冬の気候はバイクにも様々な影響を与えます。中でも、エンジン始動のための重要なパーツであるバッテリーは気温が下がるほど弱りやすくなるため、定期的な電圧のチェックが必要です。今回はその方法をご紹介します。

1.バッテリーの電圧低下とは? その原因と対処法


冬場に多いのがバッテリーのトラブルです。電圧低下によりエンジンがかからない、電熱アイテムが使えないといったトラブルから、寒さによってバッテリー内部の化学反応が弱まり、バッテリーそのものが寿命を迎えてしまうことも珍しくありません。

また、昨今は、USBソケットやDCソケット、グリップヒーター、ETC車載器といった後付け電装品のほか、電熱ジャケットなど電熱アイテムへの給電による消費電力の増加が目立ち、バッテリーの電圧低下を起こしやすくなっています。本来、後付け電装品を装着する場合は細かな電力計算をすべきです。基本的な考え方は以下です。

電圧低下を招く原因は、増えすぎた消費電力

【考え方】バイクの発電量を上まわらないように、消費電力の合計を抑える
【計算式】オルタネーターの発電量 > 消費電力の合計(ライト等の純正電装品 + バッテリーへの充電 + 後付け電装品) ※電力の単位はW(ワット)

後付け電装品を含めた消費電力の合計が、オルタネーター(バイクの発電機)の発電量を上まわってしまうと、バッテリーに充電されなくなってバッテリーの電圧低下を招きます。この状態がしばらく続くと、バッテリー上がりになってしまいます。ちなみに、オルタネーターの発電量はカタログ等には記載されておらず、サービスマニュアル等で調べなければわかりません。

よくあるバッテリー上がりのケース

オルタネーターの発電量はエンジンの回転数によって変動します。アイドリング程度では上記の式を満たせないことも多々ありますが、とりあえず走り出すことはできてしまいます。さらに、高速道路などでは高回転域での走行となって発電量が増えるため、問題なく使えているような気になってしまいます。しかし、ここが落とし穴です。

「サービスエリアで休憩した後に出発しようとしたらエンジンがかからない(セルモーターが回らない)」という事態になるのです。

これは、走行中にバッテリーへの充電が十分にできなかった(オルタネーターが発電した電気を電熱ウェアなどの後付け電装品が使ってしまった)ために、バッテリー本体への充電が十分に行われず電力不足の状態となり、エンジンを始動させるだけの電圧が無くなってしまったからです。

電圧低下によりエンジンがかからなくなったら

さて、バッテリーの電圧が下がり、バッテリー上がりの状態になってしまったらとても焦りますね。しかし、まずは落ち着きましょう。

電源OFFで数分待ち、バッテリーの電圧が少し回復するのを待ちます。カイロなどでバッテリーを温めるのも有効です。そして、再度セルスタートしてみましょう。それでもダメなら押しがけとなります。なお、押しがけはバッテリーが完全にダメになる前にトライすることが重要で(特にインジェクション車)、セルモーターが少しでも動くうちにトライしてください。ただし、スクーターやスリッパ―クラッチ(バックトルクリミッター)搭載車、DCT搭載車等の特殊なバイクは構造上押しがけができません。

それでもダメなら… 他者の助けが必要です。ジャンプスターターを借りる(最近はモバイルバッテリータイプを携帯している人も増えている)、ブースターケーブルなどで他車とつないで電気を送ってもらう、ロードサービス等を呼ぶなどするほかありません。なお、ジャンプスターターはかなり小型化しているため、消費電力に不安のある方は、常時携帯しておくことをお勧めします。

また、グリップヒーターやUSBソケットの中にはバッテリー保護機能を持つものもあります。バッテリーの電圧が低下すると警告ランプで教えたり、電流をカットしてバッテリーの電圧がそれ以上下がらないようにしてくれます。こうした製品は安心感が高いのでお勧めです。

バッテリー電圧低下の兆候

バッテリーの電圧が低下すると、次のような兆候が現れます。特に、数km走るだけで帰宅するようなチョイ乗り、エンジンのオンオフを繰り返すような乗り方、数か月ほど乗らずに放置していたバイクに乗る時は、こういった症状を見逃さないでください。

・エンジンのかかりが悪い(セルモーターの回りに元気がない、息をつく)
・ヘッドライトが暗く感じる
・走ってる時はヘッドライトが明るくなり、止まると暗くなる
・後付け電装品を使うとエンストしそうになる

なお、こうした症状はレギュレーターの不調・故障でも現れますので、いきなりバッテリー交換をするよりもバイク販売店での点検をお勧めします。

2.バッテリーの電圧を計る。サーキットテスターが必要


さて、電圧低下を起こさないためにも、バイクの発電量と消費電力のバランスを保つことの重要性を紹介しました。しかしバッテリー本体にも寿命はあります。10年も長持ちしたなんて話も聞きますが、通常の使用であれば3~5年といったところです。

冬場は外気温の低下によりバッテリーの電圧が下がりやすくなるため、出先でのバッテリー上がりの危険性が高まります。使用してから3年を経過しているようなバッテリーなら、定期的な電圧のチェック(計測)や充電を行うようにしましょう。

バッテリー電圧の計り方

バッテリーの電圧を計ってみましょう。ここで紹介する方法はとても簡易なやり方です。厳密に計測する場合は専用の機器等を用意する必要がありますが、目安とする分には十分な方法です。

①サーキットテスターを用意する
バッテリーの電圧を計るためには「サーキットテスター」という工具が必要です。電圧や電流、抵抗などを計ることができます。ホームセンターなどで2,000~3,000円くらいで購入できますし、電装品の装着には欠かせない工具なので1つ持っておくと良いでしょう。テスターにはアナログ式(メーター針)とデジタル式(液晶表示)があります。

【テスターに表記される文字の基本的な読み方】※機種により異なります
V(VOLT)=電圧、DC(Direct Current)=直流、AC(Alternating Current)=交流、DCV-=直流測定ゾーン、ACV~=交流測定ゾーン、DCA=電流測定ゾーン、Ω=抵抗測定ゾーン

②ダイヤルを「V-(直流・DC)ゾーン」の測定レンジに合わせる
バイクに流れている電気は直流の12Vなので、12V以上で一番近い数値であるDCVの15Vや20V、50Vといった位置に測定レンジを合わせます。

なお、小さすぎるレンジに合わせるとテスターが壊れてしまうことがあるので注意が必要です。写真のテスターだと、DC150mAに合わせたままバイクの12Vバッテリーを計測すると一瞬でテスター内のヒューズが飛んで、テスターが動かなくなってしまいます(ヒューズを交換すれば直ります)。

また、電圧がわからないものを計るときは、テスターのヒューズが飛ばないように、最大レンジ(下写真だとDCV500)から使い、テスターの反応を見ながら徐々にレンジを下げていきます。


③テスターの針(テストリード)をバッテリーの端子に当てて計測する
黒色(マイナス)のテストリードの針をバッテリーのマイナス端子に当て、赤色(プラス)のテストリードの針をバッテリーのプラス端子に当てます。この状態でテスターの目盛り又は数字を読みます。


【計測方法①】エンジン停止状態で測定 
目盛りが12V前後ならOK、11V以下ならバッテリーが弱っており、10V以下は充電を
目盛り又は数字を読んで、バッテリーの電圧が低下しているようなら充電器で充電します。バッテリーには、開放型、MF(メンテナンスフリー)型、リチウム式がありますが、電圧低下時の基本的なメンテナンスは、充電することです。

充電後に測定してみて10V以下を示すようならバッテリーの寿命の可能性もあります。充電については下記の記事を参照してください。

●関連記事「充電器を使ってバッテリーをいつも元気に!」
https://www.8190.jp/bikelifelab/news/riders-blog/2016/160217/


なお、旧車などで使用されている開放型バッテリーは中の液体が少しずつ減っていくため、減っているようなら補充してから充電してください(※実際にはMF型バッテリーの液もわずかに減ります)。バッテリー液が減ったまま使い続けると爆発や火災の危険もあるので、定期的な液面レベルのチェックが必要です。また、バッテリー液は希硫酸なので取扱いに注意が必要です。液を入れすぎると、かえって性能が落ちたり、あふれて周辺のパーツを侵してしまうのでUPPERレベルを越えないようにしてください。

また、リチウムイオンバッテリーの場合は、通常の鉛蓄バッテリーとは充電器のタイプが異なり、リチウムイオンバッテリー専用充電器が必要となります。

【計測方法②】エンジン始動状態で測定 
目盛りが14V前後ならOK、12V以下だとバッテリーへの充電ができない
今度は、エンジンを始動して測定します。オルタネーターからの発電が始まっても電圧が上がらない場合はオルタネーターの故障の可能性があります。逆に、回転数を上げてみて15Vを超える場合はレギュレーター(オルタネーターで発電された交流の電気を直流に整流する等の役割を持つパーツ)に不具合がある可能性があります。どちらが壊れても、バッテリーへの充電ができなくなり、エンジンが始動できなくなりますので、早めにバイク販売店等で点検・交換してもらうことをお勧めします。

いかがでしたか? バッテリーの電圧低下はエンジンの始動不能につながるため、普段から注意しておく必要があります。電圧の測定、または定期的な充電をすることで、トラブルを回避することができます。まずはサーキットテスターや充電器の扱いに慣れておきましょう。

筆者プロフィール

田中淳磨

二輪専門誌編集長、二輪大手販売店、官公庁系コンサルティング事務所等に勤務ののち二輪業界で活動するコンサルタント。二輪車の利用環境改善や市場創造、若年層向け施策が専門で寄稿誌も多数。