お酒を飲んで運転することが飲酒運転です。飲酒運転はそれ自体が厳しく罰せられる行為です。

また、飲酒運転により人身事故などを起こした場合は、道路交通法に留まらず刑法などで重い罰を課せられることもあります。
しかも、社会的な信用を失うことで、職や家族、友人をも失う可能性があります。
まさに一瞬の気の緩みが人生を台無しにしてしまう、それが飲酒運転です。

飲酒運転に関する罰則や行政処分、飲酒運転をしない・させないためのアドバイスについても説明します。

飲酒運転とは


飲酒運転とはお酒を飲んだ後など、体内にアルコールの影響がある状態で運転する行為です。
体内にアルコールが残っていると認知・判断・操作が正しくできないことがあり、交通事故の要因となる危険性が高いため、重大な道路交通法違反とされています。

アルコールが運転に与える影響

アルコールの接種が運転時に危険とされている理由は、アルコールが持つ麻痺作用により、注意力、判断力、情報処理能力、危険察知能力、平衡感覚などが低下し、正常な判断や操作ができない状態になるためです。

こうした状態で運転してしまうと、速度超過や信号無視、誤った操作を起こしやすくなり、横断中の歩行者を見落としたり、ガードレールや電柱に接触したり、カーブを曲がり切れないといった事故を起こしやすくなります。

飲酒運転による交通事故の特徴

警察庁とも連携しているイタルダ(財団法人 交通事故総合分析センター)の分析研究によると、飲酒運転による交通事故の特徴は以下になります。

単独事故

飲酒運転による事故で最も多い事故形態は単独事故で約6割です。
また、死者数の約7割は運転者・同乗者ですが、第三者の死者数も約3割となっています。

信号の見落とし

飲酒による知覚能力低下により信号や歩行者を見落として、あるいは認知しても反応が遅れてしまい、他車・他者と事故を起こすケースです。

高速走行中の事故

飲酒運転により居眠り運転に近い状態となり、漫然と運転して前方注意を怠り追突といったケースです。

二輪車による事故

一般道での速度超過による衝突など、バランスを取りながら運転する必要がある二輪車の場合、飲酒の影響を特に受けやすいとされています。

夜間の事故

飲酒運転の特徴として、夜(22~6時)にお酒を飲んだ後での運転というケースが多く全体の約6割を占めています。

飲酒運転の行政処分と罰則


道路交通法第65条第1項「酒気帯び運転等の禁止」での交通違反となる飲酒運転は、「酒酔い運転」と「酒気帯び運転」の2つに分類されています。
呼気1リットル中のアルコール濃度の測定と、客観的に見てアルコールが原因で正常に運転できない状態という2つの判断基準があります。
どちらも厳しい行政処分と罰則があります。

酒気帯び運転

酒気帯び運転とは

呼気1リットル中のアルコール濃度0.15mg以上、または血液1ml中に0.3mg以上のアルコール濃度を含んでいる状態で車両を運転することです。

酒気帯び運転の行政処分

アルコール濃度により違反点数や行政処分の内容が変わります。
なお下の表は、前歴及びその他の累積点数がない場合です。前歴や累積点数がある場合は欠格期間(※)がさらに長くなることがあります。
また、呼気中アルコール濃度が0.15mg/l以上0.25mg/l未満の酒気帯び運転でも、他の違反と一緒に取締りを受けるなどした場合は、免許停止ではなく免許取消しになることもあります。

酒気帯び運転の種別 違反点数 行政処分と刑罰
呼気中アルコール濃度

0.15mg/l以上0.25mg/l未満

基礎点数

13点

●行政処分(免許停止:90日間)

●刑罰(3年以下の懲役又は50万円以下の罰金)

呼気中アルコール濃度

0.25mg/l以上

基礎点数

25点

●行政処分(免許取消し:欠格期間2年間)

●刑罰(3年以下の懲役又は50万円以下の罰金)

※欠格期間:運転免許の取消処分を受けた者が、運転免許を再度取得することができない期間

なお、酒気帯び運転は数値による判定なので、養命酒やウイスキーボンボン、ラム酒入りケーキなどのお菓子をたくさん食べた後だとアルコールチェッカーで引っ掛かる恐れがあり、実際に検挙例があります。
その場合、言い訳はできませんので、運転前にアルコール入りの食品を口にする際は注意してください。

酒酔い運転

酒酔い運転運転とは

呼気中のアルコール濃度とは関係なく、まっすぐに歩けない、片足立ちができない、ろれつが回っていなくてうまく話せない、質問への受け答えがおかしい、呼気のにおいなど客観的に見て酔っぱらっている状態で車両を運転することです。
なお、アルコールチェックで濃度が基準値に満たない場合でも酒酔い運転で検挙される可能性はあります。

酒酔い運転の行政処分

酒酔い運転は酒気帯び運転よりも重く厳しい処分が設定されています。

判定基準 違反点数 行政処分と刑罰
アルコールの影響により車両などの正常な運転ができない恐れがある状態 基礎点数

35点

●行政処分(免許取消し:欠格期間3年間)

●刑罰(5年以下の懲役又は100万円以下の罰金)

※欠格期間:運転免許の取消処分を受けた者が、運転免許を再度取得することができない期間

なお、酒酔い運転の判定は、その人がどれくらい酔っぱらっているかであり、飲んだお酒の量は関係ありません。
お酒をなめるだけで酔ってしまう方もいますから、運転前の食事に含まれるアルコール成分・含有量などにも気を使いましょう。

過失運転致死傷罪(自動車運転過失致死傷罪)


飲酒運転により人身事故を起こした場合は、酒気帯び運転または酒酔い運転の他に、さらに厳しい刑事罰が下され、過失運転致死傷罪(自動車運転過失致死傷罪)で逮捕されます。
もともとは刑法211条1項の業務上過失致死傷罪で処罰されていましたが、悲惨な飲酒死亡事故を契機に2014年5月に自動車運転処罰法第5条に移管・施行されました。

罪名 法定刑罰
過失運転致死傷罪 7年以下の懲役刑・禁錮刑または100万円以下の罰金

酒気帯び運転と過失運転致死傷罪は併合罪となり、成立すると10年6か月以下の懲役または150万円以下の罰金刑になります。
また、酒酔い運転と過失運転致死傷罪が併合すると10年6か月以下の懲役刑または200万円以下の罰金刑の範囲で処断されることになります。

過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪

アルコールを体内から抜くために人身事故現場から逃走したりすると「過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪」という加重類型で処罰されます。

罪名 法定刑罰
過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪 12年以下の懲役刑

危険運転致死傷罪

アルコールの影響で「正常な運転が困難な状態」または「正常な運転に支障が生じる恐れがある状態」で車両を走行させて人身事故を起こした場合には危険運転致死傷罪で逮捕されます。
自らの運転が危険であると認識していたという点で過失運転致死傷罪より厳しい刑罰となります。

正常な運転が困難な状態 法定刑罰
人を負傷させた場合 15年以下の懲役刑
人を死亡させた場合 1年以上の有期懲役

 

正常な運転に支障が生じる恐れがある状態 法定刑罰
人を負傷させた場合 12年以下の懲役刑
人を死亡させた場合 15年以下の懲役刑

その他の飲酒運転に関連する罪名


飲酒運転に関連する犯罪には以下のようなものもあります。

呼気検査拒否罪

検問などでアルコール検査に応じない罪

緊急措置義務違反

飲酒運転などにより交通事故を起こし、その場から逃走する罪

報告義務違反

飲酒運転などにより事故を起こしたのに警察に報告しない罪

車両・酒類提供者、同乗者が問われる罪

次項で解説します。

周囲への罰則

飲酒運転を根絶するために2007年9月の改正道路交通法により飲酒運転が厳罰化されるとともに、車やお酒の提供者、同乗者にも厳しい罰則が科せられるようになりました。
提供者や同乗者は状況によっては逮捕後でも起訴されないというケースもありますが、基本的には「自分の身も危なくなる」と理解してください。

運転者の飲酒運転種別 車両等を提供した者 酒類を提供した者

車に同乗した者

酒気帯び運転 3年以下の懲役又は50万円以下の罰金 2年以下の懲役又は30万円以下の罰金
酒酔い運転 5年以下の懲役又は100万円以下の罰金 3年以下の懲役又は50万円以下の罰金

飲酒運転の社会的制裁


飲酒運転の怖いところは、刑事罰だけでなく、いろいろな社会的制裁を加えられる危険性が高いことです。
プロスポーツ選手が飲酒運転で検挙されてチームを解雇されたなんて報道を目にすることもありますが、一般人でも次のような制裁を受ける恐れがあります。

①勤務先を解雇されて職を失う
②学校から除名される、内定が取り消しになる
③家族・友人・恋人など周囲の人からの信用を失う
④新聞やニュース、SNSなどで報道される
⑤運転免許を失う
⑥被害者がいた場合、損害賠償請求などの民事賠償責任を負う

飲酒運転をしない・させないために


飲酒運転に関する罰則は道路交通法に留まらず刑法などにおいても多岐に渡ります。お酒を飲んだらバイクには絶対に乗らないということを徹底させましょう。
バイクには運転代行サービスはありませんが、公共交通機関やタクシーを呼んで帰りましょう。

飲んだら乗らない

悲惨な事故を二度と起こしてはならないということで、飲酒運転の厳罰化が進みました。
お酒に強いから、1杯だけだから、自宅はすぐ近くだから大丈夫といった一瞬の気のゆるみが人生を台無しにしてしまいます。

飲んだら乗らないを徹底すべきですし、それでも飲んでしまった方に備えて、運転代行業者が全国各地にいます。
運転代行サービスは、自動車運転代行業の業務の適正化に関する法律第2条によって定義された、各都道府県の公安委員会に認定された職業です。

飲酒などで車を運転できなくなった利用者の代わりに運転代行業者のドライバーが依頼人の車を運転する物です。なので、現場には通常2人1組で向かいます。ちなみに、依頼人の車を運転するドライバーには二種免許が必要となります。

なお、二輪の場合は二種免許が存在しないなど要件を満たせないため、二輪の運転代行業は現在存在しません。もし、バイクでお店に来てお酒を飲んでしまったら、その日は電車やタクシーで帰り、翌日以降にバイクを取りにくることになります。

もし、バイク仲間がお店にバイクでやってきて、お酒を一杯でも飲んでしまったら、帰りは絶対にバイクに乗らないように言って聞かせてください。夜間は検問も増えます。

アルコール分解時間を理解する

飲酒運転となる飲酒量は体内のアルコール分解時間がポイントとなります。
アルコールの分解能力には個人差があり、何時間寝ればアルコールが抜けるというわけではありません。
人によっては一晩ぐっすり寝て、それでも翌朝アルコールが残る方もいます。

アルコールの分解時間をシミュレートするスマホアプリなども人気ですが、あくまでも目安であって、アプリの結果を元に運転の可否を判断するのは危険です。

飲酒運転は免許を持つ者にとって絶対にやってはいけないこと


飲酒運転について説明しました。厳罰化が進んだのは2006年に起きた「福岡海の中道大橋飲酒運転事故」がきっかけでした。
加害者の22歳(当時)男性が懲役20年の刑となったこの事故のいきさつを事例として読んでいただければ、今回紹介した厳罰の数々の意味がわかります。

免許を持って公道に出れば、道交法違反などで検挙される経験は一度や二度はあるかもしれません。免許停止になったり数万円の罰金を払うこともあるでしょう。
それでも、飲酒運転だけは絶対にしてはならない。これは、バイクも車も関係なく、免許を持つ者にとって絶対に破ってはならないルールです。
家族や友人のためにも安全運転を第一に考えましょう。

筆者プロフィール

田中淳磨

二輪専門誌編集長、二輪大手販売店、官公庁系コンサルティング事務所等に勤務ののち二輪業界で活動するコンサルタント。二輪車の利用環境改善や市場創造、若年層向け施策が専門で寄稿誌も多数。