたり、雨水の浸水で電子機器が故障することもあります。
ひとつの部品がダメになることでバイクが動かなくなったり、灯火類が切れたまま走っていたら警察に止められることもあります。
こうならないために「日常点検」と定期的な「法定点検」が法律で定められています。
本記事では簡単にできる日常点検のやり方と法定点検について説明します。

バイクの日常点検

ヤマハ「126cm3以上メンテナンスノート(2015年時)」

バイクの日常点検は道路運送車両法第47条で定められていて、ユーザーには自分のバイクを保守管理する責任があります。
点検内容はバイクに付属しているメンテナンスノートにかなり細かく記載されています。

以下の1~9は法律で定められた日常点検の項目で、10はバイクメーカーが指定した点検項目となっています。
日常点検は、その日の運行開始前に1回行うこととされています。
点検項目とやり方については各車(各社)のメンテナンスノートに記載されています。

なお、点検後の各部の調整・整備には工具が必要な場合もあります。
日常点検の多くは車載工具でまかなえますが、中古車などで車載工具が装備されていない場合は別途購入しておくと安心でしょう。

1.前後ブレーキのレバー(ペダル)の遊び、効き具合

ブレーキは最も重要な保安部品です。バイクにとって最も危険なことは止まらないことだからです。
ブレーキレバー、ブレーキペダルともに遊び(レバーやペダルを動かしてからブレーキが効き始めるまでの作動距離)を確認し、必要ならば遊びを調整します。

また、ブレーキパッドの残量やブレーキローターの状態も確認します。パッドの厚みが薄かったりブレーキローターにヒビや傷がある場合はすぐに交換しましょう。
特にパッドが無くなってしまうとブレーキが効かなくなったり、ブレーキローターを傷つけてしまいます。

ドラムブレーキの場合はブレーキパッドではなくブレーキシューの残量確認をします。
ブレーキアームの残量インジケーターや遊びの大きさで確認できます。この場合はアジャストナットを締めこんで調整します。

2.ブレーキ液(ブレーキフルード)

ディスクブレーキ装着車両の場合はブレーキオイルの量を確認します。
オイル窓から見てブレーキオイルが減っているということはブレーキパッドがすり減って薄くなっていることを意味します。
その場合はパッドの厚みも必ず点検し薄くなっていたら交換してください。

なお、ブレーキオイルも劣化するので、黒ずんでいる場合は早めに交換しましょう。
オイルが劣化しているとブレーキの効きが悪くなったり効き始めのタッチが悪くなったりします。

3.エンジンオイル

エンジンオイルはエンジンの状態維持にとって重要です。
エンジンを暖気後に車体を垂直に立てて3分くらい待ってからオイル窓をのぞきます。オイル窓のない車両はオイルゲージを引き抜いてレベルで確認します。

オイルの量がUPPERとLOWERの間にあればOKです。少なすぎる場合はオイルを補充しますが、入れすぎるとクラッチが切れないなどトラブルの原因になるため注意しましょう。

また、エンジンオイルはバイクに乗っていなくても酸化して劣化していきます。オイルの色が黒ずんでいたり乳化(水分が混ざりコーヒー牛乳のような色)している場合はすぐにオイル交換をしましょう。
オイルが漏れたりにじんだりしている場合は修理が必要です。

4.灯火装置と方向指示器

灯火装置とはヘッドライト(前照灯)、テールランプ(尾灯)、ブレーキランプ(制動灯)のことで、車種によってはポジションランプ(車幅灯 ※ヘッドライトの左右で常時点灯しているランプ)やフォグランプ(霧灯)を備えるものもあります。また、方向指示器とはウインカーランプのことです。

これらのランプが正しく点灯するかどうかをスイッチを入れながら確認します。ヘッドライトについてはハイビームとロービームの両方で確認しましょう。
エンジン始動後にライトが暗いと感じたらバッテリーが弱っている可能性があるのでバッテリーの充電または交換を検討してください。

また、多くのバイクで採用されているハロゲンバルブ(ハロゲン球)は内部のフィラメントが切れる前に周囲のガラス面が黒ずむ(フィラメントが付着する)ことが多いので、たまに外側のレンズを外してバルブの色を確認し、黒ずんでいたら交換すると安心でしょう。

バルブが切れていると整備不良(道路交通法第63条)で警察に止められるだけでなく、事故につながる可能性もあるのでしっかり確認しましょう。

5.タイヤ

タイヤもブレーキと同じようにバイクを止めるという点においてとても重要なパーツです。
タイヤの空気圧は低すぎても高すぎても「走る、曲がる、止まる」に悪影響を与えます。指定の空気圧の値はスイングアームなどに貼られているステッカーで確認しましょう。メンテナンスノートにも必ず記載があります。


次にタイヤの表面をしっかり見て、溝の深さ、亀裂や損傷、異常な摩耗がないかを確認します。
クギなどの異物が刺さっている場合はその場で抜かずにガソリンスタンドやバイク販売店までゆっくり走っていき修理してもらいましょう。(※チューブタイヤはガソリンスタンドでは修理できないことがあります)

また、タイヤの交換時期の目安のひとつとしてスリップサインがあります。
タイヤのサイドウォール(側面)にある△マーク(△マークの代わりに文字やアイコンの場合も ※上写真はメッツラー社の象のイラストがマーカーです)からタイヤ表面の中央に真っ直ぐ目をやっていくと、溝の中にスリップサインがあります。

スリップサインが表面に現れたら溝の深さが0.8mm(道路運送車両法での規定値)しかないということなので、雨天や悪路の走行時にはグリップしにくく、パンクやバーストのリスクも高まるため、なるべく早くタイヤ交換をしましょう。

6.冷却水

水冷式のエンジンの場合は冷却水(ラジエーター液、クーラント液、LLC(ロングライフクーラント)とも呼称)の量も確認します。確認方法には2つあり、ラジエーター本体のキャップを外して見る方法とリザーバータンク(半透明のプラスチック製が多い)を外側から見る方法です。

基本的にはリザーバータンクに刻まれているレベルを見て、クーラント液がUPPER(MAX)とLOWER(MIN)の間にあればOKです。

ラジエーター本体のキャップを外して確認する場合はエンジンが完全に冷えてから行います。エンジンが熱い時に外してしまうと熱い蒸気が吹き出して危ないからです。

冷却水を補給する時はリザーバータンクから補給します。あまりに冷却水が減っている場合は冷却水が漏れていないかを確認しましょう。

7.エンジンのかかり具合など

エンジンがスムーズに始動するか、始動時に変な異音がしていないかなどを確認します。始動時にエンジン内部から異音がする場合は早めにバイク販売店で見てもらいましょう。

始動時にセルモーターの回りが弱々しい場合はバッテリーの電圧が低下している可能性があります。
開放型バッテリーの場合はバッテリー液の量を確認し少ないようなら補充します。
メンテナンスフリー(MF)型バッテリーの場合は外からは確認できませんが、サーキットテスターなどを使って電圧を確認し、電圧が低い場合はバッテリー用充電器で充電します。

8.低速・加速の状態

アイドリングがスムーズに続くかをタコメーターなどで確認します。またスロットルを徐々に開けてみてエンストやノッキング(ガクンガクンとなる)を起こすことなくエンジンがスムーズに回転するかどうかを確認します。

9.運行において異常が認められた箇所

バイクに異常が確認できた時は必ず整備工場のあるバイク販売店で点検整備を受けましょう。

10.チェーン

ドライブチェーンは走行距離が増すにつれて伸びていくものです。
チェーンが伸びると張りが弱まって緩くなり、目に見えてだらーんとたるんだりします。
緩みすぎると走行中にチェーンが外れたりして危険です。

チェーンの中央あたりを指で上下に動かして、その範囲(遊び)が規定値にあるかを確認し、緩すぎるようなら張りを調整します。
あまりにもたるんでいる場合はチェーンの寿命ということもあります。その場合はチェーンを新品に交換します。

チェーンの遊びの点検は自分で簡単にできますが、遊びの調整やチェーンの交換は少し難しいのでバイク販売店にお願いするのもよいでしょう。

乗車前点検のポイント

ネン=燃料
オ=オイル
シャ=車輪
チ=チェーン
エ=エンジン
ブ=ブレーキ
ク=クラッチ
トウ=灯火類
バ=バッテリー
シメ=締め付け(ボルト・ねじ等)


燃料(ガソリン)はメーター内の残量計のほか念のためタンクキャップを開けて目視で確認しておくと安心です。


ボルト・ネジの増し締めについては、指で各部ボルトの頭を回すようにチェックしてみましょう。
同じ車両に長く乗っていると次第にゆるみやすいボルトやネジがわかってきます。
カスタムパーツやスマホホルダーのネジなどもゆるみやすいので忘れずにチェックします。


オイル交換を自分でするという方はドレンボルトも確認しておきましょう。


特に、ロングツーリングの前後などは増し締めについてしっかり確認するとよいでしょう。

簡易チェックは「ブタと燃料」

「ネン オ シャ チ エ ブ ク トウ バ シメ」の点検項目をさらに絞り込んだものが下記の略語になり、次の4項目を覚えやすく略したものです。

「ブタと燃料」
ブ=ブレーキ
タ=タイヤ
と=灯火類
燃料=燃料

この4項目はバイクに乗る上で本当に大事なもので、止まるためのブレーキとタイヤ、夜間走行や法規走行の要となり被視認性により自身の安全も確保するための灯火類、ガス欠にならずに走り続けるための燃料(ガソリン)です。

バイクの法定点検

法定点検(定期点検整備)は一定間隔ごとに行う少し大がかりな点検整備ですが、これも道路運送車両法で全てのバイクに実施することが義務付けられています。12か月ごとの33項目と24か月ごとの51項目の2つがあります。

なお、251cc以上のバイクはさらに車検(自動車検査登録制度による継続検査)を受ける必要もあります。

※本項の写真はすべてヤマハ「126cm3以上メンテナンスノート(2015年時)」のものを使用しています。

日常点検と法定点検の違い

日常点検が常日頃から実施できる簡単な点検であるのに対して、法定点検は専門的な知識や技術、テスターなどの専門機器や特殊工具も必要となるなど少し大がかりな点検となっています。

どちらの点検もユーザーの義務であり、メンテナンスノートに添付されている点検内容なのでユーザー自身で行ってもかまわないのですが、法定点検の場合は前述のように専門的な点検整備が必要となるため国の認証を受けた整備工場のあるバイク販売店に依頼するのが安心です。

なお、中古車を購入した場合はメンテナンスノートが添付されていないこともありますが、部品と同じようにメーカーに注文できるので安心してください。

ちなみに、車検のない250cc以下のバイクにも点検の義務はありますから、年月や走行距離などを参考にユーザー自身で管理すると良いでしょう。

車検と法定点検の違い

車検と法定点検の最も大きな違いは、車検は「検査」であり、法定点検は「点検」であることです。

車検について

車検は安全な運行に必要な保安基準や公害防止など環境対応基準に適合しているかを検査するもので、合格しなければ継続してその車両を使用することができません。
新車購入後の最初の車検は3年後ですが、2回目以降は2年ごとに受けなければいけません。

車検を受けずに無車検(車検切れ)で公道を走行すると道路運送車両法違反となり、罰則として6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が課され、違反点数6点となり、前歴に関わらず一発で免許停止または免許取消となります。

法定点検について

法定点検は車両の性能を維持し車体の故障やトラブルの発生を防ぐための予防的な点検整備で、点検の結果次第で車両に乗れなくなるなることはなく、一般ユーザーが乗る自家用車両の場合は点検を受けなくても罰則はありません。

ただし点検を行わないと法律違反にはなります。車両の状態や整備の内容などを記した点検記録整備簿も一定期間保管しておくことが法律で定められています。

点検内容は道路運送車両法第48条に定められている所有者の義務に関する点検項目で、メーカーが発行するメンテナンスノートに添付されている点検整備記録簿に沿って項目ごとにチェックしながら行います。

法定12ヶ月点検とは

33項目の点検項目があり、ブレーキ関連の「制動装置9項目」、エンジン関連の「原動機9項目」、タイヤ関連の「走行装置4項目、クラッチ関連の「動力伝達装置5項目」、ステアリング関連の「かじ取り装置1項目」、プラグ・バッテリー関連の「電気装置3項目」、フレーム・給油状態など「車体2項目」になります。

法定24ヶ月点検とは

12ヶ月定期点検をベースにハンドルの操作具合やフロントフォークの損傷・曲がり具合など、さらに細かく51項目の点検を行います。

2種類の点検とバイク乗車前の点検「ブタと燃料」を確実に!

日常点検と法定点検について説明しました。電子制御が増えてきた昨今のバイクだとユーザー自身がしっかり行なえるのは現実的には日常点検までとなるでしょう。法定点検はバイク販売店などでしっかり定期的に見てもらうことをお勧めします。

日常点検は乗車前にしっかり行うことが重要ですが、バイクを生活の足として使っている人ほど「乗車前点検なんてするヒマないよ」という人もいるかもしれません。

しかし、バイクに長年乗ってみて様々なトラブルを経験してみると、乗車前の「ブタと燃料」だけは忘れてはいけないなと感じます。ブレーキ、タイヤ、灯火類、燃料の確認なら1分以内に終えることができます。安全運転とトラブル防止のために、ぜひ習慣にしてください。

筆者プロフィール

田中淳磨

二輪専門誌編集長、二輪大手販売店、官公庁系コンサルティング事務所等に勤務ののち二輪業界で活動するコンサルタント。二輪車の利用環境改善や市場創造、若年層向け施策が専門で寄稿誌も多数。