クラッチレバーを握らなくてもペダル操作だけでシフトチェンジできる機構がクイックシフターです。慣れてしまえばこんなに便利なものはありません。サーキットを走らないツーリングユーザーにも超オススメですよ。

1.クイックシフターは、レースの世界で求められた機構


まだまだ聞きなれない「クイックシフター」という言葉ですが、元々はサーキット走行用に開発された機構で、レーサーマシン(公道走行不可)ではかなり普及が進んでいるものです。なぜ、レースで必要にされたかと言うと、シフトチェンジを素早く行うためにクラッチ操作のロスタイムを少しでも減らすためです。コンマ何秒の世界でベストタイムを出すために求められた機構なんです。

レース中に頻繁に行われるシフトチェンジですが、クイックシフターが装着されていると走行中は「クラッチレバーを握る」という操作が必要ないので、タイムロスやミスが減り、ライディングに集中できます。特に、ミスにつながりやすいシフトダウン時のブリッピング(クラッチレバーを握った瞬間に一瞬だけアクセルをあおってエンジンとタイヤの回転を合わせる)を自動で行ってくれるのが魅力です。

2.クイックシフターで広がる、サーキット走行の楽しみ


さて、レースの世界から広がったクイックシフターですが、公道走行モデルでも、スーパースポーツ系を中心に標準装備されたり、オプション設定(後付け可能)される車種が増えてきました。「たまにはサーキット走行を楽しみたいけど、ブリッピングは上手にできないし、シフトチェンジは苦手なんだよなぁ」という方には、クイックシフターはとても魅力的な機構です。

250ccクラスで大人気のホンダ「CBR250RR」のレースベース車にもクイックシフターが標準装備されています。サーキット走行の初心者でもシフト操作に苦手意識を感じることなく、アクセル操作やブレーキング、ライン取りに集中することで競争する技術を磨くことができます。


また、CBR250RRの2020年モデルには、クイックシフターがオプション設定されています。シフトアップ・ダウンに対応していて、オートブリップ機能により素早いシフトチェンジが楽しめます。公道走行モデルでもサーキット走行を楽しみたいという方には嬉しいオプションです。

●CBR250RR(’20~)用純正アクセサリー「クイックシフター」
税抜価格:23,000 ※取付工賃は別途

3.ロングツーリングでも「ラク、便利、疲れない!」


レースの世界で開発されたクイックシフターは、サーキット走行を楽しみたいというビギナーライダーにこそメリットがあります。しかし、それだけではないのが、クイックシフターの魅力なんです。各バイクメーカーのラインナップを見ているとわかりますが、クイックシフターはスーパースポーツ系のモデル以外にも、ネイキッドモデルやツアラーモデルにも搭載されてきています。

これは、クイックシフターの副次的なメリットである「ラク、便利、疲れない!」ということが多くのライダーに支持され、注目されてきた結果と言えます。クイックシフターが搭載されたバイクでも、発進・停止時だけはクラッチレバーを握る必要がありますが、走り出してしまえば、シフトペダルとアクセル操作だけでシフトチェンジができます(※シフトアップしかできないクイックシフターもあります)。


クラッチレバーを握らなくていいというだけで、街乗りでもツーリング中でも疲労感が全く違ってきます。肉体的な疲労は精神面にも影響してくるので、バイクに乗ること自体のストレスにも関わります。ですから、「最近、バイクに乗るとすぐに疲れてしまう…」という方には、クイックシフターは特にオススメなんです。

筆者も、ロングツーリングからの帰り道で渋滞にはまった時は、その恩恵を実感できました。普段なら、渋滞にはまった時には、もう左手から肩のあたりが疲れているのが常でしたが、クイックシフターのバイクでは疲れがたまっていないため、渋滞中の発進・停止や低速走行がとても楽に感じたのです。

「これはもう、ロングツーリングの必需品じゃないか! 」

そう感じました。

4.クイックシフターの扱いにはコツが必要


さて、クイックシフターはまだまだ進化の途上です。公道走行モデルに装備されるようになって数年が経ちましたが、標準装備する車両も少なく、車両によってはシフトアップのみのクイックシフターもあります。用品メーカーから後付けできるクイックシフターも販売されていますが、車種もそれほど多くなく高価です。

また、クイックシフターのシフトアップ・ダウン時には操作に関する条件があり、その条件は車両によって異なります。さらに、同じ条件でも車両によって「ギヤが入りやすい、入りにくい」などのユーザビリティはかなり違ってきます。

例えば、カワサキ「Ninja 1000SX(上写真)」とカワサキ「Ninja ZX-25R SE(下写真)」にはどちらも「Kawasaki Quick Shift(KQS)」と呼ばれるクイックシフターが標準装備されていますが、排気量の大きな「Ninja 1000SX」の方が、コツが必要です。

例えば、2速から1速にシフトダウンする時は、回転数が既定の2,500rpmに近い状態ではシフトが入らない(入りにくい)ことがあります。また、シフトダウンできたとしても大き目のショックを感じることがあります。

どちらの車両にもスリッパ―クラッチが搭載されているので、シフトダウンをミスしてもリヤタイヤがホッピング(はねる)したりスネーキング(蛇行)するという心配はありませんが、構造的に排気量の大きなエンジンの方が、シフトダウンには気を使います。これは、他メーカーのクイックシフター搭載車両にも当てはまります。

●Ninja 1000SX・Ninja ZX-25R SEに採用される「Kawasaki Quick Shift(KQS)」
・基本条件:クラッチレバーを引いた時は作動しない。エンジン回転数が約2,500rpm以下では正しく作動しない。繰り返し作動させる時にはシフトペダルを完全に戻す必要がある
・シフトアップ時条件:スロットルを開けていること。閉じていると作動しない
・シフトダウン時条件:スロットルが全閉であること。エンジン回転が高い時(レッドゾーン付近)には作動しない

〇Ninja 1000SXのシフトペダルとKQS

ただ、こうした慣れやコツの部分を含めても、クイックシフターはメリットの多い機構です。サーキット走行を楽しみたい方、ロングツーリングを快適にしたい方、通勤・通学で疲れたくない方など多くのバイクユーザーにオススメできます。試乗車やレンタルバイクなどで、ぜひ一度体感してみてください。

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筆者プロフィール

田中淳磨

二輪専門誌編集長、二輪大手販売店、官公庁系コンサルティング事務所等に勤務ののち二輪業界で活動するコンサルタント。二輪車の利用環境改善や市場創造、若年層向け施策が専門で寄稿誌も多数。