バイクに乗り始めようとしている方やすでに乗っている方の多くが一度は言われたことがあるのではないでしょうか、「バイクは危ない」と。
筆者にも経験があります。バイクのことに興味がない方や、クルマはカスタムするほど大好きな方からも一方的に言われることのある言葉ですよね。
では、バイクの何が危ないのか? なぜ危ないという認識が浸透しているのか? 危険への準備や対処は?といったことについて説明します。

バイクが危険な乗り物と言われる理由

バイクが危ないと言われる理由のひとつに交通事故に遭った際の致死率の高さがあります。
また、その他にもバイクの特性などがその理由に挙げられます。

バイクは事故時の致死率が高い乗り物

バイク事故の特徴として運転者の致死率が高いことが挙げられます。
発生件数(母数)自体はクルマや自転車に比べて少ないのですが、運転者が死亡に至る割合が多いのです。
コロナ禍以降の2023年はバイク事故が増えた年となりましたが、自動二輪車(50cc超)でクルマの約4.4倍、原付でクルマの約1.9倍の致死率となってしまいました。

バイク事故の致死率(2023年)

状態別 重傷者数(A) 軽傷者数(B) 死者数(C) 死者数構成率(%) 致死率【C÷(A+B+C)】(%)

 

自動車乗車中 7074 209181 837 31.3 0.39
自動二輪車乗車中 4056 19190 391 14.6 1.7
原付乗車中 2574 13321 117 4.4 0.73
自転車乗車中 6716 63239 346 12.9 0.49
歩行中 7171 32474 973 36.3 2.4
その他 45 554 14 0.5 2.3

※政府統計「道路の交通に関する統計/令和5年中の交通重傷事故の発生状況/表2-2-11 状態別死者、重傷者、軽傷者数の推移」(2023年)より

体がむきだし

バイクはクルマと異なり、衝撃を緩和するボディや運転手を直接衝撃から守るためのエアバッグ・シートベルトといったものがありません。
事故時にはライダーが他車や路面、ガードレール・電柱といった道路構造物などと衝突することが多く、頭部・胸部といった致命傷につながりやすい部位にダメージを受けやすいのです。

第5回自工会二輪車委員会メディアミーティング配布資料より引用

簡単に速度が出る

クルマに比べて軽量かつ加速性能の良いバイクは瞬間的なスピードを出すことが容易です。排気量が小さくてもパワーウェイトレシオ的にスポーツカーなどのクルマよりもダッシュが速いモデルがたくさんあります。また、1000ccを超えるような大型バイクの中には300km/h近くまでスピードを出せるモデルもあります。

なお、原付一種の最高速度が30km/hで規制されている理由のひとつに、事故発生時の速度と死亡率の関係があります。原付一種運転者が交通事故の第1当事者だった場合、30km/hを超えた場合の交通事故の死亡率は30km/h以下の事故死亡率の約3倍になるというデータです。

速度を上げると事故が増えるということもありますが、それ以上に事故発生時の死亡率が高まってしまうのです。

安定性が低く自立しない

バイクには加速が良い、スピードを出しやすいという特性がありますが、その割にはタイヤと路面の設置面積が小さく、急ブレーキをかけた場合などちょっとした操作で直進安定性を失いやすく、直立しておくことも難しい状態となります。
なお、走行中に転倒してしまうと滑走し、大けがにつながることもあります。

死角に入りやすい

バイクは車体が小さいため、クルマの死角に入りやすい乗り物です。右直事故が多いのも、並走するトラックの影に入ってしまい対向車からバイクが見えなくなったり、ドライバーの遠近錯視によりバイクが遠くに感じられるなど目測を誤ることが衝突の原因になっています。

遠近錯視とは、大きさの小さなものほど「遠くにあるように、遅いように見える」という脳の錯覚です。
クルマのドライバーが遠近錯視により「バイクはまだ遠くにいるしスピードも遅く見えるからいけるだろう」と右折を始めてしまい直進するバイクと衝突するというのがバイク事故で最も多いとされる「右直事故」の典型です。

昔は三ない運動があった

1970年代、峠のローリング族や暴走族が社会問題となったことから、1982年からPTAが主導して、高校生に「バイクの免許を取らせない」「バイクを買わせない」「バイクを運転させない」という3つのバイク禁止スローガンを掲げた三ない運動が始まりました。

全国的な運動展開は2017年に終了しましたが、35年ほどの間に「バイクは危険な乗り物」という認識が社会に定着してしまいました。
また、現在でも地域全体あるいは校則に従って免許の取得やバイクに乗ることを禁止している学校は数多く残っています。

バイクに安全に乗るためには?

バイクに乗っていると、家族や知人から「バイクは危ないからやめたほうが良い」と心配されることもあります。安全に乗るためには自分がバイクに向き合う姿勢が大切になります。

安全運転の徹底

安全運転で最も大切なものは無事故・無違反に代表されるような「安全運転への意識」です。
これがなければ何も始まりませんし、意識の低い人ほど公道で危ない目に遭っていると言っても過言ではありません。
ですから、バイクは「(意識がゆるんでくる)慣れたころが一番危ない」と言われています。

安全運転への意識を徹底するためには、バイクに乗る前のルーティンづくりがお勧めです。
ちょっとした体操、ブタと燃料(ブレーキ、タイヤ、灯火類、ガソリン残量)などの車両点検、乗車前の周囲・後方確認、乗車後のミラーチェックなどをしっかりやることです。
電車の車掌さんも行っている指差し確認の“指差し”を体に覚え込ませるのです。

定期的に安全運転講習会やライディングスクールなどに参加することもおすすめです。
ウインカーを出すポイントや安全確認など、なあなあになっていたところや運転操作の変なクセを取り除くこともできます。
忙しくて参加できないよという方にはYouTubeなどの安全運転動画もありますよ。

参考サイト

日本二輪普及安全協会「Basic Riding Lesson」

自分にあったバイクを選ぶ

これはとても難しい問題です。
バイクはとても高価な買い物ですから、自分が欲しい、本当に乗りたいと思うモデルに乗ることが一番良いと思うのです。

しかしクルマと違ってほとんどのバイクはシートの高さやハンドルの位置などを気軽に変更することはできません。

あまりにも足つきが悪い、バイクが重すぎて立ちゴケが怖いといった場合は排気量の小さい、重量の軽い、足つきの良いバイクに乗り換えるのも手です。
乗りやすいバイクでバイクの扱いに慣れてから大きなバイクへのステップアップを考えてみるのもよいと思います。

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正しい装備

長そで長ズボンにヘルメット(+シールドまたはゴーグル)とグローブ、くるぶしの隠れるブーツというのが装備の基本です。さらに、ひじ・ひざ・肩・脊髄・胸部のプロテクターを装着しておけば万が一の転倒・事故などの際に安心です。

ヘルメットは安全規格に適合しているものを選びましょう。高価なものほど安全であるという傾向はありますが、まずは国内メーカーのものを選ぶとよいでしょう。

胸部プロテクターにも安全規格(JMCA・CE)がありますが、ハードタイプはおよそ5,000円以上と高価です。
手が出ないなという場合は、ウェアメーカーが販売しているソフトタイプ(ウレタン製・ラバー製など)でもよいので装着するようにしてください。これだけでもケガの程度を軽減させることができるんです。

一番よくないのは「何もつけていない」状態です。
安全運転と同じく自分ができることをムリなくやろうという“意識”が大事ですよ。

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バイクは危険な乗り物だという認識を常に持つ

走行中に考え事をしていたり、急いでいたり、音楽やインカム通話に夢中になっているなど、少しでも他のことに気を取られていると事故につながりやすくなります。

ちょっとした油断が単独転倒や他車との接触事故につながるということを忘れてはいけません。
バイクの運転中は遠くの道路状況に目をやって、潜んでいる危険を次々に察知して予測し「かもしれない運転」を心がけてください。

事故を起こさないベテランライダーの運転は視界の中の視線の送り方や予測(かもしれない運転)・認知・判断・操作が優れています。
予測ができているから素早く認知でき、予測ができているから操作の準備が判断の前に行われています。
例えば、交差点に入る前に少しでもリヤブレーキをかけておき速度の勢いを抑えておくといった操作がこれにあたります。

事故にあってしまった場合に備え、必ず任意保険に加入する

公道を走行する以上、自分がどれだけ気を付けていても「もらい事故」などに遭ってしまうリスクはあります。
「自分は事故を起こさない」は間違いで、「事故は誰にでも起こる」ものなんです。

ですから、万が一に備えて任意保険(バイク保険など)に加入しておくことが必要です。
強制保険の自賠責保険だと補償の範囲が狭く、対人賠償(相手のケガ)に限られてしまいます。自分自身のケガや相手のクルマ、道路構造物などの物損は補償されません。

加入内容にもよりますが、任意保険に入っていれば自分のケガやバイク、相手の車両や物まで補償することができるので安心です。

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ドライブレコーダーを装備する

「バイクは1人で乗る」という人も多いと思いますが、通勤・通学・ツーリングなどで交通事故に遭った際には証言者が少ないというのが実情です。
任意保険での補償の際には相手方との過失割合(責任の割合)が重要となりますが、バイク事故の場合はライダーが意識を失うということも多く、相手方の証言だけでは不利な判断を受ける恐れがあります。

これを防ぐためにも、いまバイクにドライブレコーダーを装着するライダーが増えています。事故の衝撃を感知して、自動でその前後の映像を録画・保存するという機能も一般的となっています。この映像があれば、過失割合でもめることを防げるほか、ひき逃げなどに発展した場合の警察の捜査にも有効な手がかり・証拠映像となります。

かつて、バイク事故は、「死人に口なしだから自分に過失がなくても(自分に責任がなくても)気をつけろ」などと言われることもありましたが、ドライブレコーダーのおかげでライダーの正当性も説明しやすくなりました。
バイクや自分の体だけでなく、運転者の人格を守る、運転の正当性を主張するという意味でも装着をおすすめします。

「バイクは危ない」に対して周囲への安全運転啓発を

バイクは危ないという認識は、バイクに乗らないノンユーザーの間で固定観念化している傾向があります。
特に若年層がバイクの免許を取りたいと家族や知人に話した途端、「危ないからやめなさい」と言われる確率はかなり高いと言えるでしょう。

バイクに乗るということは、クルマ以上に様々な準備が必要になりますが、そのうちのひとつに周囲への安全運転啓発があります。
これは各人・各家庭で様々に行われていることですが、要は「安全運転を守る、危ない運転や違法な改造はしない、事故に備える」といった準備です。

こうした安全運転に関する宣言や確約をして、はじめて免許取得やバイク購入・乗車が許されるというものです。
また、実際に乗り出してからも「自分は安全運転に配慮している」ということを周囲に公言し、家族や知人にも安全運転を啓発していくことが大切です。

「胸部プロテクターを買って使っている」「ヘルメットは安全規格で選んでお金をかけた」「任意保険に加入した」「ドライブレコーダーを装着した」

こうしたことを有言実行していくことで「バイクは危ない」という固定観念を自分の身近な人たちから少しずつ変えていくことができます。
それをライダー一人ひとりから社会全体に広げていくことが、結果的に自身が長くバイクに乗り続けられる環境を作っていくことでしょう。ぜひ取り組んでみてくださいね。

参考サイト

一般社団法人 日本二輪車普及安全協会運営サイト「グッドマナー JAPAN RIDERS(ジャパンライダーズ)」

筆者プロフィール

田中淳磨

二輪専門誌編集長、二輪大手販売店、官公庁系コンサルティング事務所等に勤務ののち二輪業界で活動するコンサルタント。二輪車の利用環境改善や市場創造、若年層向け施策が専門で寄稿誌も多数。