スゴイぞ!いまどきのABSは軽量小型・高性能!
公開日:2020.09.15 / 最終更新日:2023.08.09
ABSはタイヤをロックさせないという安全装置です。急ブレーキをかけた時、塗れた路面や砂利道などで強くブレーキをかけた時にスリップダウンしないための装備です。近年、進歩が目覚ましいABSについてご紹介します。
1.タイヤのロックは即転倒につながる
ABS(アンチロック・ブレーキ・システム)はなぜ必要なのか。一言で言えば、バイクを転倒させないためです。バイクが転倒する要因はたくさんありますが、日常的な移動からツーリングシーンまで、特に多いのがタイヤをロック(ブレーキロック、ホイールロックと同義)させてしまうことです。※トップ写真はBOSCH社提供
タイヤのロックとは、急ブレーキなどによりタイヤの回転を止めてしまうことです。走行中にタイヤの回転が止まると、タイヤが路面とのグリップ(摩擦)を失ってしまい、慣性を保ったままの車体は一瞬で滑り出して転倒につながるのです。いわゆる「ブレーキの握りゴケ」と呼ばれるものです。
バイクは、前後に別々のブレーキがついていますが、フロントブレーキをロックしてしまうと、ほとんどの人は立て直すことができずにステン!と一瞬で転んでしまいます。ちなみに、白バイ隊員にはフロントタイヤをロックさせた状態での制動訓練があります。
逆にリヤブレーキのロックであれば、バイクがお尻を振るだけでグリップを取り戻すことも多く、転倒せずに済むこともありますし、オフロード走行などではリヤタイヤをわざとロックさせることでバイクの向きをくるりと変える技術もあります(ブレーキターン)。
2.タイヤロックはどんな時に起こるのか
では、タイヤはどんな時にロックしやすいのでしょうか。主に、急制動をする時と滑りやすい路面を走っている時です。ブレーキレバーをガッと一気に握りこむような操作をすると、タイヤと路面の摩擦よりもタイヤとブレーキの摩擦が大きくなり、タイヤの回転が止まって(ロックして)、タイヤが滑り出します。これを防ぐために、急制動時にはポンピングブレーキ(入力と解除を繰り返す)をする必要がありますが、これを自動でやってくれる安全装置がABSです。
また、滑りやすい路面では、タイヤと路面の摩擦が少ない状態であり、そもそもタイヤが空転しがちなため、少しのブレーキ操作でもロックしやすいのです。
■タイヤロックを起こしやすいシーン
①急制動をかけた
道路脇からクルマや人・動物が飛び出してきたので急制動をかけた
※特に加速した直後に急制動をかけると車体が前後しロックしやすい
②オーバースピード時にブレーキをかけた
カーブにオーバースピードで進入してしまい、ブレーキを掛け過ぎた
※フロントタイヤに荷重がかかる下りカーブで起きやすい
③路面状況が悪い時にブレーキをかけた
雨天時や道路に砂・土が浮いている時など路面の摩擦が低くなっていた
④道路構造物の上でブレーキをかけた
マンホールや白線、道路標示、側溝、道路のつなぎ目の鉄板上など摩擦の低い路面
特に気を付けたいのは、街中を走っている時や山間部の朝方などで遭遇しやすい「クルマや人、動物の飛び出し」です。ビクッと驚いてしまい瞬間的にブレーキレバーをガッと握ってしまうと一瞬で転倒してしまいます。
特に加速直後でこうした状況になると、車体が前後に振られて(反動がつく)荷重がフロントに掛かってしまい、いつもと同じ感覚でブレーキレバーを握ったつもりでもタイヤをロックさせやすいので注意が必要です。
3.ABSはタイヤをロックさせない装置
バイクが転倒してしまうと自損(単独)事故では済まない可能性もあります。そこで、タイヤをロックさせない安全装置であるABSが必要とされ、世界各国で義務化が進んでいます。日本国内では、新型モデルへの装備は2018年10月からすでに適用済みであり、継続・並行輸入モデルも2021年10月から義務化されることが決まっています。※トップの図はBOSCH社提供
ABSはドイツの機器メーカーであるBOSCH(ボッシュ)社が先駆者ですが、現在もトップシェアを誇り、国内外を問わず数多くのバイクに採用されています。その進化は目覚ましく、国内メーカーに採用されだした15年ほど前のABSだと作動時に「ガク、カタ、ガク、カタ、ガクッガクン!」という感じで大きなキックバック(振動)がありました。それにより停止直前で立ちごけしてしまったなんて話も聞いたものです。
4.各種センサーと連携した現在のABSはスゴイ!
しかし、現在のABSは本体が小型軽量化しただけではなく、作動時は「カタタンッ…」という感じでショックも少なく、「いまABSが効いていたの?」というくらい制動時の車体挙動に影響を与えないほどに高性能化しています。※トップの図はBOSCH社提供
よく、バイクのカタログなどに「ABSは制動時の停車距離を短くするものではありません」と書かれていますが、15年前に比べると確実に(結果的に)短くなっています。それくらい、現在のABSは優秀です。※写真は2015年開発の1チャンネルABS「BOSCH ABS10 light」
「ABSは嫌いだ。かえって制動距離が長くなる」「カーブの手前で効いてしまうとバイクが立ってしまってスーッと進み、かえって危ない」「国内メーカーはキャンセルできないからなぁ」なんて声もありましたが、現在のABSを体感すれば、そうした不満は出ないでしょう。
特に、センサーモジュールを各部に装備した最先端のスポーツバイクであれば、傾斜センサーやトラクションコントロールなどとの連携により、車体が傾いている時でも(バンク中でも)ABSが作動するようになっています(コーナリングABS)。
例えば、コーナーリング中にカーブの出口に動物が飛び出してきて、ガッとブレーキを握ってもタイヤがロックしない、スリップダウンしないのが、電子制御化された現在の最先端バイクなんです。ひと昔前には考えられなかったバイクの挙動ですね。※図は「Honda CRF1100L Africa Twinシリーズ」
ちなみに、ダート走行をすることが前提となっているオフロードタイプや一部のアドベンチャータイプのバイクにはABSのキャンセルスイッチが付いているので、リヤタイヤを滑らせて走ることも可能です。※写真は「Honda CRF250RALLY」のABSキャンセルボタン
5.排気量50cc超のバイクには1チャンネルABSが普及
ABSの義務化により「50cc超(原付一種は実際の排気量は49ccなので免除)~125cc」のバイクには、ABSまたはCBS(コンビブレーキ)の装着が義務付けられました。100ccや125ccといったクラスのバイクには、どちらかの装置を付ける必要がありますが、どちらもコストに反映することもあり、前輪のみにABSを備えた1チャンネルABS装着車が増えています。※トップ写真は1チャンネルABSを採用した「Honda CT125ハンターカブ」
また、コンビブレーキに関しても大型車のように「リヤをかけたらフロントも、フロントをかけたらリヤも」という双方向ではなく、「リヤをかけたらフロントも効く」という一方向タイプが主流です。
ABSはなかなか試す機会がありませんが、心配ならば、「1チャンネルか2チャンネルか?」「どこ製のABSか?」を確認するとよいでしょう。
また、コンビブレーキの効き方によっては、フロントが効きすぎるものもあり、リヤブレーキを引きずりながら走りたいような場面(極低速バランスや一本橋など)では運転しづらいものもあります。この辺は、試乗してフィーリングを確かめることをお勧めします(特に安価な海外製EVバイクなど)。
いかがでしたか。「ABSなんていらないよ」ではなく、不測の事態に備えつつも、スポーツ走行での安全性をさらに高めている現在のABSをぜひ体感してみてください。